よりよき「国づくり」という観点から憲法の見直しを―与野党憲法改正案を比較する―

政策シンクタンクPHP総研 研究主幹 永久寿夫

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「共有制」と「緊急性」ではかる改正候補
 
 憲法改正を進めるとすれば、どの部分から着手すべきなのか、それを考える視点は「共有性」と「緊急性」であろう。共有性とは、いかに多くの政党が問題意識とそれに対する姿勢を共有しているかということである。
 
 「共有性」の視点に立つと、ここで取り上げなかった環境権などがもっとも有力な候補になるかもしれない。現憲法に記載がない環境権の重要性に対する認識は高く、自民党が『草案』のなかで、「国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することができるようにその保全に努めなければならない」という条文を入れているほか、公明党も加憲の対象にし、民主も「地球環境」保全及び「環境優先」の思想について言及することが望ましいとしている。他の政党については必ずしも具体的な言及があるわけではないが、おそらくいずれの政党も反対はしないであろう。
 
 しかしながら、1967年に「公害対策基本法」が成立、その後「環境アセスメント」が浸透し、93年には「環境基本法」が施行されている。憲法で環境権をあらためて保障する必要があるとしても、環境保全に対する法的整備は進んでおり、緊急性については切迫している状況ではない。環境権のほかに、文言の細かな修正などについても改正すべきという共通認識はあるが、それがもたらすインパクトはほとんどないといってよく、緊急性があるとはいえない。
 
 一方、「緊急性」の視点に立つと、近隣諸国との緊張が高まるなか、やはり集団的自衛権の解釈関連で第9条が改正候補の最有力になるのではないか。解釈のみを変更し、自衛隊法などの改正によって緊急性に対応するということも考えられ、憲法改正にまで至らない可能性も十分あるが、「共有性」の視点からも、真っ向から反対する社民党や共産党は別として、各党まだ煮詰まった見解がないとしても、問題意識も共有されているように思われる。あるいは、これまで触れてこなかったが、緊急事態に対する条項の新設も「緊急性」「共有性」の両面から見て、最初の憲法改正にふさわしい案件であるとも考えられる。有事や大規模災害が発生した時に、それに対処するため、首相などに一時的に特別な権限を付与するということである。東日本大震災に際し、その必要性がいっそう明らかになったとともに、具体的な提案をしている自民党や生活の党以外の政党にも受け入れやすいのではないだろうか。

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