いま求めたい「しくみ」を変える政治改革
衆議院を強くし、かつ閣僚に時間を与える
提言の主な内容を対象別に要約してみよう。
第一は、国会を対象とするもので、(1)衆議院と参議院の関係、(2)法案審議の方法、(3)閣僚・官僚の拘束時間、の観点から論じられている。
(1)衆議院と参議院の関係では、両院の「対等性」が生産性を阻害しており、衆議院の優越性をさらに強化すべきと主張する。現在、衆参が異なる議決をした場合、衆議院の出席議員3分の2以上の賛成で再可決しなければ法案は成立しないという高いハードルが置かれている。また、予算の議決、条約の承認、内閣総理大臣の指名については、衆議院の議決を優先するように定められているが、特例公債法案など、可決されなければ予算が執行できないといった重要法案については優先権がない。議決の停滞を防ぐためには、すべての議決に関して衆議院に優越性を与えるか、最低でも予算関連法案については予算案とワンセットで衆議院に優越性をもたせる必要がある。
(2)法案の審議については、何をどの順番で審議するか自体が政党間の駆け引きになっており、それが法案の審議を遅らせ、廃案もしくは継続審議となるケースを増やしているという指摘がある。このような停滞を防ぐため、イギリスやフランスのように、政府提出法案については、これまで蚊帳の外にあった内閣に審議日程の責任を負わせる、あるいは内閣にも関与させながら審議の計画化をはかるべきとされている。
(3)閣僚・官僚の拘束時間については、首相や大臣さらには官僚が国会に拘束される時間が長すぎる、という指摘がある。具体的に言えば、日本の首相の1年間(12ヵ月)の国会出席日数は127日(2011年)。これに対して、イギリス首相36日(2008~09)、フランス首相12日(2007~08)、ドイツ首相11日(2009~10)となっている。財務大臣や外務大臣の場合もまた同様である。
世界標準からすると、日本の閣僚は国会に過剰に拘束されており、政府の長としての仕事、さらには対外的な仕事に割ける時間が少ない。そればかりか、閣僚の国会対策のためにはバックヤードで官僚たちが昼夜を問わず働いている。これでは、結果的に政府として本来なすべきことが十分になされなくても不思議ではない。政府の監視は国会の重要な役割の一つだが、政府機能を麻痺させては本末転倒である。欧州諸国のように閣僚の国会出席に上限を設けたり、あるいは副大臣や政務官がローテンションで出席するなどの工夫が求められる。また、そのためには、現在の質疑中心の審議から、与野党間の合意形成を目指した実質的な審議に転換させねばならない。