エコ(省・蓄・創エネ)だけではない再エネの価値

大和田野芳郎(産業技術総合研究所)×佐々木陽一(PHP総研主任研究員)

 東日本大震災以降初となる政府の「エネルギー基本計画」では、新たなエネルギー政策の方向性のひとつとして、2030年時点での最適な電源構成(ベストミックス)のあり方が示された。現在、再生可能エネルギーを22~24%とする政策目標が固まりつつある。
 そうしたなか、被災地では、政府の「東日本大震災からの復興の基本方針」(11年7月)等を受けて、再生可能エネルギーを活かしたまちづくりが活発化しつつある。その中核を担う機関が、「再生可能エネルギー先駆けの地」を目指す福島県に14年4月に開所した、「独立行政法人産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所」(以下、福島研究所)だ。
 「世界に開かれた再生可能エネルギーの研究開発の推進」と、「新しい産業の集積を通した復興への貢献」を使命とする福島研究所。その旗頭を務める大和田野所長に、「被災地の復興と再生可能エネルギーによるまちづくり」について話を伺った。

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1.エネルギーセキュリティ上の再エネの価値をもっと評価すべき
 
佐々木 国全体のエネルギーのあり方を巡る議論が活発化しています。震災以降の再生可能エネルギー(以下、再エネ)の意義や価値の変化をどのように捉えているでしょうか。
 
大和田野 再エネの意義や価値がここ数年間で変わっているとは、全く思いません。再エネは、長期的に見れば、日本にとって唯一かもしれない純国産のエネルギー源です。これをできるだけたくさん使えるようにすることは、持続可能なエネルギー確保に至る必須条件です。この再エネが持つ意義や価値に対しては、どなたも異論ないでしょう。あとは、どうやって持続可能に至るか。それまでの過程をできるだけスムースに、しかも、早くやるにはどうしたらいいかについて、今、盛んに議論されていると捉えています。
 固定価格買取制度(以下、FIT)云々は、非常に短期的な話です。震災があろうとなかろうと、再エネは大事なのです。資源がほとんどない日本にとって、自前のエネルギーをできるだけたくさん持つことは、エネルギー供給のセキュリティ上も極めて大事です。この観点からの議論は、もっとされるべきだと思いますね。化石エネルギーを、手ぶらで外国から買ってくるという時に、どこの国が、何を証拠に安く資源を売ってくれるというのかということです。
 
佐々木 エネルギーセキュリティ上は、再エネを議論しないことの方がよほど大きなリスクになっているということですか。
 
大和田野 そうです。わが国のエネルギー源の全部とは申しません。再生可能エネルギー源の割合をできるだけ上げておく。しかも、技術力でその割合を向上させるという議論がもっと日本には必要です。
 
 
 

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大和田野芳郎氏(産業技術総合研究所)

2.エネルギー戦略に求められる「2本立て」と「繋ぎ」の要素
 
佐々木 わが国のエネルギー政策はつい近年まで、少ない資源の中でいかに限られたエネルギーを効率的に使うかという「省エネルギー」の話が主流でした。それが、東日本大震災を機に、にわかに「復興への貢献」という価値にも着目され始めました。ですが、先生のお話によれば、再エネ政策の起点は、わが国の純国産エネルギーを最大限使っていくべきという所にあるということですね。
 
大和田野 しばしば、省エネと再エネは対立関係にあるように言われますが、日本のエネルギーの将来を考えれば、短期的にエネルギーを効率的に使うという省エネと、長期的に再エネをできるだけたくさん取るようにしていくという「2本立て」が、わが国のエネルギー戦略の基本と言えるでしょう。
 そして、この短期と長期との間は、限りある化石資源をどう賢く使っていくのかという「繋ぎ」の問題だと考えます。つまり、わが国のエネルギー需給構造を全体として「一体的」に「賢く」、そして、最終的には「持続可能」な形態に持っていくということが重要です。
 
佐々木 エネルギー戦略の目標は「長期」である。化石エネルギーには、短・中期間の「繋ぎ」の役割は期待できるが、長期的にはその役割は果たし得ない。再エネこそ、長期的なエネルギー戦略を担うにふさわしいと言えるわけですね。
 
大和田野 はい。原子力も、今の技術のままでは石炭よりも先に枯渇するかもしれないので、化石資源と果たし得る役割は、全く同じです。
 

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佐々木陽一(PHP総研主任研究員)

3.福島研究所の3つの研究テーマ
 
佐々木 先ほど、わが国では、いかに純国産である再エネを最大限スムースに、かつ、有効活用できるようにするかが重要だという指摘がありました。その課題に対して福島研究所では現在、どのような研究を進めているのですか。
 
大和田野 福島研究所では、再生可能エネルギーを「できるだけ早く」「大量に使っていくための研究開発を行う」という再生可能テーマを掲げて研究を行っています。
 まず、「エネルギーシステム」です。エネルギーをインフラと一体で考える必要性が日に日に高まっています。奇しくも昨秋、電力各社で想定していた再生可能エネルギーの電力受入可能量を超過、または、超過する恐れのある状況が発生したため、各社が一定規模以上の系統への接続申込への回答を保留することを公表する事態、いわゆる「接続回答保留問題」が起こりました。電力系統は、変動の大きな再エネを受け入れるには、限度があることが広く知られるようになったのです。
 
佐々木 2030年度の望ましい電源構成(ベストミックス)案で掲げられた、再エネの電源構成比率22~24%は、限度なのでしょうか。
 
大和田野 いや、今言われている数字が限度とは言い切れません。電力系統にしても、もっといろいろな手を打てば、再エネの電源構成比率を上げられるはずです。実際、ドイツでは、現在でも電源構成全体の25%以上を再エネで賄えています。
 再エネは、発電量が時間的に変動し、場所によって偏りがあります。そのエネルギー源を上手く大量に使うための「技術」を開発していくことが重要課題です。具体的には、変動や偏りを補うための「貯蔵」や「輸送」に関する技術です。これらを電力だけでなく全体システムとして考えていく。福島研究所は、その技術開発に力を注いでいます。
 
佐々木 再エネを無駄なく効率的に使うための大切な要素技術ですね。各技術が確立し、システム全体が最適に稼働する時代が間近に迫っているという期待感が湧いてきます。
 
大和田野 研究テーマの2番目は、「コスト低減」です。再エネの導入コストは依然高いままです。既存の製品価格が徐々に低下してきているとはいえ、太陽光発電は、FITのように高い公的補助がなくては採算が合いにくい状況です。設備等の価格をもっと安くしないといけません。そして、コストダウンは、技術開発で実現を図らねばなりません。そこにこそ日本が生きる道があると思います。
 
佐々木 海外製のコストダウンも目覚ましいですからね。
 
大和田野 3番目の研究テーマは、「正確なデータ」を把握し、「開発リスクを下げる」ということです。把握したデータを活用して、社会環境への(悪)影響を抑えるとか、社会の地熱発電に対する受容性を高めたいと考えています。
 データについては、太陽光や風力の(賦存量)マップがずいぶん整備されてきましたが、地中深くから取り出した蒸気で直接タービンを回して発電する地熱発電に関しては、まだまだデータが不足しています。だから、「ここを掘っても蒸気が出なかった」というような事態がしばしばおこりかねません。データの把握や提供を通じて、こうした開発リスクを低減させることが望まれます。また、地熱発電の場合、温泉の湧出量低下を懸念される場合が多くあります。予め地質構造に関する正確で中立的なデータを提供することで、社会の受容性を高めていきたいと思います。
 
佐々木 データの把握は一事業者では担いきれない部分が大きいでしょうから、この取り組みは、福島研究所だからこそ成し得る事業とも言えますね。
 
大和田野 太陽光、風力もデータ不足の例外ではありませんよ。広域で発電量を計画・調整する場合、例えば、電力会社管内で明日の気象状況でどのぐらいの太陽光、風力発電が可能なのかは電力会社にとって非常に大事です。電力供給の事前計画を立てたり、30分後の電力需給を速やかに調節する必要が生じたりします。その判断材料となるデータは非常に重要です。
 
佐々木 電力需給量を最適な状態にコントロールするためのインフラとして欠かせませんね。
 
大和田野 データの必要性が高まっている理由は、再生可能エネルギーによる発電量がそれだけ増えつつあるからです。従来は、系統容量に対して無視できるぐらいの量でしたから良かったですが、今後は、これ以上電力を受け入れられないという事態が想定されます。となると、それが本当なのか、どうすれば電力をもっと有効に使えるようになるのかを、きちんと見極め、調整する技術を開発しなればなりません。
 

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4.技術開発でオプショナルなエネルギー利用を可能にする
 
佐々木 技術開発にはどんな問題があるのでしょうか。実際、被災地では、送電容量が足りず発電を放棄せざるを得ない状況も起こっています。そこで、蓄電池を整備する、あるいは、東北で発電した電力を東北以外に運ぶ、いわゆる広域連携で発送電することなどが話題になっています。福島研究所では、電力システムの全体最適化についてどのような研究構想をお持ちなのですか。
 
大和田野 電気を作る側からのアプローチとしては、「水素キャリア」の研究があります。つくり出した電気を化学物質に変換し、貯蔵・運搬できる化学物質として水素が着目されており、この水素を貯める物質を「水素キャリア」と呼んでいます。送電線の容量の制約により発電した電気が系統に受け入れられない場合に、キャリアに水素を効率よく貯蔵し、必要な場所に安全に運搬したり、必要な量だけ効果的に取り出す技術を研究しています。「本当に送電はダメですか?ダメならこの手があるよ」、あるいは、「送電線の整備費用と水素を製造して運ぶのとどっちが良いですか」などと選択できるようにすることを目指しています。
 
佐々木 それが実現すると、電力系統線が脆弱な地域からもエネルギーの移送が容易になりますね。
 
大和田野 離島での電力自給も可能になります。現在、離島では定期的に重油を船で運んできて発電機を回しています。そうではなく、太陽光、風力で発電したものを水素で溜めながら使う。自立的にエネルギーを供給できるのは、大きなメリットです。
 
佐々木 離島地域の生活インフラに画期的な変化をもたらしますね。
 
大和田野 そういう技術を、地域の電力系統の状況に応じて、きちんと使い分けることが必要ですね。つまり、「全部水素で溜める」、もしくは、「全部電気のまま送電するのではなく、状況に応じて使い分けられる」システムを作ることが大切です。だから、水素で溜めて再生可能エネルギーを使う技術として、水素キャリアの研究開発に取り組んでいるわけです。
 従来サイズの350気圧のボンベを積んで車を走らせることは現時点で可能ですが、それよりもっとたくさんのエネルギーを、何百気圧の高圧で巨大なボンベで運ぶことは無理です。安全上、巨大なタンクに何百気圧もの圧力をかけることはできません。そこで、有機溶媒に水素をたくさんくっつけて溜めておくとか運べるようにすると、タンクローリーやオイルタンカーで運べます。何カ月間もエネルギーを減らすことなく溜められるようにもなります。
 
佐々木 地域における電力の需給バランスに応じて、電気を溜める、運ぶなどのオプショナルな技術を作り込む。まさに、発電した電気の最適配置のための技術開発と言えますね。
 
大和田野 はい。これ以上太陽光発電が入りにくいと言われていますが、そうした技術が開発できれば、別に現在の電力系統に頼らなくても良くなります。東京に水素キャリアで水素を運びましょうということがオプションとして出てくるのです。
 
佐々木 なるほど。系統に頼らなくてもいいエネルギー輸送事業が可能になるのですね。
 
大和田野 「最終的には、電気にして使うのだから(その技術では)効率が悪い」という意見もあるでしょう。単に電気に戻すのではなく、もっと付加価値の高い使い方、たとえば燃料電池車の燃料として使う方法も考えられます。
 
佐々木 トヨタ自動車が水素で走る燃料電池自動車「MIRAI」を販売開始するなどの動きもあります。自動車産業には、水素キャリアのニーズがあるということでしょうか。
 
大和田野 燃料電池車に留まらず、水素を広範に使おうという機運が高まっていると思います。
 
佐々木 水素をオプショナルに使える技術開発の必要性が高まっている一方で、それにかかる研究開発コストも高くなってしまうというジレンマもあるようです。
 
大和田野 研究開発コストは、GDPや国家予算総額に比べれば本当に微々たるものです。むしろ、最後まで高い価格のまま使いなさいという方が消費者側の負担は大きいままです。現在の太陽光はそれをやっているわけですが、この形がいつまでも続くようではダメですね。きちんと他のエネルギー資源に比肩し得る程度にコストを下げる必要があります。
 

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5.「再エネ先駆けの地」を目指す福島県
 
佐々木 ひるがえって、東日本大震災から4年を経過するなか、原子力災害の被災地(避難解除区域等)が近傍にある研究機関という立場から、福島県における再エネの動向をどのように見ておられますか。
 
大和田野 福島県は現在、2040年に県内で生産される再エネの量を県内のエネルギー需要量と同規模になるように頑張るという目標を立てて、その実現に取り組んでいます。100%というのは目標として非常に分かりやすいと思います。今、目標の引き下げや実現性を騒ぐ段階ではないでしょう。
 
佐々木 国全体では東日本大震災を機に多くの再エネ政策が生まれています。同時に、時間の経過とともに、その政策を単なる発電設備の導入に留めず、その売電収益をまちづくりに貢献させようという議論へ発展してきています。事業化に至った例は多くはないですが、福島県では、再エネをテコに被災地の復興を促進させるための補助事業なども誕生しています。
 
大和田野 こと福島に関しては、脱原発という総意は変わらないと思います。ただ、FITがあるので、再エネをやれば事業者は儲かります、その儲けで復興しよう、という動きはしばらく続くでしょう。しかし、それだけでは、ちょっと短期的過ぎます。というのも、再エネが買取価格に大きく左右され、収支が合わないという話が早晩出てくるに違いないからです。
 ですから、原発や買取制度に依存しないで、きちんとやっていけるという地域モデルを示す重要性はさらに高まっています。
 
佐々木 そうですね。FITが短期間での再エネ普及に寄与するという側面はあるでしょうが、長い目で見れば、やはり、再エネの活用とその成果をいかに持続的に地域に取り込んでいくのかが大きな課題です。
 
大和田野 国の2030年頃を目標とする長期ビジョンでは、個人住宅はエネルギー的に自立できるようにする、補助的には系統電力に頼るでしょうが、家庭やコミュニティレベルでのエネルギーは、太陽光、地中熱などの利用でエネルギーの自立度を上げるという目標が掲げられています。
 福島県もまた、先述のとおり、率先して技術等を実証していくという「再エネ先駆けの地」になることを目標に掲げ、そのあり方を実践しています。とても正しい方向だと思いますね。
 
佐々木 家庭やコミュニティレベルのエネルギーの作り方や使い方、そしてライフスタイルのモデルを福島県から発信していくのは、とても意義深い取り組みですね。
 
大和田野 大規模な火力、原子力発電所の必要性が高いのは、大工場を有したり、製造業で大きなエネルギーを要する場合でしょう。そこでは、現在必要とするエネルギーをいきなり再エネで全部賄うことは無理です。東京のような大都市では再エネ導入適地に限りがありますし、何より消費量が莫大です。こうした地域でのエネルギー問題にどう対処するかについては、再エネを含めて段階的に、総合的に考えていく必要があるでしょう。
 一方で、福島県をはじめとする地方が、コミュニティでエネルギーの自立度をできるだけ上げていこうとするビジョンは立派な方法だと思いますね。
 
佐々木 おっしゃる通りです。一定の原発依存が必要とする世論は、経済成長を論拠とする場合が多いように見受けられます。それとは違う切り口で、こうした民生用、なかでも家庭やコミュニティレベルのエネルギーから自立モデルを実証するというのは、広く社会や国民への見せ方としても大変重要な試みだと思います。
 
大和田野 この福島研究所の施設でも1日最大700kW近い電力を消費していますが、研究施設内の太陽光、風力発電設備で、晴天の昼間はほとんど電気を買わずに済んでいますよ。電気代も下げられます。週末には発電量が余りますので、この分を平日に回しできるだけ電気を買う量を下げるための「貯蔵技術」も研究していることは、先ほどのご紹介の通りです。結果的に、実益も兼ねていることになりますね。
 
佐々木 研究所そのものが再エネの研究成果を目に見える形にし、さらに実用化する。まさにひとつの自立モデルですね。
 一方で、福島研究所は、福島県とも連携協定を結ばれて、多方面で再エネ普及に協力して取り組んでおられます。企業、自治体、住民からどんなニーズが研究所に寄せられていますか。
 
大和田野 非常に高い関心を持って頂いています。昨年1年間だけで4,930人が研究施設を見学されました。小学生、中学生、高校生、大学生も来られますが、その数は総計の3分の1以下で、やはり、産業界の方が多いです。
 産業界の関心の核心は、福島研究所の「技術」と「それを活かして何を目指しているのか」、「再エネ技術が次世代の新産業の核になれるか」だと思います。平成25年度後半から、福島県内を中心とする地元企業との共同研究がスタートし、27年度も25件が進行中です。
 
佐々木 共同研究の技術種別の内訳はいかがですか。
 
大和田野 太陽光と地熱が多いです。地熱発電開発だと企業は相当限定されてしまいますが、地中熱利用であれば、浅い地中数十mの井戸を使う研究が多数進められています。これは空調の省エネ技術として研究中ですが、割と簡単に実用化できそうな見通しです。実際に、すでにある井戸水を使った共同研究などを開始しています。
 太陽光発電にしても、初めて福島研究所に来る企業の多くが「太陽電池を作るなんて、半導体産業みたいでハードルが高いですよね」と言われますが、太陽電池を作る際に使用する薬品、電極を取りつける際に使う導電性ペーストの開発や軽量パネルを屋根に固定する際に使用する金具の開発など、さまざまな技術シーズがあります。
 
佐々木 再エネの技術シーズは多種多様なのですね。
 
大和田野 そうです。だから、シーズの多様性を部品や材料にブレークダウンして分かりやすく説明するよう努めています。企業に再エネ技術のシーズに気づいて頂けると、再エネが非常にすそ野の広い産業の上に成立していることをご理解頂けます。
 このように、研究所はいろいろな連携を試みています。今後は、もう少しIT技術との融合を図っていきたいと思っています。
 

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6.再エネの収益活用で地域を維持していく仕組みづくりを狙い続けよ
 
佐々木 PHP総研は、これまでに「地域主導型再生可能エネルギー事業を確立するために」(2012年)と「再エネ事業を地域主権型から地域貢献型へ進化させる」(14年)と題して、再生可能エネルギーをまちづくりに活かすため、特に、自治体に求められる政策や具体的な施策を提言しました。これを元に、福島県内の避難解除区域等を対象とする資源エネルギー庁の「再生可能エネルギー発電設備等導入促進復興支援補助金」(半農半エネモデル等推進事業)では、補助事業の執行業務を担う機会を得ました。
 これは、提言内容の実証実験とも言えます。すなわち、再エネ事業を単に発電設備の導入に留めず、その売電収益を活用してまちづくりに貢献する資金を地域還元させようというもので、被災地の地域経済活性化を支援するものです。このような事業の理念やスキームをどのように評価されますか。
 
大和田野 再エネで儲けるだけでなく、それを持続可能な形として発展させていくというアイデアは非常に必要な部分だと思います。ただ、再エネ売電の収益だけで本当にどこまで地域活性化できるのかは議論の的になると思います。とはいえ、再エネ売電の収益を大事な地域活性化の起爆剤として利用しながら、将来に向けて地域が自らを維持できる仕組みを作っていくという方向性自体は、今後も狙い続けていかなくてはならないでしょうね。
 半農半エネ事業の審査過程では、補助申請者の事業計画を自治体が事前了解しているかがチェック項目になっていますが、他の場合には、福島県も地元自治体も把握してない提案も多かったように聞いています。いろいろな軋みを残しています。そんな最中の昨年後半、接続回答保留の問題が起こったのです。
 
佐々木 再エネ事業の売電収益が地域復興に役立つようにするためには、やはり、自治体がその事業に主導的に関与できる制度設計が必要だと思います。その効果がより地域に貢献的に活用されたり、還元されやすくするための課題や対策については、どのようにお考えでしょうか。
 
大和田野 FITによって、太陽光パネルを買ってきて並べればとにかく発電できるという状況があったため、太陽光発電の普及が加熱しました。補助金は、その性格上、早期執行が求められますが、太陽光以外のエネルギー、たとえば、風力は現在、環境アセス等の手続きに時間がかかってしまう。その時間を短くすることが必要です。太陽光も、大規模な発電事業の場合には、一般発電所並みの発電事業者としてのチェックをもっと行うような仕掛けが必要だと思いますね。
 
佐々木 発電事業者としてのチェックとは具体的にどのようなものでしょうか。
 
大和田野 単に発電設備ができたからお終いではありません。特に、電力会社との発電計画の調整は重要ですね。風力発電は、発電規模が大きいですから、当然、この調整を最初から行っています。しかし、太陽光発電については、電線もないのに、とにかくパネルを設置するみたいな話が多かったですね。接続保留を機に、そういう計画は出力抑制を認めるというかたちで一旦は決着しましたが、出力をしっかりコントロールして、電力系統の維持に貢献するという意識は、太陽光全体では希薄だったように思いますね。
 大規模な発電計画は、出力抑制を見越して、立地条件もきちんと検討・選定されたところもありますが、問題になった件数が多過ぎました。単に地権者と話がついただけというものも多かったと聞いています。
 
佐々木 そうですね。出力抑制への事前対応をきちんとしている事業者としていない所のギャップは、相当大きかったように思います。
 
大和田野 東北電力の接続回答保留が始まった後に、福島県が緊急提言を行いましたが、その内容は大変良いものでした。やはり、事業者の計画がきちんと県・市区町村の地域戦略に則って実施されることがとても重要です。つまり、地域の復興整備計画や土地利用計画などのまちづくり計画に則り、この地域にはこんな風に太陽光パネルを並べるとか風車を置くとか、さらに、それらを使って地域コミュニティを再建するようにしないと、事業実現までに時間がかかるでしょうし、持続性のあるしっかりした計画にならないでしょう。わが国の再エネ事業も、単に普及するというところから、やっとそういうフェーズに入ってきました。
 
佐々木 その通りだと思います。今回先生から、短期的な視野にとらわれずに、いかに中長期的な視野の中で再エネを持続可能性の高い事業とするか、そのために必要な要素をいろいろご提示頂きました。
 なかでも、人材育成は息の長い取り組みが必要ですね。先ほど、中学生等が福島研究所に見学等で大勢来られているという話がありました。福島研究所の存在自体やその取り組みを知ることは、子供たちへの再エネの導入・普及の意識づけとしても大きな契機になっていることでしょう。
 この取り組みの価値が現れるまでには、時間がかかると思います。しかし、福島で学ぶからこそ分かる再エネの価値というものがありそうだと、今日の話をお聞きしながら強く思いました。今日はありがとうございました。

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