市民活動を支える地域のお金の流れをつくりたい

京都地域創造基金 理事長 深尾昌峰

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「俺は社会のために飲むぞ!」
 
 特筆すべきは、寄付を集める財団と同時に、それを実際に活用する団体の信用を流通させる仕組みをつくって横に置いたことだ。「きょうえん」を京都地域創造基金と同時につくり、集まった寄付の用途を確認できたり、「寄付を集める目的がわからない」という不安を感じる人のために、NPO側が情報を発信できる環境を横に置いたことで、寄付が集まりやすくなった。
 
「京都地域創造基金は市民でつくった自転車操業型の財団なので、寄付をしっかり集めないと、活動資金を吐き出すことができません。かつ、それを広くいろんな人たちに知ってもらって、参加してもらう仕掛けを創り出していかなければならないと思って、カンパイチャリティという仕組みをつくりました」
 
 カンパイチャリティとは、居酒屋の協力のもと、寄付を集める仕組みだ。たとえば、通常350円の生中を400円で販売してもらい、差額の50円を寄付に回す。寄付する先は事前に選んでもらった。
 
「これまでに3回キャンペーンを行い、多くの居酒屋さんに協力していただきましたが、地域経済圏みたいなものを意識してお願いに回りました。大手全国チェーンの居酒屋さんに協力してもらうと、一気に全国に広がるのでいいんですけど、それでは結局いろんなものが東京に行ってしまう。僕たちは、このキャンペーンが京都で商いをされている方々のお店がお客さんに選択されるひとつの機会になればいいなと考えていたので、全国チェーンではなく、京都の中で商売をされている方々にお願いに行きました」
 
 そうしたお願いを断る人は、誰もいなかった。あるオーナーは、「ほんとうにうちの店でこんなことができるのか。こういうかたちで、うちの店が社会の役に立てるのか」と、涙を流しながらスタッフの手を握りしめたという。
 
「そのオーナーは京都で数店舗を経営されていましたが、一斉休暇日をつくり、全店舗の社員、バイトを集めて、私たちにプレゼンテーションの場を設けてくださいました」
 
 その取り組みは、深尾さんも驚くような効果を生み出した。その頃、朝ごはんを食べられない子どもたちのために地域食堂をつくる動きがあり、このキャンペーンではそうした子どもの貧困問題に取り組むNPOを寄付先に選ぶ経営者が多かった。
 
「私自身も協力してくれたお店に客として行ったんですが、カンパイチャリティのポップが置いてあるので、『これはなんですか?』ってわざと訊いたんですね。そうしたら、バイトの女の子が、120%の説明をしてくれるんですよ。『お客さん、よく訊いてくれました。この国には朝ごはんを食べられない子どもたちがいるんですよ。お客さんは4人で来てくれたから、みなさんがこれを頼んでくれたら、ちょうど一食分になって、ハッピーじゃないですか』って、彼女なりの表現で一生懸命説明してくれるんです。もう、僕は涙が出そうになって」
 
 店内を見渡すと、どの店員も、各テーブルで一生懸命勧めてくれているのがわかった。
 
「これはどういうことかというと、その瞬間、店員さんたちは、その団体のファンドレーザーになっているわけです。団体の活動をPRして、募金を集めてくれているわけですから。そうすると、ちょっと離れたテーブルにいたおじちゃんなんかが、『そうか!俺は社会のために飲むぞ!』なんて言って、ご機嫌に飲んでいるわけです。まあ口実なんですが(笑)、非常に健全だなと感じました」
 
 この光景は、深尾さん自身にとっても非常に励みになったという。
 
「寄付が集まらないのはそもそも頼んでいないからだということを裏返してみると、こうやってさりげなく参加できるような頼み方があれば、人はみんなハッピーな顔をしながら協力してくれるっていうことがわかったんです。そういう人たちは50円の寄付にとどまらずに、帰り際にもレジ横に置いてもらった募金箱にお金を入れて帰って行く人が多かった。おつりをぜんぶ入れていく人もけっこうおられましたね」
 
 また、常連の通っているお店ならば、キャンペーン終了後も「あれ、どうなった?」と訊かれることがある。そうしたお店は、お客さんからの質問に答えるためにも、継続的に寄付をした団体とコミュニケーションをとっている場合が多い。すると、継続的な寄付や応援、ボランティアへの参加といった新たな関係性がそこに生まれてくる。
 
「コーズリレーテッドマーケティングみたいな観点から考えても、こうした取り組みが、選択される理由のひとつになっていけばいいと思っています。『どうせ飲むなら、あのお店で社会に役立つような飲み方をしよう』みたいな感じで、地域の中でお金を循環させて地域経済がうまく回って行くっていうことと、社会課題の解決のためにみんなが気持ちよくお金を寄せていくっていうことが、うまく循環していけばいいな、と」
 
 カンパイチャリティキャンペーンは、すでに3回が終了し、京都の飲食店のべ100店舗以上が参加した。京都で始まったカンパイチャリティは、千葉、沖縄などさまざまな地域でも模倣され、全国的な広がりを見せている。

(第二回<ソーシャルなお金を生み出す仕組み>へ続く)
 
 
 
深尾 昌峰(ふかお まさたか)*1974年生まれ。大学在学中に起きた阪神・淡路大震災でのボランティア活動をきっかけにNPO活動に携わる。1998年にきょうとNPOセンターを設立、初代事務局長を務める。以降、日本初のNPO法人放送局の設立、公益財団法人の設立など、さまざまな活動に精力的に取り組んでいる。公益財団法人京都地域創造基金理事長、特定非営利活動法人きょうとNPOセンター常務理事、特定非営利活動法人京都コミュニティ放送副理事長、社団法人全国コミュニティ財団協会会長、龍谷大学政策学部准教授。
 
【写真:長谷川博一】

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