何としてでも、復興を成し遂げる

福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会 半谷栄寿

植物工場内部-2(小)
植物工場の内部の様子

神様がシナリオを書いてくれているのだろうか
 
 津波と原発の二重の被害をうけていた南相馬市は、水耕栽培による植物工場の推進を、風評被害払拭と農業の復興策としてかかげていた。それが、半谷さんの構想と響き合う。
 
「太陽光発電と体験学習の構想と、市の植物工場の構想とを、いわば三位一体で進めようということでまとまったんです。それで、建設用地は市が確保してくれることになりました」
 
 南相馬市は、津波被災農地を円満に2.4ヘクタールを買い取り、市有地とした。同時に、半谷さんの構想を、市の「再生可能エネルギー推進ビジョン」に位置づける。
 
「南相馬市が復興交付金で植物工場を2棟建設し、私の方の福島復興ソーラーが太陽光発電所を整備して、一体的に2.4ヘクタールの市有地を活用することになりました。これで2つめの建設用地の条件がクリアされました」
 
 さらに、計画に植物工場がセットされたことで、思わぬところから支援の手がさしのべられる。
 
「被災地の農業復興のために役立つ太陽光発電所の整備を支援するという、まさにジャストフィットの補助金を農林水産省が新設してくれたんです。おかげで9,000万円の調達にメドが立ちました。3つめの資金の条件が、これでクリアできたのです」
 
 これが、2012年5月のことだった。さらに6月には、経済産業省が再生エネルギーの固定買取価格を発表する。
 
「私たちの計画では、税抜き38円/kWhで事業が成り立つように設定していました。それが、決定された買取価格は40円。ありがたいことに、想定よりも高くなったおかげで、1つめの条件もクリアされました」
 
 自分たちの努力以上に、立て続けに環境が整えられていくことに、半谷さんは「縁」のありがたさを痛感し、改めて感謝した。
 
「ほんとうに、なにか神様がシナリオを書いてくれているように感じました。官民一体になった取り組みで、2012年の12月には太陽光発電所と植物工場が同時に着工できたんです」
 
 太陽光発電所から植物工場には、100kW分の電力が15円/kWhという安価で提供される。植物工場は地元の農業法人に無償貸与され、サラダ菜やホワイトセロリなどを栽培する。収穫された野菜は、半谷さんがかつて自家発電サービス事業の顧客として信頼を得た地元のスーパーマーケット、ヨークベニマルに全量を仕入れてもらう。
 
「単に太陽光発電所や植物工場をつくるだけじゃなくて、地産地消のエネルギーを使う新しい農業と商業が連携して、この地域の産業の復興モデルをかたちづくっています。そして、この場所から、福島の復興を担う人材を育てていきたいんです」
 
 冬場の建設も滞りなく進み、施設は2013年3月11日に完成した。
 
「どうしてもこの日に間に合わせたかったんです。3月12日、東日本大震災から3年目が始まる日には、前を向いて復興に取り組んでいこうという志を全員が持っていましたから」
 
 こうして、地元の産業と人材を同時に育てる「南相馬ソーラー・アグリパーク」は、多くの課題を乗り越えてスタートをきった。(第3回「ソーシャルな志をビジネスのしくみとして成り立たせる」へ続く)
 
半谷 栄寿(はんがい えいじゅ)*1953年福島県小高町(現・南相馬市)生まれ。1978年に東京電力に入社。同社にて数々の新規事業を手掛ける傍ら、1991年に環境NPOオフィス町内会を設立し、古紙リサイクルや森林再生に取り組む。2010年に同社執行役員を退任。2011年9月に福島復興ソーラー株式会社を設立。さらに2012年4月には一般社団法人福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会を立ち上げ、現在に至る。
 
【取材・構成:熊谷哲】
【写真:shu tokonami】

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