受けたい教育を選べるしくみに
「多様な学び保障法」がもたらすもの
海外でも公的な学校からフリースクールへ移る子どもがいる。日本と違うのは、「自分はこっちのほうがいい」と、自らの意思で肯定的にフリースクールを選び、堂々としていることだという。この、学校以外を「選べる」ことが重要なのだと、奥地さんは言葉に力を込める
「自殺まで思いつめた経験を持つ子はやっぱりいるんです。シューレに来ているのは、幸い自殺まで至らなかった子たちですが。子どもは学校へ行くものだと、本人も周囲も思い込んでいるから、休んでいい、学校に行かなくていいなんて思いもしなかった。だから、こんなにつらいんだったら、もう死んだほうがいい、なんて考えてしまうんですよね」
いじめ被害者の自殺という痛ましい事件が起きるたび、社会では議論が盛り上がり、いじめの防止や早期発見の対策を国や学校側に求めるが、それだけでは足りないと、奥地さんは言う。
「いじめがあって苦しいときに、ほかの学びの場も選べたら。そうなるようにしくみを変えることが必要だと思いますね。でないと、いのちが救えない」
さらに、「休む」という選択肢を認めるべきだとも、奥地さんは付け加える。
「学校でいじめとか苦しい状況があれば、まずはそこから離れて逃げること。逃げる先はまず家庭になりますよね。だから学校を休む。じゃあフリースクールに、ってなったとしても、そんなにすぐには合うところも見つからないと思うし、一旦休むことが大事です」
苦しんで学校に行けないまでになっている子どもたちは、疲れ切って、人が怖くなっていたり、信頼関係を築けなくなっていたりするものだ。そんな状態で新しい学び場を選ぶことはできない。
「休んでいることに焦ってすぐに次を見つけてくる親もいますが、ちょっとがんばっても、回復しきっていないと、またすぐに疲れてしまう。ただ、自分に合う学び場が学校以外にも選べるようになれば、子どもたちもそこまで無理をしなくてもよくなるので、休み方も少なくて済むと思いますね」
一人ひとりの子どもに合った学習権を保障することは、社会全体の力が伸びることにもつながっていくはずだ。また、多様な学び保障法の実現は、現状の社会的な矛盾や親たちが抱えている負担の解決にもつながる。
「ひとつは二重籍の問題。学校にもう行きたくない、行けないという事情からフリースクールに通っていても、親が負っている就学義務の関係から、籍は学校にある。実際に通ったのはフリースクールなのに、卒業を認めるのはもとの学校なんですよね。校長に理解があればいいのですが……」
子どもの卒業を認めるよう、フリースクールの関係者から学校の校長に求めに行くこともあり、そのために両者の間に軋轢が生まれることもあった。
「さらに、教育にかかる費用の二重払いの問題があります。公的な学校を支えるために税金を払うのはもちろんですが、親はフリースクールの費用も負担しなければなりません。不登校の小中学生が東京シューレに来るんですが、ここを成り立たせるためには運営費がいりますから。法律には“義務教育は無償”と書いてあるのに」
税金とフリースクール費用の二重払いは、不公平感以上に実際の家計の負担が重い。フリースクール側も経営は苦しく、スタッフはほとんどボランティア的に働いている団体が多い。ふたつの矛盾を解決するためにも、フリースクールの公的な認知や財政的な支援は重要だ。