拡大フェーズの混乱と代表の交代を迎えて

NPO法人 e-Education 代表 三輪開人

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――バングラデシュでは、現地の予備校の先生の講義を撮影して配信するかたちだったということですが、先生方の反応はいかがでしたか?
 
三輪:結論から言うと、うまくいきました。バングラデシュでは、いちばん最初の映像授業を、マヒンがアルバイトをしていた予備校の塾長にお願いしたんです。ザハンという英語の先生なんですが、彼はバングラデシュでは3本の指に入るほど有名な英語教師で、そのザハンの授業を映像で受けられるということで、村ではもう大フィーバーになりました。
 
 教え子であるマヒンと、日本からやってきたアツ、「この国の教育を変えるために先生の力を貸してください」と頼み込むふたりの若者の熱意に押されて、ザハン先生は一年目、ほぼ無償で授業の撮影に協力してくれたんです。
 
 その後も、ザハン先生をはじめ、先生方はかなり割安の授業料で映像授業に協力してくださっています。日本の予備校講師の相場と比べても、本当に破格の金額です。しかも、無償で子どもたちに届ける限りは永久にそれ以上のリターンは求めないということで、撮影した授業をどんなにたくさんの子どもたちが活用したとしても、先生方へのお支払が増えるということもないんです。
 
――それは税所さんやマヒンの情熱に動かされた部分に加え、社会貢献になるという部分が彼らのモチベーションになっているのでしょうか。
 
三輪:強いですね。バングラデシュの教育問題について、決してみんな無関心なわけではありません。ほんとうは、みんななんとかしたいと思っているけれど、手立てがなかったり、方法を知らなかったりした。だからこそ、そういう思いをもっていた現地の先生方から共感を得やすかったのだと思います。
 
――授業を撮影するにも、その映像を見るにも、デバイスが要りますよね。はじめはどのように調達されたんですか?
 
三輪:詳しくはアツの著書(『前へ!前へ!前へ!』木楽舎刊)に書いてあるんですが、私たちも資金調達の努力はしていたものの、やっぱり最初はお金がありませんでした。初期投資として100万円くらい必要だったんですが、どうしても自分たちだけでは用意できなくて、アツが日本に戻って、東進でお世話になっていた板野先生にお願いして、キャッシュで90万円ほど寄付していただいたんです。リターンは一切なしです。「若者が挑戦することを応援するために、僕は予備校教師になったんだ」と言ってくださって。予備校講師の鑑だと、心から尊敬しています。もう一人、一橋大学の米倉先生も、数十万年の資金を出してくださいました。最初の一年は、ほぼそのお二人にいただいたお金で動かし切りました。
 
――東進ハイスクールと、法人として連携することはないんですか?
 
三輪:調査費として資金をいただいたこともありますし、もっと大きな金額で協働のお話をいただいたこともあります。ただ、どうしてもどうビジネス化するかという方向に話が行ってしまいがちで、私たちは本当に届けたい層から離れてしまうかもしれないので、現時点では法人としての連携はしていません。ただ、私も東進のOBであり、何か東進や生徒の皆さんに恩をお返ししたいですし、途上国の教育課題を解決するために何かご一緒できないか、これからも考え続けます。
 
――いま、e-Educationの活動資金はどのように調達されているんですか? 映像授業の提供は、受益者負担ではないのですよね?
 
三輪:一部受益者負担モデルもつくり始めてはいますが、基本的には委託事業や助成金といったかたちで、外から資金をとってくるかたちになっています。

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