地政学的要衝研究会
米欧の脅威に怯えるロシア

ゲスト報告者:佐々木 孝博(元在ロシア防衛駐在官、元海将補)

本稿は『Voice』2022年4月号に掲載されたものです。

地政学的要衝研究会」は、日本の対外政策や日本企業のグローバル戦略の前提となる情勢判断の質を向上し、平和と繁栄を考えるうえで不可欠の知的社会基盤を形成することをめざして、鹿島平和研究所と政策シンクタンクPHP総研が共同で組織した研究会です。第一級のゲスト報告者による発表をもとに、軍事や地理をはじめとする多角的な観点から主要な地政学的要衝に関する事例研究を行ない、その成果を広く社会に公表していきます。

かつてウィンストン・チャーチル元英首相は、ロシアについて「謎の謎のまた謎の国である」と評した。「ロシアは頭では理解できない。並の尺度では計り知れないロシアだけの特別な姿がある」とは、元ロシア外交官で詩人でもあるフョードル・チュッチェフ氏の言葉である。かくのごとく、ロシアの意図、とりわけ安全保障観は外部からはわかりにくい。

連載第4回目は、その「謎に満ちた」行動により、現在もウクライナ危機で世界の注目を集めるロシアについて、同国の置かれた地政学的な特性、歴史的に形成されてきた独特の脅威認識、過剰なまでの防衛意識とそれに基づいた安全保障戦略について、とくに極東アジアに焦点を当てて分析する。また伝統的な地政学を超えた情報空間を使った「戦い」、あらゆるリソースを行使する”ハイブリッド”な戦い、人工知能(AI)など新技術を取り入れた将来の安全保障に関するロシアの取り組みについても考察していきたい。

地理と歴史で形成された過剰防衛意識

乾一宇元日本大学大学院教授は、『力の信奉者ロシア―その思想と戦略』(JCA出版、2011年)のなかで、「ロシアは力を信奉する国である。パワー・ポリティックスの立場から、どの国も大なり小なり力を重視する。ロシアの場合は、それが度を超している」と書いている。ロシアという国の本質を理解するキーワードの一つは、「力の信奉者」だという点である。

ロシア語には「平穏・無事」な状態を示す「安全(security)」に該当する言葉がない。我々が「安全」「安全保障」「保全」として使う「security」に該当する言葉は、ロシア語では「безопасность」=「危険ではない(without danger)」という意味であり、「平穏・無事」な状態とはかけ離れている。

ロシア人はつまり、相手との関係において基本的に「危険ではない」状態にしておくことにきわめて敏感であり、相手に気を許したらやられてしまうという過剰防衛意識をつねにもっている。

ロシアは、領土全般にわたり平坦な地形が多く、天然の障害が少ない。このため歴史的に何度も外部からの侵略に遭い、そのたびに国境が変化する経験をしてきた。このような地政学的な特徴と歴史的な侵略の経験から、極度の不安感や脅威感が形成され、前述した安全保障観が形づくられていったのではないか、と推察される。

このロシアの不安感・脅威感は、”相手側をはるかに上回る「力」をもたないと落ち着かない”という過剰防衛意識の醸成につながり、それが結果的にロシアの対外的膨張を促進している。

ロシアは、地形的に侵略に脆弱なためか、つねに国境の外側に緩衝地帯(バッファーゾーン)を置くことを考える。確実な安全確保を求めて国境地帯に自己の勢力圏を維持し、可能な限り緩衝地帯の拡大をめざすのである。また確実な安全を担保する最終手段として、核兵器に大きく依存する軍事戦略を採用している。

かつて英国の地政学者ハルフォード・マッキンダーは、「東欧を制するものがハートランドを支配し、ハートランドを制する者が世界本島を支配し、世界本島を制する者が世界を支配する」と述べた。ここで言う「ハートランド」はまさにロシア人が住んでいる地域であり、そこを支配するものがユーラシア全体を支配し、世界を支配するとされた。

そしてハートランドを支配する大陸国家ロシアと、米英のような海洋国家の間には、リムランドと呼ばれる三日月地帯があり、ここで両勢力が衝突するとされた。このリムランドに当たる地域を、ロシアは自国の勢力圏として死守すべき地域「特権的利害地域」と位置づけている。

現在で言えば主としてCIS(独立国家共同体)諸国がこれに該当するが、CIS諸国のような緩衝地帯がない地域では、国境付近がそれに当たり、陸の国境が存在しない場合は海洋や島々も「特権的利害地域」になりうる。極東アジアにおいては、北方領土もそれに当たる。「特権的利害地域」における国益が侵されたと判断された場合、軍事力行使も辞さないのがロシアの基本的な立場である。これはグルジア紛争(2008年)やクリミア併合(2014年)のような過去の事案で証明され、現在もウクライナで同じようなことが起きている。

NATOに対する脅威認識

ロシアは、2021年7月に国家安全保障戦略を改訂した。過去の戦略同様「米国を含めた北大西洋条約機構(NATO)が脅威」であるとの認識を継承したうえで、ロシア国境付近におけるNATOの軍事インフラの構築、諜報活動の強化やロシアに対する大規模な軍事編成と核兵器の存在を、強く警戒している。

今回の国家安全保障戦略には5つの特色がある。一つは、情報安全保障を重視する姿勢を明確にしたこと。二つ目は中国、インドとの関係をそれぞれ強化することが掲げられたこと。三つ目はNATOへの強い警戒心を示しつつ、米国と欧州の分断を図るための対欧接近のメッセージが読み取れること。四つ目は核兵器をめぐる国際情勢への懸念が示され、とりわけ中距離核戦力全廃条約(INF)を破棄したことにより、米国が欧州及びアジア太平洋地域に中距離ミサイルを配備しようとしていることに対する警戒感が示されたこと。そして最後に、さまざまな新技術が兵器体系や戦い方を変化させ、将来の安全保障を変えていくことへの対応を強く打ち出したことである。

同戦略では情報安全保障について「ロシアの社会的・政治的状況を不安定にさせるため、恣意的な虚偽の情報が主として若者をターゲットにインターネットにより流布されている」と記されており、西側諸国でロシアが対外的に仕掛けているとされる情報工作の脅威について、ロシア自身が「脅威にさらされている」と記している。

また、「多国籍企業がインターネットにおける独占的な地位を強化し、(中略)法的な理由もなく国際法の規範に反して検閲を行ない、インターネットを遮断している。政治的理由から、歴史的事実や世界の出来事について歪んだ見方をロシアのユーザーに押しつけている」という認識も示している。

米国がつくったインターネットがロシアの脅威になっていることから、ロシアは独自のインターネットやその他の情報通信インフラを構築することで、外国の支配を防止することが重要だと指摘し、情報インフラの独自開発と発展の必要性を強調した。

また「情報対決の力と手段の開発」が必要だとして、情報空間における攻撃能力の強化も打ち出している。

さらにこの戦略の行間を読むと、ロシアが受けている脅威は、ロシアの敵対国にとっても同様の脅威、すなわち脆弱性になるため、そこを突いて敵対国に攻勢的な活動を仕掛けることも視野に入れていることがうかがえる。

また新技術が変える将来の安全保障に関して、この戦略は、新しい技術の出現が、武器兵器体系を革新的に変化させ、戦い方そのものを変えてしまうことを示唆している。そのうえで具体的にナノテクノロジー、ロボット工学、医療、生物、遺伝子工学、情報通信、量子、AI、ビッグデータ処理、エネルギー、レーザー、新素材の作成、認知や自然を再現する技術及びスーパーコンピューター・システムの開発といった14分野が重要だとして、国際的な技術競争に勝つ決意を表明。とりわけAIで覇権をとる姿勢を鮮明にした。

ロシアはまた核使用について2020年6月に「核抑止の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎」という文書を公開。核使用に関する4つの条件を明確にした。

それによると、第一の条件は、「ロシア及び同盟国を攻撃する弾道ミサイルの発射に関して信頼のおける情報を得たとき」、第二の条件は「ロシア及び同盟国に対して敵が核兵器又はその他の大量破壊兵器を使用したとき」であり、相手が核を使用したら核で報復するということである。

第三は「機能不全に陥ると核戦力の報復活動に障害をもたらす死活的に重要なロシア政府施設又は軍事施設に対して敵が干渉を行なったとき」とされており、これは敵によるサイバー攻撃を念頭に置いているようである。サイバー攻撃でロシアが核のコントロールシステムを使えない状況に陥った場合、使用可能な核が無力化してしまうことを極度に恐れているということである。

そして第四の条件は、「通常兵器を用いたロシアへの侵略によって国家の存亡の危機に立たされたとき」となっており、究極的にはロシアが「国家の存亡の危機に立たされた」と大統領が判断した場合には核使用がありうるということである。ロシアの戦術核の使用に関するハードルは米国などと比べて低いことになる。

北方領土死守を超えたロシアの狙い

次に、これまで見てきた脅威認識や国家戦略の下でロシアが極東アジアの安全保障についてどう考えているかを見ていきたい。

重要なファクターは次の4つである。一つ目は「脅威としての米国とNATO」。この点からすれば、日米安全保障条約を通じて米国と同盟関係を維持する日本は、ロシアの脅威対象国である。

二つ目は核戦力の重要性である。ロシアは安全保障の最後の砦として、核戦力に重きを置いている。極東アジアにおいては、核戦力、とりわけオホーツク海における潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を重視し、また、近い将来に米国がアジアに中距離ミサイルを配備するようになれば、ロシアも同兵力の配備を考えることになろう。

三つ目が前述した「特権的利害地域」である。欧州と違い極東アジアには緩衝地帯がないため、国境付近及び海洋、とくに北方領土を含めたオホーツク海周辺海域を特権的利害地域に位置づけているようである。

最後の要素は、情報(サイバー)空間、宇宙空間、電磁波領域、認知領域などあらゆる領域や手段を活用したハイブリッドな戦いを想定して、他の地域と同様、極東アジアの安全保障を考えている点だ。

極東アジアにおけるロシアの軍事力の現況を具体的に概観したい。

この地域を管轄するロシア軍の東部軍管区(極東アジア担当)内のウラジオストクに太平洋艦隊の主要な水上艦艇部隊がいる。樺太南部、国後島、択捉島、松輪島には、地上軍部隊及び対艦ミサイル部隊、対空ミサイル部隊が配備されている。そしてペトロパブロフスク・カムチャツキー(ルィバチ基地)に戦略原潜部隊が配置されている(図1)。

北方領土周辺のミサイルの配備状況を見てみると、国後島には射程130㎞の対艦ミサイル「バル」(SSC-5)や地対空ミサイル(SAM)システム「S-300V4」(SA-23)を実戦配備。択捉島にはさらに射程の長い(300㎞)対艦ミサイル「バスチオン」(SSC-6)とS-300が配備されている(図2)。

さらに松輪島にも、対艦ミサイル「バスチオン」が配備されたことが最近明らかになった。ミサイルの配備状況から読み取れるのは、ロシアが守りたいのは北方領土だけではないということ。この周辺に配備されている複数の対艦・対空ミサイルの射程が重複しているのは北得撫水道であることが確認できる。

次に北方領土に駐留する部隊を見ると、部隊規模約3,500名の第18機関銃・砲兵師団が択捉島及び国後島に駐留。具体的に隷下部隊として、択捉島には第49機関銃・砲兵連隊が、国後島には第46機関銃・砲兵連隊がある。

この地域に配備される、多連装ロケット「スメルチ」、改修型戦車「T-72B3」、多目的型ヘリ「Mi-8」は、着上陸阻止のための兵器だと考えられる。また地対空ミサイル「S-300」、多目的戦闘機「Su-35」は航空優勢を確保するため、さらに「バスチオン」や「バル」といった対艦ミサイルは、海上優勢を確保するための装備であろう。

一見すると北方領土への着上陸阻止、近接阻止が目的のように思えるが、前述した対艦ミサイルと対空ミサイルの配備状況から考えて、ロシアの真の狙いは、オホーツク海へのチョークポイント(北得撫水道など)の防衛だと考えられる。

核戦略・海軍戦略から見た極東アジアの重要性

冒頭で触れた過剰防衛意識から、ロシアは安全保障の最後の砦としての核戦力、とりわけ核による第二撃能力を保有していないと安心できない。極東アジア地域における第二撃能力の主体は、戦略原潜搭載の核(SLBM)になる。

そこでロシアは、この戦略原潜の運用のためにもオホーツク海全体を要塞化、聖域化することを考えていると想定される。当然、潜水艦を自由に移動させることが不可欠であり、この観点から得撫島と新知島の間の北得撫水道がチョークポイントになる。北得撫水道は幅65㎞、長さが30㎞、水深はもっとも深いところで2,225mもあり、流氷があっても潜航状態での運用が可能だ。そこでロシアはここを重要視し、死守したいと考えている。つまり、千島列島線から内側に敵対勢力を入れることを阻止したいと考えているのだろう。

北方領土はこの「オホーツク海の聖域化」のためにきわめて戦略的に重要な位置を占めている。もし北方領土が日本に返還された場合、在日米軍施設の建設が想定され、そこから偵察活動などが行なわれれば、オホーツク海の聖域化が崩れるとロシア側は認識している。本来ロシアが死守したいのは北得撫水道だが、そのための勢力圏として北方領土の維持は不可欠な条件なのだ。また海軍作戦上も、ウラジオストク―宗谷海峡―北方領土周辺(択捉水道または北得撫水道)―ペトロパブロフスク・カムチャツキーの水上及び水中航路の確保は重要である(図3)。

こう考えると、北方領土の日本への返還は、軍事戦略上はありえないということになる。

さらに最近は、北極海の氷が解けて北極海航路が使えるようになったことから、ヤマル半島のLNG基地からの天然ガスを、夏季には北極海から太平洋側へと海上輸送が可能だ。このため北方領土周辺の安全確保が重要になり、ロシアのエネルギー輸出の観点からもこの海域の重要性が増している。北方領土近傍に中継基地があれば、より利便性が高まることから、北極海航路と北太平洋航路の結節点としてこの海域のコントロールを維持したい、とロシアは考えているのだろう(図4)。

こうした戦略的重要性から、ロシアは北方領土返還(引き渡し)を考えていない。ただし、日本との平和条約をロシアに有利な形で進めるため、もしくは日米の離間を図る目的で、北方領土問題を政治的に利用する可能性はあるだろう。

しかしロシアは、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏が主張するように、二島について「引き渡し」には言及しても、主権については何も触れておらず、主権を渡すつもりはないだろう。二島における居住権、経済活動や漁業活動などについて、ロシア人同様に日本人にも認めることはあっても、あくまでロシアの主権の下で、というのが大前提だと思われる。

AI技術で世界のリーダー的存在をめざしている

最後に、伝統的な地政学を超えた新しい安全保障領域におけるロシアの動きについても触れたい。

ロシアの軍事戦略家の間では、軍事紛争における非軍事手段の重要性についての認識が共有されており、将来の軍事紛争においては、旧来の軍事兵器よりも非軍事兵器による攻撃がより効果的であると考えられている。

ロシアにおけるハイブリッドな戦いに関しては、ヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長が、将来の紛争において、とくに政治的な反勢力を形成し、反勢力に行動させて政治・軍事指導者を交代させるような、サイバー戦を用いた「影響工作」などの重要性を強調し、全体の80%はこうした作戦が占めると述べている。

ロシアはまた、2019年10月に「2030年までの人工知能の発展に関する国家戦略(AI 発展戦略)」を制定。AI技術において、ロシアが世界のリーダー的存在になり、他国に依拠しない独立性と競争力を確保するとしている。

そのための優先的な科学技術として、ミツバチやアリの群れのような「生物学的意思決定システム」のアルゴリズムを挙げており、いわゆる「群知能技術」を念頭に置いていると思われる。また、自律的な自己学習と新しい目的に適応するアルゴリズムや困難な作業を自律的に分析し、解決策を探す技術を重要視している。「大量のドローンの自律的な運用が可能な技術」及び「自律的に機械学習をし、意思決定できる技術」を追求していると考えられる。

そうした自律的に意思決定できる技術のなかには、「自律型致死兵器システム(LAWS)」も含まれてくる。この戦略では、LAWSのような完全自律の軍事兵器が登場すると、国家のコントロールが行き届かない可能性があるとの懸念も表明されている。

ロシアは、軍事分野で他国が自国に先んじて、意思決定機能をもつ自律型兵器の開発に成功し、優越を確保してしまうことを防ぎ、そのために国際的枠組みをつくって管理・制御することを考えているようである。

日本の戦略的重要性を高めよ

このような脅威認識と戦略に基づいて、今後ロシアが日本に対して取りうるシナリオにはどのようなものが想定されるのか。

まず、サイバー空間を駆使し、ロシアに有利な安全保障環境の構築に動き出すことは十分に考えられる。具体的には、北方領土棚上げでの平和条約締結、日米安全保障条約への楔を打ち込むような日本の世論を分断させる工作や、日米同盟無効性の世論を形成するような情報工作である。中国の脅威をことさら強調することで、日本にとってのロシアの重要性をアピールするような世論操作も行なうかもしれない。

また、「平和条約を締結しなければロシアの脅威は増大する」ことを認識させる目的で、軍事力を誇示し、オホーツク海(北方領土方面も含む)で強硬な対応をとる。もしくは「日米同盟を深化させればロシアの脅威は増大する」といった影響工作も併用し、日本周辺海域における軍事偵察活動を活発化させることもありえよう。

さらに、ロシアが重視する科学技術に対する情報搾取のためのサイバー攻撃が激化することも想定されうる。先の国家安全保障戦略で示された技術をもつIT・DX企業、大学、研究所等に対するサイバー攻撃が激化する可能性があることにも注意すべきである。

では、日本としてどのような対応をとるべきなのか。

極東アジアの安全保障は、日露関係だけで動くわけではなく、日米露中の関係が複雑に作用して展開されている。日米は強固な同盟関係だが、露中は同盟関係ではなく国益に応じた緩やかな協力関係である。ロシアから見た中国とは、前述の小泉氏曰く「完全に味方(同盟)にはなれないが敵でもない」「隣人を隣人のままにとどめて敵にしたくない存在」にすぎない。

国家安全保障戦略やAI発展戦略で明示しているように、ロシアは今後とも、最大の脅威である米国やNATOと対抗するための軍事力強化に努める。この現実を踏まえて日本も、防衛力強化や日米同盟の深化、サイバー防衛能力の向上に加えて、外交や経済力を駆使してロシアの脅威を低下させる取り組みにも力を入れるべきであろう。

ロシアにとって最大の安全保障上の懸念は、ウクライナ危機に見られるように欧州正面であり、アジアに安全保障面の喫緊の脅威はない。むしろアジアはロシアにとり、エネルギーを輸出して経済発展するためのパートナーという意味合いが大きい。

無論、ウクライナをめぐって米欧とロシアの関係が緊張するなかでは、当面日本が取りうる選択肢は限られる。また、近年のロシアの中国との連携は米国への対抗上進んできたものであり、日露関係に左右されることはないだろう。他方で、ロシアも対中依存が過度に進むことは避けたいはずである。ロシアにとっての日本の戦略的重要性を高め、ロシアが反日的な対応を取る可能性を中長期的に低下させていくことはつねに考慮すべき要件だ。

脱炭素社会へ向けた取り組みのなかで、天然ガス、アンモニア発電や原発などロシアがエネルギー分野で存在感を高めていることにも留意が必要である。さまざまなファクターがあるなかで、日本としてロシアとどのように付き合うべきか、総合的な見地からの見直しが求められよう。

※無断転載禁止

佐々木孝博(元在ロシア防衛駐在官、海将補)
ゲスト報告者
佐々木 孝博(元在ロシア防衛駐在官、海将補)

地政学的要衝研究会メンバー

大澤 淳
(中曽根康弘世界平和研究所主任研究員、鹿島平和研究所理事)

折木 良一
(第3代統合幕僚長)

金子 将史
(PHP総研代表・研究主幹)

菅原 出
(グローバルリスク・アドバイザリー代表、PHP総研特任フェロー)

髙見澤 將林
(東京大学公共政策大学院客員教授、元国家安全保障局次長)

平泉 信之
(鹿島平和研究所会長)

掲載号Voiceのご紹介

2022年4月号総力特集「ウクライナ危機、中露の膨張」

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  • 長島 純 / ロシアの再膨張と欧州再編への挑戦
  • 片山 杜秀 / プーチンの足を引き摺る歴史の呪縛
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  • ダニエル・ヤーギン / エネルギー覇権を目論む独裁者たち
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  • 森本あんり & 村田晃嗣 /「介入」と内向きの狭間に立つアメリカ
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