保育園からつながる地域コミュニティ
――そういえば、この吉祥寺のカフェスペースも、おしゃれで落ち着いたインテリアで統一されていて、園庭で子どもたちが遊んでいる様子が見えなければ、保育園の中とは思えない雰囲気ですね。
松本:子どもがいる空間だからと言って、いわゆる子どもじみた環境にする必要はないと思っているんです。大人にも子どもにも心地よい環境であれば、ちゃんとした家具を使った、ちゃんとした空間にしたい。あまりお金はかけられませんが、なるべくレンガや木材、石といった自然素材をつかって、工夫して空間をつくっています。
ここはカフェと呼びつつ、まだ小竹向原のように地域に対してオープンにはできていませんが、今年中に子育て広場というか、お悩み相談を受けるような場を設けて、少しずつ地域に対して開いていこうと思っています。
私たちが大事にしている考え方のひとつに、コミュニティの年輪論と呼んでいるものがあります。私たちが理想としているコミュニティのかたちを、木の年輪に例えて表現しているのですが、木が豊かに育まれていくためには、年輪の芯にあるものがまっすぐで強固でなければならない。年輪の芯にいるのは誰かというと、子どもです。そのひとつ外側の層には、保護者と保育者がいます。もうひとつ外側の層には、おじいちゃん、おばあちゃん、親族の方、保育園をお手伝いしてくださるボランティアさん、あるいは食材業者さんや家具をつくっている大工さんもいるかもしれません。そのさらに外側の層に、その地域に暮らす人や働いている人がいて、広い社会や世界が広がっていく。
その層と層の橋渡しをするのが、コミュニティコーディネーターですが、この年輪の芯を強く、まっすぐに支えるのが、保育者と保護者の信頼関係だと思うんです。保育者と保護者が、子どもの捉え方などについて、しっかりコミュニケーションをとれていなければいけない。
保育者と保護者が、子どもにどういう環境をつくっていきたいかとか、地域がつながり合うということがどういう意味を持つのかとか、それぞれが自分らしくあれる場、自己実現ができるような場所とはどんなものなのかとか、丁寧に対話を重ねるというプロセスを経て、初めて地域に開いていく。
そうしていかないと、いきなり地域に対して保育園を開いても、「この園のポリシーってなんだっけ?」ということになってしまうし、保護者の方が理解してくださっていないと、「そんなふうに地域に開かないでください」「安心・安全を確保してください」という観点から否定的な意見が出るかもしれません。だから、それが子どもにとってどんな意味をもつのかとか、大人が健やかに楽しく過ごすことが子どもの成長にどう影響するのかといったことをしっかりと共有していく必要があると思うんです。
この吉祥寺の園は昨年10月にできたばかりで、まだ7か月くらいですから(※5月取材当時)、まず半年くらいは、保護者の方々と私たち保育者がきちんと出会って対話を重ねていくということが必要だろうということで、保護者の方同士がつながったり、保育士と対話したりする場としてカフェを運用してきました。
今年、そろそろ地域に対して開いてみようかなと考えているのは、そうした層がだんだんできてきたと感じているからです。けれども、実際開いてみると、実はあまり共有できていなかったということもあるかもしれない。その場合は、また戻ってみる。そうやって少しずつ丁寧に、まちに開かれた保育園という文化をつくっていくことが大事だと考えています。