「問題解決ができるかどうか」に徹底的にこだわりたい

かものはしプロジェクト 共同代表 青木健太 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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青木さんのインタビュー第1回、第2回、第3回はこちら:「『子どもが売られない世界をつくる』―かものはしプロジェクトの挑戦」「カンボジアの支援終了とコミュニティファクトリーの独立」「商品を通じて、エネルギーと応援を届けたい
 
――カンボジアの事業部としてはかものはしからの独立後、どのような法人格でSUSUの事業を行っていかれるんですか?
 
青木:基本的にはNGOでやっていくことを検討しています。
 私たちがいちばん大事にしていることは、コミュニティファクトリーで働く女性の成長であって、そのためにブランドやビジネスは大事なプロセスであり、手段ではあるけれども、やはり目的ではないなと思っていて。教育やよりよくするための実験にもお金はかかり続けるので、寄付や助成金など、非営利のお金も受け取っていかなければならないと考えています。
 
――かものはしプロジェクトは、「NPOの社会的責任」としてCSRならぬNSRを掲げていらっしゃいますよね。NPOやNGOが社会で果たすべき役割や責任は、企業や行政とどのような相違点があると捉えられていますか?
 
青木:まず、NPOが社会で果たすべき役割というのは、企業や行政とはけっこう違っていると思っていて、お金にならなかったり、事業化しづらい領域に対して、実験的な取り組みを行ったりしてニーズを深掘りしていくようなところにあると思っています。
 とはいえ、組織として、人からお金をもらったり払ったりしながら、法律に従って活動していく中では、むしろ共通することのほうが多いわけです。NPOだからずさんなやり方も許されるなんてことは絶対にないわけで、むしろ社会から寄付などのかたちでお金を預かった活動している分、説明責任を果たしていく必要があります。だからガバナンスという意味では一般的な企業というよりも上場企業のような社会的な公器と大きな共通点があると考えています。
 もともとかものはしには、本当に自分たちに必要なことであると思うものは採用するというフラットなスタンスがあったので、山元(PubliCo山元圭太氏)がそうしたことに関心が高かったことをきっかけに、組織のガバナンスをよくするツールのひとつとしてNSRに取り組むようになりました。
 
――かものはしプロジェクトは海外の現場で活躍されていますが、そうした中で、日本のNPOができていること、できていないこと、今後やらなければならないことなど、感じることはありますか?
 
青木:自戒も込めてですが、日本にいると、プロフェッショナルとしての質も量も足りていないということを感じます。がんばっている人たちがたくさんいるということは承知の上で、プロフェッショナルとしてNPOで働いている人の人数もまだ少ないし、専門性も低いし、エネルギーも少ない。
 ただ、見えてこないだけだったり、発信していないだけというケースもたくさんあるのだと思いますが、プロとしてすごいモデルをつくったり、先陣をきって道を切り拓いたり、ニーズに深く寄り添ったりといったことができる人が増えて、それが社会の中で当たり前の存在になっていくということを、もっとやらなければいけないと思っています。
 組織としてまだ小さかったり未熟だったりといったところが多いので、そこはまだまだこれからですよね。NPOは企業や行政が拾えないニーズを拾ったり、実験的な取り組みにチャレンジしたりするところなので、最終的にマジョリティになるということはないと思いますが、数的にも規模的にも質的にもジャンル的にも、もっといっぱいあっていいと思うんです。
 企業とNPOの境目とか敢えて意識せずにチャレンジしていくソーシャルビジネスのような取り組みがあってもいいし、行政と協働して仲良くやっていくのもいいし、逆に緊張感をもって行政を監視するのもあっていいと思いますし。あとは、アドボカシー系の団体でうまくいっているところがまだあまり多くないので、かものはしも含めてがんばっていきたいところですね。

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――かものはしプロジェクトが、絶対に譲れない価値観のようなものはありますか?
 
青木:僕たちが内部で「ミッション原理主義」といっている価値観は確固たるものになってきているように思います。問題解決にこだわるという視点ともいえますが、まず社会の問題があって、本当にそれを解決するというミッションが達成できるかどうかが大事であって、それ以外のことは二の次、という感覚が徹底されています。
 ただ、どれくらいその問題の解決に貢献したかというソーシャルインパクトは往々にして測定することが難しいのは悩みです。僕たちの活動の場合でいえば、すでにお話したように被害者の数も分かりにくいので、そちらに目を向けずになんとなく活動するということも、やろうと思えばできてしまう。だけど、活動がそれなりの人達に支持されますとか、目の前にいる受益者が喜んでくれますという話と、人身売買問題が本当に解決できるかどうかは、イコールではないですよね。
 かものはしプロジェクトは、どれだけのエネルギーや力をその問題の解決のために使えるかということにこだわりたい。だから調査にも力を入れるし、ディスカッションもするし、必要に応じて事業モデルもつくり変えるしという姿勢は、そういう価値観があってこそだと思っています。かものはしプロジェクトとしては問題が解決しつつあるカンボジアから撤退するという意志決定もその一つの象徴であると思います。僕自身がこれからかものはしからは独立して続けていく教育とSUSUというチャレンジの中でもその姿勢を大切にしていきたいと思っています。
 大切にしていることはほかにもたくさんありますが、あえてもうひとつ挙げるならば、「関係性にこだわる」いうことでしょうか。これは二つの意味があって、1つ目は採用した人がミッションとどういう関係でいるかということと、2つ目はスタッフ同士の関係性の質がどうか、ということです。
 1つ目のことは、かものはしの立ち上げの時にお世話になった方に言われたことの影響もあるのですが「この団体の人だから、この団体の仕事をやる」のではなく、「一人の人間として、自分の人生で成し遂げたいこと、ありたい自分と一致しているかどうかを常に問いながらその団体に関わることを選ぶべきではないか」ということです。つまり組織と自分の関係はフラットであり、お互いに成長と貢献があるかという緊張感があるものであるほうが良いのではという提案です。もしくはいかに自分の人生のミッションやビジョン、価値観を実現できるかということに組織を最大限利用してほしいというメッセージでもあります。もちろん自分の価値観やミッションというものは顕在していないことも多く、また固定的でないこともあるので、団体が掲げるミッションに共感して心を尽くして仕事をしてくれるなかで是非発見して深めていってほしいという願いでもあります。だからかものはしではスタッフが良い卒業が出来ることは歓迎されます。今回の僕自身もそれにあたると思います(笑)。
 2つ目のスタッフ同士の関係性というのは、一言で言えば生産性も高く関係性も良い職場作りを目指しているということです。人間としてお互いを尊敬しつつ、言うことは言える。組織の発展・目標をおしつけるのではなく、その人のキャリアや個性を理解して仕事を調整していく。そのために組織開発やシステムコーチングと呼ばれる手法を導入したりしながら関係性を充実させていくことと、それぞれの人がコーチングをうけながら自分の囚われやトラウマと戦っていくことを組織として支援しています。
 
――一人ひとりのパフォーマンスの集合体が組織としての成果だと考えると、とても重要なことですね。
 
青木:パフォーマンスを集合するときって、足し算より掛け算的なところがあると思うんです。単に能力のある人が10人いたらその能力の合計が組織の成果になるかというと、そういうわけではなくて、組織内の関係性とか、それぞれが自分のエネルギーをどのくらい出してくれているかということが、とても効いてくるんですよね。
 とくに自分達が取り組んでいることは刻一刻と被害者が心の傷を負ってしまうような深刻なことが現地で起きていたり、そんな中で自分達の無力感を実感したりということと向き合っていかなくてはいけません。心の底からエネルギーがでるような、仲間とのふれあいからエネルギーをもらえるようなそんな働き方でなければなかなか続けていけないという問題意識があるのかな、と思います。そのためには関係性の前提としての安心・安全を職場に作っていくということも大事です。
 なかなか注目されないことではありますが関係性づくりに投資するということは、成果を追求する上で合理的でもあるし、みんなが生き生き楽しく働くために大切なことだと思っています。

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――かものはしプロジェクトは学生インターンと社会人インターンを採用されていますよね。みなさんすごく優秀なイメージがありますが、採用とか人材育成のコツはなんでしょうか。
 
青木:そうなんですよね、日本事務所はとくにインターン生が活躍していて、優秀な人も多いし、育成もすごくがんばっていると思います。僕はカンボジアから見ているだけなので「すごいなー」なんて他人事みたいに言ってるんですけど(笑)。
 コツらしいものといえば、いちばんは仕事を任せること。一方で、任せっきりにするのではなくて、それをちゃんとケアできるスタッフが多いこと。社会人インターンは別として、学生インターンは最初からそんな高いビジネススキルを持っているわけではありませんし、それは一朝一夕で身につくものでもありません。でも彼らがその時点で持っている力をどれくらい発揮できるか、ということは結構変わりうるんです。持っている能力を100としたら、それをどれだけ引き出せるかが大事だと思っています。組織を構成しているメンバーが、それぞれ出す能力は20とか30でいいじゃん、100とか別に出さなくていいよね、というふうになっていたら、組織としてもなかなかエネルギーは出ませんよね。
 スタッフの関係性の話とまったく同じだと思うのですが、力を出したいと思えるかどうかに影響することって、人と人の関係性とか、なんでその人がそれをやりたいと思っているのかだと思うんですね。だから、「本当にやりたいことは何?」「かものはしでどういうチャレンジがしたい?」といったことを、1か月に1回とか、定期的に面談をして問い掛けるんです。そうすることで、みんなが自分の課題ややりたいことをしっかりつかんでいきます。時には「かものはしで学んだことを新しいことに活かしていきたいので卒業します」というケースもありますがそれもよし。いずれにせよ、すごく前向きなエネルギーを持って活動に関わってくれる。
 そういう関係性づくりや、フィードバックが、インターン生たちの力を引き出しているんじゃないかなと思います。
 
――スキル教育に力を入れているというよりも、それぞれが本当にやりたいことはなにかをひたすら問いかけて、引き出していくという感じなんですね。
 
青木:それがいちばん大きいと思います。最近はマネジメント能力が高いスタッフも多くて、ビジネススキルが十分でない学生が関わっても事業のPDCAサイクルを回す仕組みがすごい精度でできている、という部分もありますが、根本はそうした問い掛けだと思っています。
 営利企業だと、収益をあげなければいけませんから、極端な話「意味とかいいから、手を動かして」みたいなことにもなりがちだと思うんですが、僕たちは非営利の力で活動していますから、その人が本当にやりたいことにつながることでないと、やっていられないんですよね。かものはしでインターンをやっている時間をバイトに充てればお金だってもらえるのに、かものはしで無償で活動してくれる。だったら、こちらは何を提供してあげられるのかということを、いつも真剣に考えています。

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――かものはしのインターンで成長した人たちは、かものはし卒業後、きっとどのセクターに行っても活躍する人材になっていると思いますし、NPOやNGOのスタッフになるというかたちでなくても、社会課題解決に対する意識や志を忘れずに人生や仕事につなげていけそうな気がします。最後に、かものはしのインターン生のような、社会課題を解決するとか、社会に価値を提供できるような人材を育てるためにとくに日本社会に必要なことは、どんなことだと思われますか?
 
青木:かものはしでインターンをすることです、と言いたいところですが(笑)、営利企業でも非営利団体でも、それが仕事でなくても、社会の課題っていくらでもあって、それに対するアプローチもいくらでもあるじゃないですか。それでも解決されていない課題がたくさん残っているということは、お金がつかないのか、そもそも見過ごされているのかはともかくとして、継続的にエネルギーを注いでその課題に向き合える人があまりいないからだと思うんです。
 なにかに目を向けて、力を傾けるということは、それが自分の内面から湧き出るものであったり、受益者の方からエネルギーをもらえるとか、相互にエンパワーメントし合えるような関係性を築けるものでなければ続きません。そのときに大事なのは、取り組む内容とかやり方とかじゃなくて、他人にどう言われようが、本当に自分はそれをやりたいと思っているかどうかということだと思います。「社会的にこれをやらないとやばい」ではなくて、自分がわくわくするかどうかで決める。そんな決め方を増やせる社会になっていけばいいと思います。
 そのためには、半年とか数年とか、「これは自分とつながった、自分のプロジェクトだ」と思えることにチャレンジする機会を増やしていくことだと思います。変な人や変なプロジェクトもいっぱい出てくると思いますが、そうしたチャレンジを受け入れる、応援する空気になるということが大事なんじゃないかなと思います。
 やっぱりエネルギーなんですよね。課題解決のためにずっと活動し続けるエネルギーがあるか。そのエネルギーは何が生み出すのか。社会起業家でも、バーンアウトしてしまう人も多いですからね。
 最近はソーシャルビジネスのすそ野も広がってきて、社会課題解決を仕事としてやれる人も増えて来ています。ボランティアとして活動するのではなく、給料もちゃんと支払えるNPO・NGOが増えて来ている。具体的にどのくらい増えているのか統計的には把握していませんが、NPOが仕事として認識されるようになってきていて、「食べていけないからやめます」という言い訳はできなくなってきていますよね。
 国際協力という文脈でいうと、いまやっているように国際協力に携わったりできるのってけっこうレアなチャンスだと思っています。僕は大学まで行かせてもらえて、バイトもしないで活動に没頭できるくらい経済的な条件も整っていたし、僕が生まれ育った日本という国がカンボジアよりも経済的に発展していて、いろいろやれることがあったとか。それって僕の努力によるものじゃないんですよね。僕と同じ年にカンボジアで生まれた人には、そういうチャンスはなかった。
 そういうことに思いを馳せると、いま僕たちがやっているような活動というのは、権利でもあるし、義務でもあるし、すごくやりがいのあることだっていう感覚があります。その問題を知ってしまって、やれる方法も今はあるのに何故やらないのか、ということです。ぐずぐずしていると30年後にはまた状況が変わって、いまみたいなことはできないかもしれない。日本にも貧困とか格差の問題が迫ってきているわけで、やっぱりいろんなことに影響されますから。だから、いまやれる状況にあるということはラッキーだし、いまやっていかなきゃならないんですよね。
 カンボジア人からすれば、何人が社会をよくしてくれるかということはあまり重要じゃないんだと思います。そこからエネルギーを得られる人であれば、カンボジア人でも日本人でもどこかほかの国の人でも、やれる人がやるというのが大事だと思います。もちろんその偶然やご縁には感謝しないといけません。いま僕たちがこうして活動できるのは、日本の親の世代ががんばってくれたから。そのレールの蓄積があるからだという感覚がすごくあるので、僕たちは僕たちのやるべきことをやりながら、そのレールを次の世代に引き継げるようにもがんばれたらと思います。
 
――本日はありがとうございました。
 
 
青木 健太(あおき けんた)*2002年、東京大学在学中に、「子どもが売られない世界をつくる」ことを目指し、村田早耶香氏、本木恵介氏とともに「かものはしプロジェクト」を立ち上げる。IT事業部にて資金調達を担当した後、2008年よりカンボジアに駐在し、コミュニティファクトリー事業を担当。
 
【写真:長谷川博一】

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