エコ(省・蓄・創エネ)だけではない再エネの価値

大和田野芳郎(産業技術総合研究所)×佐々木陽一(PHP総研主任研究員)

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4.技術開発でオプショナルなエネルギー利用を可能にする
 
佐々木 技術開発にはどんな問題があるのでしょうか。実際、被災地では、送電容量が足りず発電を放棄せざるを得ない状況も起こっています。そこで、蓄電池を整備する、あるいは、東北で発電した電力を東北以外に運ぶ、いわゆる広域連携で発送電することなどが話題になっています。福島研究所では、電力システムの全体最適化についてどのような研究構想をお持ちなのですか。
 
大和田野 電気を作る側からのアプローチとしては、「水素キャリア」の研究があります。つくり出した電気を化学物質に変換し、貯蔵・運搬できる化学物質として水素が着目されており、この水素を貯める物質を「水素キャリア」と呼んでいます。送電線の容量の制約により発電した電気が系統に受け入れられない場合に、キャリアに水素を効率よく貯蔵し、必要な場所に安全に運搬したり、必要な量だけ効果的に取り出す技術を研究しています。「本当に送電はダメですか?ダメならこの手があるよ」、あるいは、「送電線の整備費用と水素を製造して運ぶのとどっちが良いですか」などと選択できるようにすることを目指しています。
 
佐々木 それが実現すると、電力系統線が脆弱な地域からもエネルギーの移送が容易になりますね。
 
大和田野 離島での電力自給も可能になります。現在、離島では定期的に重油を船で運んできて発電機を回しています。そうではなく、太陽光、風力で発電したものを水素で溜めながら使う。自立的にエネルギーを供給できるのは、大きなメリットです。
 
佐々木 離島地域の生活インフラに画期的な変化をもたらしますね。
 
大和田野 そういう技術を、地域の電力系統の状況に応じて、きちんと使い分けることが必要ですね。つまり、「全部水素で溜める」、もしくは、「全部電気のまま送電するのではなく、状況に応じて使い分けられる」システムを作ることが大切です。だから、水素で溜めて再生可能エネルギーを使う技術として、水素キャリアの研究開発に取り組んでいるわけです。
 従来サイズの350気圧のボンベを積んで車を走らせることは現時点で可能ですが、それよりもっとたくさんのエネルギーを、何百気圧の高圧で巨大なボンベで運ぶことは無理です。安全上、巨大なタンクに何百気圧もの圧力をかけることはできません。そこで、有機溶媒に水素をたくさんくっつけて溜めておくとか運べるようにすると、タンクローリーやオイルタンカーで運べます。何カ月間もエネルギーを減らすことなく溜められるようにもなります。
 
佐々木 地域における電力の需給バランスに応じて、電気を溜める、運ぶなどのオプショナルな技術を作り込む。まさに、発電した電気の最適配置のための技術開発と言えますね。
 
大和田野 はい。これ以上太陽光発電が入りにくいと言われていますが、そうした技術が開発できれば、別に現在の電力系統に頼らなくても良くなります。東京に水素キャリアで水素を運びましょうということがオプションとして出てくるのです。
 
佐々木 なるほど。系統に頼らなくてもいいエネルギー輸送事業が可能になるのですね。
 
大和田野 「最終的には、電気にして使うのだから(その技術では)効率が悪い」という意見もあるでしょう。単に電気に戻すのではなく、もっと付加価値の高い使い方、たとえば燃料電池車の燃料として使う方法も考えられます。
 
佐々木 トヨタ自動車が水素で走る燃料電池自動車「MIRAI」を販売開始するなどの動きもあります。自動車産業には、水素キャリアのニーズがあるということでしょうか。
 
大和田野 燃料電池車に留まらず、水素を広範に使おうという機運が高まっていると思います。
 
佐々木 水素をオプショナルに使える技術開発の必要性が高まっている一方で、それにかかる研究開発コストも高くなってしまうというジレンマもあるようです。
 
大和田野 研究開発コストは、GDPや国家予算総額に比べれば本当に微々たるものです。むしろ、最後まで高い価格のまま使いなさいという方が消費者側の負担は大きいままです。現在の太陽光はそれをやっているわけですが、この形がいつまでも続くようではダメですね。きちんと他のエネルギー資源に比肩し得る程度にコストを下げる必要があります。
 

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