デジタル社会における憲法のあり方を考える(後編)
3.最後に、読者へのメッセージをお願いします
■デジタル化で変わった憲法論議の起点 ~1.0から3.0への転回を~
山本 最初に述べたことですが、「憲法論1.0」的な議論が、メディアを含めて日本においてはいまだに強い影響力を持っていると思います。そこから自由にならない限り、先ほどの国際的なハーモナイゼーションの議論も難しいでしょう。
憲法論は、実はいろいろポテンシャルを持っていると思います。憲法改正云々だけでなく、実際の政策に対して憲法論が重要な意味を持つことがありますし、政策全体の体系性を図るという意味でも重要です。EUの全てが良いわけではありませんが、EUでは最初に憲法論があって、GDPR5にしてもDSA6にしても、具体的な法制度がそれを受け止めるかたちになっています。
日本では、政策に具体的に生かせる憲法論が少ないように思います。どうしても「改憲ですか、護憲ですか」になってしまう。いつまでもそのような議論をしていると、デジタル化を踏まえた基本的人権や統治構造のアップデートは遅々として進まず、ガタガタな環境のままで安全保障や天皇制度等のガチな論点をやらなければならなくなる。そうなると、これはカオスですよ。これまで繰り返し述べてきましたが、だからこそ「憲法論3.0」は必要なのではないでしょうか。
宍戸 広い意味で今回の「憲法論3.0」の副題には、『令和の時代の「この国のかたち」』とあります。まさに、「この国のかたち」の概念化を議論しているということです。
しかも、“この国の”と言う時の「この国」のあり方は、まさに国際環境のなかで常に考えなければいけなかったものです。それは、「この国の」という言い方で本来、意識されていることのはずです。また、そもそもの基礎となる前提が、デジタル化によって変わってくるなかで、他国との関係、あるいは、デジタル等の新しい環境を含めて、この提言報告書が「この国のかたち」を広くみんなで考える議論のきっかけになって欲しいですし、そうだろうとこの研究会メンバーは考えています。
※【前編を読む】2022年9月30日掲載
【関連報告書】
【提言報告書】PHP「憲法」研究会『憲法論3.0 令和の時代の「この国のかたち」』
<詳細はこちらから>
政策シンクタンクPHP総研
6『Digital Service Act』の略で、デジタルプラットフォームに対して、違法コンテンツ、偽情報等への対策を求めて、欧州委員会が提案した「デジタルサービス法」のこと。