教育現場と子どもの世界のニューノーマル

放課後NPOアフタースクール 代表理事 平岩国泰 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

3、距離を超えた世界の広がりがこれからの子どもたちのニューノーマルになる
 
――いま、ニューノーマル、新常態、新しい生活様式といったことが盛んに言われていますが、そうした中で子どもたちの居場所はどうなっていくのでしょうか。これまで提供してきたものの変わらない価値もあれば、新しいやり方もあると思います。それぞれどんなものがあるとお考えですか。
 
平岩:変わることなく大事であり続けると思うのは、友達との時間や、好きなことを好きなだけやれる時間、リアルでの体験や経験です。それらは非常に価値のあるものだと思います。今回、一斉休校によってそういうものが全部できなくなってしまいました。友達とも実際には会えなくて、バーチャルだけだし、家庭でできることも限られていて飽きてしまったりしている様子が見られました。
 
 今回の危機を経て、子どもの世界でのニューノーマルがどうなるかは全てわかりませんが、良い意味での多様性が生まれているかなと思います。いままでは学校も放課後も画一的で、過ごす場所や過ごし方が決められていました。でも今回のようにいろんなことが一旦崩れ去ると、地方の子とオンラインでつながって遊ぶとか、海外の子と話すといったこともできるようになります。
 
 いままでは自分が通っている学校に閉じこもって時間を過ごさなければいけなかったところから、オンラインというどこでもドアを手に入れて世界が広がりました。そういう多様な広がりといったものが、これからの子どもの世界のニューノーマルだと思います。
 
 また、これからオンライン授業を充実させていくことを考えると、各学校でそれぞれの先生方がオンライン授業教材をつくるのは大変だし、レベルに大きく差も出ますよね。だから、オンライン授業が上手な先生を国で数人選んで、その人のオンライン授業を共有したらいいのではないかと思っています。算数をオンラインで教えることにかけては、この先生の右に出るものはいないという先生を見つけてきて、全学校にその先生の授業を全国で配信するんです。日本の学習は学習指導要領に則りほぼ同じペースで全国的に進んでいくのが強みなので、その強みが生かせます。
 
 一方で「知らない大人の授業は頭に入らない」という子どもたちの声もあるので、国で選んだ先生の映像授業を各学校の先生と生徒で一緒に観ながら、途中で映像を止めて解説したり、理解度を確認したりといったかたちで授業をすると、効果が上がると思うんです。指導者側から学習者側に教師の目線が移動して、これまでは教える⇔教わるという反対方向を向いていたベクトルが、ともに学ぶという同じ方向のベクトルになります。これはとても大きな変化だと思っていて、子どもたちと同じ方向を向いて学び、伴走スタイルで導く先生が増えたら、今回のことをピンチがチャンスになったと思えます。
 
――東進ハイスクールのような感じですね。カリスマ講師がいて、全国に授業を流して、それぞれの教室ではTAがフォローして、という。
 
平岩:そうですね。オンライン授業を各学校で大変な苦労をしてつくって、クオリティにばらつきが出るよりも、国、あるいは基礎自治体や都道府県の単位でまとめてやったらどうかなと思っています。そして実際には既に民間事業者の優れた映像授業がたくさん世の中にあるので、どんどん活用したらいいと思います。
 
――アクティブラーニングとか、インタラクティブ性のある授業の必要性もよく言われていますが、そのあたりはオンラインではどうなのでしょう? 講義形式はオンラインでも十分だと思いますが、インタラクティブ性はリアルのほうがつくりやすいですよね。
 
平岩:オンラインだと、全員参加型の授業、一人も取り残さないという状態は逆に作りやすいと思います。リアルな教室だと手を挙げて当てられた子しか答えられないけど、オンラインだと同時にみんなの答えを出せたりしますから、アクティブラーニングに向いている面もあると思います。リアルもオンラインもそれぞれの良さがあるので、その最適なミックスが8:2なのか7:3なのかというところをこれから探していくのだと思います。私はリアル8:オンライン2くらいかなと感覚的に思っていますが、週に1回とか、月に2回とか、オンラインで授業を定期的にするようにしておくといいのではないでしょうか。
 
 こういうことを考えると、今回起きた危機と変化は、日本の教育の時計の針を10年分くらい早回ししてくれたと思います。
 
――そうですね。学校はもちろん、ビジネスマンも同じ時間に同じ場所に来なくても回る仕事もあるということを体験できたと思うので、満員電車も多少緩和されていくのではないかと期待しています。
 
平岩:アポイントの取り方とか、はんこ文化とか、以前は一体なんだったんだろう?という感じがしてきますよね。そうやって新しい価値観をみんなでバランスを取って実施していけば、ウイルスと共生できるんじゃないかなと思います。

関連記事