政策提言「新しい勤勉(KINBEN)宣言―幸せと活力ある未来をつくる働き方とは―」【1】

小峰隆夫(法政大学教授)×小島貴子(東洋大学准教授)×永久寿夫(政策シンクタンクPHP総研代表)

 政策シンクタンクPHP総研は、9月16日、「新しい勤勉(KINBEN)-幸せと活力ある未来をつくる働き方とは-」という政策提言を発表し、同日、塩崎恭久厚生労働大臣に手交した。
 本提言は、働く人一人ひとりが幸福を感じ社会全体にも活力が生まれることを目指したもの。労働時間の長さを尺度とし、自分を犠牲にして仕事に励むというイメージが強い従来型の勤勉から脱却し、「時間当たりの生産性の高さ」を尺度とする「新しい勤勉」という価値観への転換を提唱する。そして、その価値観に基づいた新しい働き方の3原則とその実現に向けた7つの提言を示すとともに、これからの働き方の違いがもたらす経済や財政への影響に関する推計も行っている。
 今回は、この提言発表の母体となった研究会の座長、小峰隆夫・法政大学教授と同委員の小島貴子・東洋大学准教授、ならびに政策シンクタンクPHP総研代表の永久寿夫が提言の内容について話し合った。

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1.働き方に関する新しい価値観が必要
 
永久 すでに働き方に関する政策提言がいろいろ出されているなか、新たに提言を目的とした研究会を立ち上げた理由は、従来とは異なった働き方に関する思想や哲学が必要ではないかと思ったからです。つまり、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティといった言葉で表現される働き方の具体策は、日本がいま直面する課題を克服するための手段として重要だけれど、働き方に関する価値観を変えない限り、その実現は困難なのではないかということです。
 提言書で提示した「新しい勤勉」はまさに、そうした問題意識から生み出された新しい価値観です。一言でいえば「労働時間の長さ」ではなく、「時間当たりの生産性の高さ」をこれからの勤勉の尺度にすべきということで、それ自体は真新しい概念ではないかもしれませんが、この価値観を軸におくと、これまでに出された様々な政策提言の意義がより鮮明になり、変革を起こしやすくなるにちがいないと思っています。
 
小峰 日本はいま働き方の変節期にあるのだと思います。これまでの働き方は、少し表現が悪いですが、いまだ途上国的な段階にあると言えます。まずは人手と時間を使ってインプットをどんどん増やして経済力を高め、それを生活の充実に充てていくということです。ですが、結局、働く目的は一人ひとりの幸せにあるわけですから、ひたすら働くというところからそろそろ転換して、アウトプットやアウトカムのほうを重視すべきなのではないでしょうか。
 働くということは非常に身近な問題なので、誰でも一家言もっています。それだけに、議論が錯綜するわけですが、今回はそこをうまく、従来型の勤勉とこれからの勤勉という切り口で整理できたと思います。
 
小島 パラダイムシフトが起きているという問題の設定が、今回すっきりできたと思います。働き方がすでに変わりつつあるのに、働き方に関する価値観や感性は取り残されてしまった。「新しい勤勉」という概念は、働く人一人ひとりが、誰かに評価されるためではなく、自分自身のためにそれぞれ働き方の価値観を持つべきということでもあります。そのために必要な提言や具体策を、対象別、状況別に落とし込んでいるあたりが、多くの人に共感をもってもらえるのではないでしょうか。
 

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