エコ(省・蓄・創エネ)だけではない再エネの価値

大和田野芳郎(産業技術総合研究所)×佐々木陽一(PHP総研主任研究員)

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5.「再エネ先駆けの地」を目指す福島県
 
佐々木 ひるがえって、東日本大震災から4年を経過するなか、原子力災害の被災地(避難解除区域等)が近傍にある研究機関という立場から、福島県における再エネの動向をどのように見ておられますか。
 
大和田野 福島県は現在、2040年に県内で生産される再エネの量を県内のエネルギー需要量と同規模になるように頑張るという目標を立てて、その実現に取り組んでいます。100%というのは目標として非常に分かりやすいと思います。今、目標の引き下げや実現性を騒ぐ段階ではないでしょう。
 
佐々木 国全体では東日本大震災を機に多くの再エネ政策が生まれています。同時に、時間の経過とともに、その政策を単なる発電設備の導入に留めず、その売電収益をまちづくりに貢献させようという議論へ発展してきています。事業化に至った例は多くはないですが、福島県では、再エネをテコに被災地の復興を促進させるための補助事業なども誕生しています。
 
大和田野 こと福島に関しては、脱原発という総意は変わらないと思います。ただ、FITがあるので、再エネをやれば事業者は儲かります、その儲けで復興しよう、という動きはしばらく続くでしょう。しかし、それだけでは、ちょっと短期的過ぎます。というのも、再エネが買取価格に大きく左右され、収支が合わないという話が早晩出てくるに違いないからです。
 ですから、原発や買取制度に依存しないで、きちんとやっていけるという地域モデルを示す重要性はさらに高まっています。
 
佐々木 そうですね。FITが短期間での再エネ普及に寄与するという側面はあるでしょうが、長い目で見れば、やはり、再エネの活用とその成果をいかに持続的に地域に取り込んでいくのかが大きな課題です。
 
大和田野 国の2030年頃を目標とする長期ビジョンでは、個人住宅はエネルギー的に自立できるようにする、補助的には系統電力に頼るでしょうが、家庭やコミュニティレベルでのエネルギーは、太陽光、地中熱などの利用でエネルギーの自立度を上げるという目標が掲げられています。
 福島県もまた、先述のとおり、率先して技術等を実証していくという「再エネ先駆けの地」になることを目標に掲げ、そのあり方を実践しています。とても正しい方向だと思いますね。
 
佐々木 家庭やコミュニティレベルのエネルギーの作り方や使い方、そしてライフスタイルのモデルを福島県から発信していくのは、とても意義深い取り組みですね。
 
大和田野 大規模な火力、原子力発電所の必要性が高いのは、大工場を有したり、製造業で大きなエネルギーを要する場合でしょう。そこでは、現在必要とするエネルギーをいきなり再エネで全部賄うことは無理です。東京のような大都市では再エネ導入適地に限りがありますし、何より消費量が莫大です。こうした地域でのエネルギー問題にどう対処するかについては、再エネを含めて段階的に、総合的に考えていく必要があるでしょう。
 一方で、福島県をはじめとする地方が、コミュニティでエネルギーの自立度をできるだけ上げていこうとするビジョンは立派な方法だと思いますね。
 
佐々木 おっしゃる通りです。一定の原発依存が必要とする世論は、経済成長を論拠とする場合が多いように見受けられます。それとは違う切り口で、こうした民生用、なかでも家庭やコミュニティレベルのエネルギーから自立モデルを実証するというのは、広く社会や国民への見せ方としても大変重要な試みだと思います。
 
大和田野 この福島研究所の施設でも1日最大700kW近い電力を消費していますが、研究施設内の太陽光、風力発電設備で、晴天の昼間はほとんど電気を買わずに済んでいますよ。電気代も下げられます。週末には発電量が余りますので、この分を平日に回しできるだけ電気を買う量を下げるための「貯蔵技術」も研究していることは、先ほどのご紹介の通りです。結果的に、実益も兼ねていることになりますね。
 
佐々木 研究所そのものが再エネの研究成果を目に見える形にし、さらに実用化する。まさにひとつの自立モデルですね。
 一方で、福島研究所は、福島県とも連携協定を結ばれて、多方面で再エネ普及に協力して取り組んでおられます。企業、自治体、住民からどんなニーズが研究所に寄せられていますか。
 
大和田野 非常に高い関心を持って頂いています。昨年1年間だけで4,930人が研究施設を見学されました。小学生、中学生、高校生、大学生も来られますが、その数は総計の3分の1以下で、やはり、産業界の方が多いです。
 産業界の関心の核心は、福島研究所の「技術」と「それを活かして何を目指しているのか」、「再エネ技術が次世代の新産業の核になれるか」だと思います。平成25年度後半から、福島県内を中心とする地元企業との共同研究がスタートし、27年度も25件が進行中です。
 
佐々木 共同研究の技術種別の内訳はいかがですか。
 
大和田野 太陽光と地熱が多いです。地熱発電開発だと企業は相当限定されてしまいますが、地中熱利用であれば、浅い地中数十mの井戸を使う研究が多数進められています。これは空調の省エネ技術として研究中ですが、割と簡単に実用化できそうな見通しです。実際に、すでにある井戸水を使った共同研究などを開始しています。
 太陽光発電にしても、初めて福島研究所に来る企業の多くが「太陽電池を作るなんて、半導体産業みたいでハードルが高いですよね」と言われますが、太陽電池を作る際に使用する薬品、電極を取りつける際に使う導電性ペーストの開発や軽量パネルを屋根に固定する際に使用する金具の開発など、さまざまな技術シーズがあります。
 
佐々木 再エネの技術シーズは多種多様なのですね。
 
大和田野 そうです。だから、シーズの多様性を部品や材料にブレークダウンして分かりやすく説明するよう努めています。企業に再エネ技術のシーズに気づいて頂けると、再エネが非常にすそ野の広い産業の上に成立していることをご理解頂けます。
 このように、研究所はいろいろな連携を試みています。今後は、もう少しIT技術との融合を図っていきたいと思っています。
 

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