安定財源の確保と税金の投入先の見直しを

林宏昭(関西大学経済学部教授)×上村敏之(関西学院大学経済学部教授)

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7.ポスト「一体改革」をいまから考える
 
 経済成長に話を戻すと、人口が減るわけですから、一人当たりのGDPが多少増えても、マクロでは減ります。借金は名目ですから、その相対的な厳しさを抑えるためには名目GDPを増やす手立てが絶対必要です。
 
上村 成長戦略が重要ということですが、この中身がよく見えてきません。
 
 例えば農業ですね。今、日本の上等なリンゴや牛肉などが中国で大売れしています。そのうち松坂牛は日本では口にできなくなるのではないかというくらい。だから、それで稼ぎたい農家は多くて、TPPに賛成です。一方、補助金でそこそこやっている人たちは反対します。農業従事者はだいたい60~70歳代の人で、補助金で保護しても継承者は減るばかりです。
 
上村 補助金をもらうのが目的になっていますね。個々はそれで食べていけるけど、全体的にはジリ貧になっている。
 
林 農業に限ったことではありません。補助金がスタートアップのサポートにうまく使われればいいのですが、経常的な経営補助になっていて、新しい価値の創出につながっていません。だから、いまは大胆に動くべきなんです。
 
上村 そういったことをチェックしていけば、歳出改革にもつながります。大事なのはもちろんですが、残念ながら大きな額にはならない。そこで消費税ということになるわけですが、率はどこまで上げるべきでしょうか。いま付加価値税が一番高いところは、ハンガリーの27%ですね。スウェーデンやデンマークも25%です。
 
 25%は厳しいですね。特に外税だと。1万円と思っていたものがレジで1万2,500円と言われたら、購入をやめるかもしれません。スウェーデンもデンマークも内税で、気づきにくいからできるんですよね。
 
上村 20%でも厳しいと思います。10%台に抑えるための工夫が必要でしょう。
 
 最初にお話ししたとおり、社会保障に40兆円が使われているので、一つの目安は16%ですね。目的税にする必要はありませんが、社会保障を消費税分で賄えて、あとの公共財は他の税収でできるようにする。
 
上村 自治体ではサービスとの見合いで税率を考えるという話がありましたが、国レベルでは機能していません。国民が許容できる消費税率の議論が一体改革後の課題でしょうね。
 
 まずは、消費税を上げても社会保障にもっとお金を使えるようになるわけではないという現状を、きっちり伝えないといけません。
 
上村 借金で社会保障の費用を補てんしている部分がありますからね。消費税を上げてもサービスが上がるわけではない。ポスト一体改革はいつ頃から議論すべきですか。
 
 ずっと後手後手でこんなことになったわけです。だから、ポスト一体改革はいま始めなければいけない。
 
上村 政治家も消費税が10%では足りないのはわかっています。そこから先の話を基礎自治体の権限の在り方から道州制など統治制度も含めて考えなければならない。大改革ですよね。簡単にはできないけど、やらないといけませんね。
 
 いまはアベノミクスでとりあえず勢いをつくろうという感じです。三本目の矢が刺さるのかどうか、不透明なままです。
 
上村 行政も企業も、本当はサイレント・マジョリティや潜在的消費者の声を聞かないといけないのですが、声の大きな人たちの方ばかりを向いているのか、どうも視野が狭くなっている。
 
 経営者が短期的な契約になっていて、長期的にものごとを考えられなくなっているという側面もあると思います。政治もその影響なのか、一体改革でもアベノミクスでも視野が狭くなってしまっている。そこをもうちょっと広げて、中長期的に考えないといけないといけませんね。

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