教育現場と子どもの世界のニューノーマル
4、子どもたちのために、大人が手を取り合おう
――千葉県の公立小学校では、アフタースクールを行政と一緒に0から作り上げたということですが、どのような取り組みなのでしょうか。
平岩: 放課後の子どもたちの居場所には、厚労省系の学童保育という仕組みと、文科省系の放課後子供教室という仕組みがあります。それぞれに歴史や思いがある仕組みなのですが、同じ学校内に滞在していても、「学童の子はこっち、子供教室の子はこっち」と分けられて、一緒に遊べなかったりするんです。「保険が違うから、一緒に遊んで怪我でもされると困る」なんてことも起きてしまうんですが、子どもたちからすると、「なんで分けるの?」「なんで一緒に遊んじゃいけないの?」と納得いかないですよね。
アフタースクールは学童保育と放課後子供教室を一体化させた仕組みなのですが、それを千葉市で初めて導入したのがその小学校で、その運営を私たちが担っています。加えて、千葉市全体の放課後全体を支援するという役割もいただいています。
その自治体の首長は、ご自身も共働きで、子どもたちの放課後に対する理解も深いんです。その学校は、今回のコロナ禍では14時まで学校で教員が子どもたちを預かってくれました。私たちが把握している公立では唯一だったと思います。日本全国ではそういう学校がほかにも色々とあったかもしれませんが、一都三県では珍しいケースで、「さすがだね」と言っていました。
――首長のリーダーシップは大事ですね。
平岩:大事ですね。いろんなセクションをまたがってしまう場合の判断は首長にしかできませんから。
厚労省系の保育園と文科省系の幼稚園を一体化させて「こども園」として内閣府の所管にしたように、自治体でも「こども部」のようなものをつくって対応にあたるところも増えてきました。
――アフタースクールは社会インフラと言われるまでに広がってきましたか?
平岩:社会インフラになっているかというと、まだ全然ですね。ただ、やはり今回のことで学校活用モデルの放課後は強いということがよく分かりました。密を防ぐという意味でもそうだし、ふだんから来ている学校でいろんな場所を使いながら子どもたちが多様な経験をできるという意味でも。だからもっと広がってほしいなと思っているんですけど、やっぱりまだ学校と学童が分断されているところがそう簡単には解決できないですね。
――学校側も先生方がいろいろ抱え込み過ぎているように見えるところもあるので、うまく連携していけるといいですね。
平岩:学校も自分たちだけでやろうとしないで、今回私たちが一時的にオンラインでつながって子どもたちの心理的ケアをしたように、サブエンジンとして放課後チームを持っておくといいと思います。
先生方が動けないときもあるだろうし、全員一律に提供したいという気持ちもあると思うので、今回のような危機的状況でこそ、カリキュラムや平等性に縛られずに柔軟に動ける私たちを頼ってほしい。なにより、私たちは家庭との距離が近いんです。ふだんから家庭と接したりしているし、家庭から見ても、私たちは先生方と接するより気楽だと思うんです。成績付けたりしないので(笑)。
こういう場面では私たちのような存在が生きるので、ふだんから学校と放課後の部隊が協働しておくと、子どもたちへのメリットは大きいと思います。学校はこういう危機に強くなるためにも、子どもの学びを豊かにするためにも、自分たちだけで背負わないでもっと社会とつながっておくべきだと思いますし、そこはいちばんこれから変わってほしいと思う部分ですね。
――いろいろと大変だったと思いますが、前向きなお話もたくさんありますね。
平岩:いまも大変なことはたくさんあるし、私たちの組織も経済的な痛手は大きくあります。そこは正直いってつらいところです。働き方が変わって在宅が増えると、もうアフタースクールに行かなくてもいいやという話も出てくるかもしれません。
でも、子どもの過ごし方が進化した部分もありますし、最も大きかったのは意識の変化だと思います。学校や子どもの世界はどうしても「今までからこれからのことを考える」という傾向があります。しかし今回のように今までの当たり前を簡単に崩される経験をすると、「先の未来から今を考える」いわゆるバックキャスティングの発想の必要性を痛感します。学校・放課後、また先生・保護者・地域が「今後を踏まえて今どうあるべきか」という話し合いができるようになっていくとますます子どもの世界は豊かになると思います。
――お子さんをひとりで置いておけないからという意味での学童の必要性はなくなるかもしれませんね。在宅勤務が進んで子どもを預けなくても大丈夫ということもあるとは思いますが、生産性を上げるために想定されてきたテレワークと、今回のように子どもも家にいて行うテレワークはまったく違うと言われていて、子どもが家にいるかいないかで在宅勤務の生産性がまったく違うという声も挙がっています。在宅勤務が平準化すると、その間預けたい人が増えるという、これまでとはちょっと違うニーズが生まれてくるかもしれません。
平岩:そうかもしれませんね。いままでは両親が不在の家で子どもが留守番していたけれど、逆に親が家で仕事をするから子どもはアフタースクールにいってらっしゃいということもあるかもしれません。
でもそれでいいと思います。自宅でできることは限られますし、やっぱり友達と過ごす時間ってすごく大事なので、ぜひ来てほしいなと思います。
――「準最前線」と表現されていたように、社会にとって絶対に必要な大切なインフラだと思うので、税金のほか、市民からの寄付などによっても支えていける仕組みがうまくできていけばと思います。労力的、経済的ダメージで認可外保育所や学童が倒れてからその重要性に気づくというのでは悲しいですよね。
平岩:医療従事者は今回本当に最前線で闘ってくださったと思いますが、その後ろで支えている存在がいるということは、まだあまり意識されていないと思います。今後はもう少し気づいてもらえると嬉しいなと思いますね。
――最後に、この記事を読んでくださる方々に伝えたいメッセージはありますか?
平岩:学校が、学童や地域や放課後と協働モデルをつくっていくということが、これから必要になると思います。オンライン授業も家庭に誰かがいる前提で行っていること多かったと思いますが、学童で学校のオンライン授業が始まってから子どもの学習をサポートしていたように、ふだんから協働していれば、それらももっとスムーズにできます。
先ほども言いましたが、ふだんやっていないことは緊急時にはできません。だから、ふだんからやっていきましょう、ということは、何度でも繰り返し伝えたいですね。子ども中心に考えて、また危機が起きた場合に手が打てるようにしておくことを、教育現場のニューノーマルにしていきたい。「それぞれ立場は違いますが、みんな子どもの味方なんだから、子どもたちのために手を取り合っていきませんか」というのが、今回ぜひお伝えしたいメッセージです。
今回、子どもたちは大人たちの都合をずいぶん受け入れざるを得ませんでした。3月から突然準備もなく休校になってしまい、寂しく辛い思いをした子も多かったです。ですから、今回の事態で学んだことを、何かしら子どもの世界に還元しないとその子たちが浮かばれないと思っています。
――本日はありがとうございました。
平岩 国泰(ひらいわ くにやす)*1974年、東京都生まれ。2004年、第一子誕生を機に放課後NPOアフタースクールの活動を開始。子どもの放課後を安全で豊かにするため、学童保育とプログラムが両立した「アフタースクール」を展開。プログラムは地域の大人を「市民先生」とし、子どもたちに提供している。衣食住からスポーツ、音楽、文化、学び、遊び、表現まで多彩な活動を展開し、現在までに参加した子どもは累計のべ100万人を超える。グッドデザイン賞を4度受賞。2019年6月より、学校法人新渡戸文化学園の理事長に就任。