社会保障の視点からライフスタイルを問い直す

PHP総研コンサルティングフェロー・関西学院大学経済学部教授 上村敏之

写真-2c

◆単独高齢世帯が生き生きと暮らせるモデル地区を
 
 このように、消費税の税率引き上げの効果が短期的にしか期待できず、また社会保障の効率化にも決定打がない中で検討すべきことは、我々のこれまでの生活様式を根本的に考え直すことである。つまり、ライフスタイルを変えるということである。
 
 現在、「国土強靭化」という名目で、巨大な防潮堤など大規模な社会資本整備が行われようとしているが、これに大規模な予算を投入するのは合理的とはいえない。社会資本整備は、将来の人口減少を想定しながら取捨選択し、さらに将来的な社会資本の維持管理費などを含めたトータルコストを計算してから行うべきである。必要以上の社会資本整備を避け、その分の予算を持続可能な社会保障の実現のために使わなければならない。
 
 具体的には、コンパクトシティのように、高齢者の行動範囲で効率的に社会保障サービスを受けられる「まちづくり」「コミュニティづくり」を行うことである。といっても、各地域にはそれぞれ固有の特性があるため、全国一律の「まちづくり」「コミュニティづくり」はできない。まずは地域を指定して特区として集中的に投資を行い、高齢者が元気に生活できるモデル地区をつくっていく。短期的にはコストがかかるかもしれないが、中長期的に見れば、社会保障にかかる費用は下げられるので、トータルコストは安く抑えられるようになる。
 
 このとき留意すべきは、将来は単独世帯が激増するので、家族だけではなく、他人ともうまく共存できる社会をつくっていくということである。ソーシャルメディアの発達などによって、バーチャルなつながりは広まっているが、バーチャルな世界とリアルな世界は違うものである。リアルな世界で他人同士でもある程度のコミュニケーションがとれ、しかも、お互いの健康を確認し合える社会をつくることを考えなければならない。

関連記事