エコ(省・蓄・創エネ)だけではない再エネの価値
佐々木陽一(PHP総研主任研究員)
3.福島研究所の3つの研究テーマ
佐々木 先ほど、わが国では、いかに純国産である再エネを最大限スムースに、かつ、有効活用できるようにするかが重要だという指摘がありました。その課題に対して福島研究所では現在、どのような研究を進めているのですか。
大和田野 福島研究所では、再生可能エネルギーを「できるだけ早く」「大量に使っていくための研究開発を行う」という再生可能テーマを掲げて研究を行っています。
まず、「エネルギーシステム」です。エネルギーをインフラと一体で考える必要性が日に日に高まっています。奇しくも昨秋、電力各社で想定していた再生可能エネルギーの電力受入可能量を超過、または、超過する恐れのある状況が発生したため、各社が一定規模以上の系統への接続申込への回答を保留することを公表する事態、いわゆる「接続回答保留問題」が起こりました。電力系統は、変動の大きな再エネを受け入れるには、限度があることが広く知られるようになったのです。
佐々木 「2030年度の望ましい電源構成(ベストミックス)案」で掲げられた、再エネの電源構成比率22~24%は、限度なのでしょうか。
大和田野 いや、今言われている数字が限度とは言い切れません。電力系統にしても、もっといろいろな手を打てば、再エネの電源構成比率を上げられるはずです。実際、ドイツでは、現在でも電源構成全体の25%以上を再エネで賄えています。
再エネは、発電量が時間的に変動し、場所によって偏りがあります。そのエネルギー源を上手く大量に使うための「技術」を開発していくことが重要課題です。具体的には、変動や偏りを補うための「貯蔵」や「輸送」に関する技術です。これらを電力だけでなく全体システムとして考えていく。福島研究所は、その技術開発に力を注いでいます。
佐々木 再エネを無駄なく効率的に使うための大切な要素技術ですね。各技術が確立し、システム全体が最適に稼働する時代が間近に迫っているという期待感が湧いてきます。
大和田野 研究テーマの2番目は、「コスト低減」です。再エネの導入コストは依然高いままです。既存の製品価格が徐々に低下してきているとはいえ、太陽光発電は、FITのように高い公的補助がなくては採算が合いにくい状況です。設備等の価格をもっと安くしないといけません。そして、コストダウンは、技術開発で実現を図らねばなりません。そこにこそ日本が生きる道があると思います。
佐々木 海外製のコストダウンも目覚ましいですからね。
大和田野 3番目の研究テーマは、「正確なデータ」を把握し、「開発リスクを下げる」ということです。把握したデータを活用して、社会環境への(悪)影響を抑えるとか、社会の地熱発電に対する受容性を高めたいと考えています。
データについては、太陽光や風力の(賦存量)マップがずいぶん整備されてきましたが、地中深くから取り出した蒸気で直接タービンを回して発電する地熱発電に関しては、まだまだデータが不足しています。だから、「ここを掘っても蒸気が出なかった」というような事態がしばしばおこりかねません。データの把握や提供を通じて、こうした開発リスクを低減させることが望まれます。また、地熱発電の場合、温泉の湧出量低下を懸念される場合が多くあります。予め地質構造に関する正確で中立的なデータを提供することで、社会の受容性を高めていきたいと思います。
佐々木 データの把握は一事業者では担いきれない部分が大きいでしょうから、この取り組みは、福島研究所だからこそ成し得る事業とも言えますね。
大和田野 太陽光、風力もデータ不足の例外ではありませんよ。広域で発電量を計画・調整する場合、例えば、電力会社管内で明日の気象状況でどのぐらいの太陽光、風力発電が可能なのかは電力会社にとって非常に大事です。電力供給の事前計画を立てたり、30分後の電力需給を速やかに調節する必要が生じたりします。その判断材料となるデータは非常に重要です。
佐々木 電力需給量を最適な状態にコントロールするためのインフラとして欠かせませんね。
大和田野 データの必要性が高まっている理由は、再生可能エネルギーによる発電量がそれだけ増えつつあるからです。従来は、系統容量に対して無視できるぐらいの量でしたから良かったですが、今後は、これ以上電力を受け入れられないという事態が想定されます。となると、それが本当なのか、どうすれば電力をもっと有効に使えるようになるのかを、きちんと見極め、調整する技術を開発しなればなりません。