よりよき「国づくり」という観点から憲法の見直しを―与野党憲法改正案を比較する―
「執政権」を総理に付与する民主党
公明党はこの点について、ほとんど何も語っていないが、民主党は自民党とほぼ同様の見解を『提言』のなかで示している。具体的には、「首相(内閣総理大臣)主導の政府運営の確立のため、統一的な政策を決定し、様々な行政機関を指揮監督してその総合調整をはかる『執政権(executive power)』を内閣総理大臣に持たせ、執政権を有する首相(内閣総理大臣)が内閣を構成し、『行政権(administrative power)』を統括することとする」とある。「執政権」と「行政権」の区別が明確には示されていないが、一般的には「決定」と「実施」と解釈してよいだろう。とすれば、内閣における決定の責任は総理一人に帰し、その実施については、決定者である総理が内閣という組織をもって行うということである。この内容は、総理の専権事項付きで行政権は内閣に属する、とする自民党より「過激」といえる。
他の政党に目を転じると、まず維新は首相公選制の導入をうったえている。これは憲法改正が必要と思われる制度改革ではあるが、首相のリーダーシップを強化させるメカニズムや具体的な制度設計についての提案はなされていない。また、みんなの党は「官僚主導から政治主導の統治機構を実現する」、結の党は「真の政治(官邸)主導の体制整備」を標榜するが、その実現方法についての検討はこれからのようである。生活の党と新党改革に関しては、この点についての言及はほとんど見られない。
首相のリーダーシップについては、行政権だけではなく、「国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関」とされる国会との関係や政党内におけるガバナンスのあり方などとともに検討することによって、より効果的な強化が可能とも思われ、議論の幅をさらに広めていく必要があろう。同時に、立憲主義の立場からすれば、首相の権限を強化すればするほど、それを抑制する安全装置が求められるということになるが、この点については、社民党が「自民党『日本国憲法草案』全文批判(案)』で批判はしているものの、全体としては議論が深まっているとは言えない。