私たちと地域の未来に、新しい可能性を
あたたかみのある木造の大槌臨学舎
寄付者満足度を高めるという新たなチャレンジ
新たなビジネスモデルの構築を模索するカタリバ。震災前までは自治体や企業とパートナーシップを結んで事業型で運営してきたため、コラボ・スクールのように外部からの寄付金を得て運営にあたるのも、ほぼ初めての経験だ。
「私たちにとっては初めてのことばかりで必死にやっています。寄付をいただいて運営はできているけれど、その寄付が生かされていることを、どうやって実感していただけるか。それはもう悪戦苦闘しています」
寄付文化が根づいていないと言われ続けてきたわが国。それも震災を契機に、また寄付税制の拡充によって大きく変わりつつあるように思われる。
「震災によって、私たちだけではなく多くの団体に、驚くほどの寄付金が集まりました。これからは、そうした寄付をいただいて活動する側の責任として、寄付者満足度を高めていくことが大切だと思います。お礼や報告はもちろんですが、例えば寄付者の方々と協働するようなプログラムを通して、経験を共有しつつ成果を感じ取っていただくことが本当に重要だと痛感しています。寄付してくださる方々の心を動かし続けないといけませんから」
寄付実感を高めることによって築かれるウインウインの関係。ただ、そもそもの活動が、それに引っ張られすぎてもいけない。はじめて迫られる難しい舵取りも、先に取り上げたスカイプを通じたプレゼンテーション指導や英会話レッスン、ほかにも高校生による現地ガイドなどの実践によって、着実に寄付者の心をとらえているようだ。
「おかげさまで3年間支援を継続してくださる個人の方や企業さんもあって、その意味では寄付者満足度を保てたところがあると言えるかもしれません。でも、それに私たちが満足してはいけないので、まだまだ努力しなくては。海外のNGOやNPOを見ていると、寄付される努力をものすごくしていて、いい意味で競争している。被災地支援は、日本でもNPOが成長する良い機会になっていると思います」
寄付者満足度を高めるための取り組みを考えると、例えば1,000人から1万円ずつ集めるよりも、10人から100万円ずつ集めるほうが楽で、効率的だ。だが、その手間暇に生まれる価値がある。
「人が人を呼んでくる、熱意を運んでくる。やっぱりファンって、そうやって増えていくものだと思うんです。その人たちに対して努力をする姿勢に、私たちのあり方が問われる。お金の価値だけではなく、思いの価値に心を配る。寄付をいただいて事業を行うことで、すごくいろんなことを学ばせてもらっています」
事業運営に重きを置き、広報予算の潤沢ではないカタリバにとっては、日常生活の範囲で支援していただくことが力強いサポートとなる。
「こういう活動をしている団体があるということを、周りの人に少しでも広めてもらうということが、なによりもありがたいです。口コミやSNSを活用することで、カタリバやコラボ・スクールの広報の役割を担っていただけると助かります。あとはやっぱり、被災地のものを買うこと。地元の経済を回していかないといけないですから。もちろん、寄付もしていただけたらうれしいです」
最後に、いま改めて思うことを尋ねてみた。
「私たちくらいの世代って、生まれてから欲しいものは満たされている飽食感があるから、NPOとか社会貢献に興味が集まっているのかなと感じていました。ところが、被災地の子どもたちは、まったく違う立ち位置から社会をみつめ、地域のためになることを考えている。いま置かれている環境をパワーに変えられる気がします。その子どもたちの力になれるように、これからも頑張っていきます」
【今村久美 略歴】 いまむら くみ*1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。大学在学中に2001年に任意団体NPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2006年には法人格を取得し、全国約400の高校、約90,000人の高校生に「カタリ場」を提供してきた。2011年度は東日本大震災を受け、被災地域の放課後学校「コラボ・スクール」を発案。
【取材・構成:熊谷 哲(PHP総研)】
【写真:shu tokonami】