政策提言「新しい勤勉(KINBEN)宣言―幸せと活力ある未来をつくる働き方とは―」【2】

磯山友幸(経済ジャーナリスト)×小林庸平(三菱UFJリサーチ・アンド・コンサルティング副主任研究員)×鈴木崇弘(PHP総研客員研究員)

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磯山友幸氏(経済ジャーナリスト)

2、働き方の前提は変わってきている
 
鈴木 本プロジェクトをやって、驚くぐらいに関連の資料が出てきました。またヒアリングで、いろんな取り組みが行われていると感じました。
 本提言の重要なポイントは、広い視野や長期的なスパンから見ていることです。今、国会や行政で行われている働き方の議論は重要です。しかし、それだけでは、日本の次の社会やその働き方の問題は解決できないと、本プロジェクトをやればやるほど感じました。
 その意味で、現場に行ってヒアリングをしたことは非常に重要で、かつ貴重な情報だと思っています。
 
磯山 ヒアリング現場で最も感じたのは、企業活動や働き方の前提が、産業革命以来の工業中心のスタイルからサービス業へとシフトし、付加価値を上げる視点からの働き方を求めるように、世の中が大きくシフトしてきていること。結果、従来のルール・法律、働き方の慣行が合致しなくなっているのです。それが最大の問題で、世の中もそれを十分に理解し、今新しいものを求めているのです。
 
小林 現在の労働法制は、仕事が苦役だった時代の考え方をベースにしていると思います。そのため、例えば使用者側の権利を縛り、労働者の時間を管理するルールを決めています。自分の意思で労働時間や働き方を変えるのが難しい仕事もあるので、そうした仕事は現行の労働法制の中で対応していくしかありません。ただし、AIなどの普及で、ルーティンではない仕事の領域が徐々に増えるでしょう。
 産業構造の変化を中長期的にみると、自然に働きかけることで生産活動を行う第一次産業に始まり、原材料を加工する第二次産業、そしてサービス等の第三次産業に移行してきた。これはペティ・クラークの法則(注1)ですが、その先があると考えています。例えばサービス業でも定型的な業務もあれば、新しいものを生み出す業務もあります。また製造業と言っても、IoT(注2)と結びつけば、従来の産業分類の類型がピタッとはまらなくなる。
 足元では、従来の働き方の枠組みの中で裁量労働などの議論がされ、企業の実例が増えている段階ですが、エッジの立つ組織や人が新しいことを始めて、制度が追いつくことになるでしょう。本提言の意義は、その追いつく速度を加速することです。
 
(注1)ペティ・クラークは、「第2次大戦後オックスフォード大学に戻り、53年より69年まで同大学農業経済学研究所所長を務めた。代表的著作《経済進歩の諸条件》(1940)においてクラークは、産業を第1次産業、第2次産業、第3次産業に区分し、経済発展に伴い一国の産業構造の比重が第1次産業より第2次産業へ、ついで第3次産業へ移るという経験法則を発見」(出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)、ペティ=クラークの法則と名付けた。
(注2)IoTとは、「コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと」(出典:IT 用語辞典e-Words)
 

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