政策提言「新しい勤勉(KINBEN)宣言―幸せと活力ある未来をつくる働き方とは―」【1】

小峰隆夫(法政大学教授)×小島貴子(東洋大学准教授)×永久寿夫(政策シンクタンクPHP総研代表)

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8.財政の健全化には働き方の変革だけでは不十分
 
永久 ところで、少しショッキングなのが、今回行った経済と財政の将来推計の結果です。「新しい勤勉」が浸透していって働き方が変わっても、GDPはそれなりに伸びていきますが、プライマリーバランスはそれほどよくなりません。小峰さんが提言書の冒頭に書かれていましたけれど、働き方を変えることは一つの必要条件でしかなく、その他にいろいろやっていかないと、わが国の繁栄を保てないということですね。
 
小峰 財政、社会保障、産業、企業、労働、いろんな構造改革が必要だと思うのですが、それらに一番広くかかわっているのが働き方だとは思うのです。つまり、それらの構造改革はそれぞれに進めなければならないけれど、働き方を変えなければ、それらは容易ではないということです。
 例えば、企業や労働の構造改革には女性の社会進出が必要になってくる。一方、女性の社会進出は少子化につながり財政や社会保障の問題にも影響を及ぼす。これを解決するには、女性のワーク・ライフ・バランスを改めればよいとなるけれど、働き方を変えておかなければそれは進まない。それには保育園を増やすなどの少子化対策も充実させなければならない。
 また、働き方をもっと多様にして、働きたい人がどんどん労働市場に参加できるようになったり、自分の能力を最大限発揮できるようになれば、社会保障の構造を変えることにも役に立つ。つまり、働き方を変えることが財政の健全化に必ずしも直結するわけではなくて、さまざまな構造改革や関連する政策・施策も同時にきっちりと進めなければならないということです。
 
小島 私は、企業も余りなくて、一次産業も衰退していて、人口も減っているような地方都市において、新しいコミュニティビジネスがつくられたり、バウチャー制度というものが出てこないといけないと思っています。
 たとえば、私が保育士に今なれるかといったら、なれないのですが、子供は大好きだし、子供を産んだ経験もある。かりに大学の教員をやめて70歳でまだ元気だとします。子供を3時間とか4時間家に預かったりしたとき、対価はお金ではなくてバウチャー券でいいわけです。それをもらったら、市内の何か買えますとか、カラオケ行けますとかいったら、喜んで働くと思うのです。そうすることで、まだまだ価値のある労働力を再生させられると思うんです。
 社会構造の中で、ミニ東京をたくさんつくるのではなくて、その地域の中にある特性を生かしたコミュニティビジネスをつくっていくことです。将来はあの仕事がなくなります、この仕事がなくなります、という消滅の話ばかりが出てきますが、新しい職種をつくっていくために知恵を出すことが求められています。
 

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