社会保障の視点からライフスタイルを問い直す

PHP総研コンサルティングフェロー・関西学院大学経済学部教授 上村敏之

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後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用促進について(厚生労働省サイト)

◆高額資産保有者から低所得者への再分配を
 
 たとえば医療の面では、ジェネリック医薬品の利用や、風邪などの軽い病気は地域の開業医が受け持ち、専門的な対応が必要な病気は大きな病院が受け持つという役割分担を促進する取り組みが進められている。介護でいえば、要介護度が低い方々を施設サービスから居宅サービスへと移行する取り組みなども行われている。しかし、こうした対策は、それなりの効率化にはつながっているものの、それによる歳出抑制の規模はいまだ限定的である。
 
 医療と介護を持続可能にするには、高所得者はもとより、高額資産をもつ高齢者の自己負担を上げるなどして、需要の抑制をはかっていくという方法が王道であろう。そのためには、個人の所得のみならず、資産を把握する制度を確立する必要がある。ようは、資産を流動化させ、自身に対する社会保障サービスに使ってもらうということである。導入が決まったマイナンバー制も、この点に重点を置くように改善すべきである。
 
 年金については、デフレ状態が続き、マクロ経済スライドをうまく機能させることができず、年金財政が厳しくなった。その見直しは、年金受給額の減額をもたらすことになるが、政治的理由からか時間がかかっている。また、年金制度のあり方を抜本的に効率化するには、高齢者の中の高所得者や高額資産保有者に対する給付を抑制したり、年金収入の額に応じて課税し、低年金の方に再分配するといった方法も考えられる。しかし、これらには年金保険料を拠出するインセンティブが低くなるという欠点もあり、大胆な改革ほど導入は難しい。
 
 構造的な年金改革を行うべきという議論もある。たとえば積立方式への移行が主張されることもあるが、完全積立方式を実現するには短期的に大量の国債を発行しなければならず、現在の政府の財政状態はそれに耐えられない。一方で基礎年金を税方式にするという議論もあるが、これまでの仕組みからの転換に時間がかかり、もはや現実的ではない。年金制度の構造的な改革を行うには、もう時機を逸している。したがって、現在のマクロ経済スライドを改良しながら、年金加入者の適用範囲を拡大しつつ、持続可能性をもたせるというのが、現実的な解決方法ということになる。

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