よりよき「国づくり」という観点から憲法の見直しを―与野党憲法改正案を比較する―

政策シンクタンクPHP総研 研究主幹 永久寿夫

DSC03462

行政権に総理の専権事項を付けた自民党
 
 一時期「決められない政治」という言葉が流行ったが、「決める」ことは、近年の日本政治にとって長い間の課題であった。現行憲法では、行政権は「内閣」に属しており、その行使については「連帯責任を負う」ことになっているため、閣議で意見が一致しない限り行政権は行使できない。大げさに言えば、閣僚全員の意見が一致する程度のあまり重要ではない案件か、各論反対が出ない総論程度の案件しか決定されず、強い抵抗がありうる案件は敬遠されてきた。さもなければ、難しい問題については、長い時間をかけ、調整に調整を重ねて、タイミングを逸したころにようやく結論を得るという状況を生んだ。もちろん、総理が、反対する閣僚を罷免して、閣議の不一致を乗り切ることも可能だが、政治的混乱や対応の遅滞を引き起こす恐れがある。
 
 この問題を解決するために、自民党は、「行政権は内閣に属する」としつつも、総理が閣議に諮らずに自分ひとりで決定できる専権事項を3つ、すなわち(1)行政各部の指揮監督・総合調整権、(2)国防軍(後述)の最高指揮権、(3)衆議院の解散の決定権、を『草案』に盛り込んだ。もっとも注目すべきは、(1)の行政各部の指揮監督・総合調整権であろう。閣議を経ずとも、つまり、閣僚のなかに反対者がいたとしても、総理が行政各部に指揮監督ができるようになれば、時宜にあった迅速な意思決定と行動、さらにはタテ割り行政を越えた省庁横断的な調整や戦略的な政策も行いやすくなる。

関連記事