安定財源の確保と税金の投入先の見直しを

林宏昭(関西大学経済学部教授)×上村敏之(関西学院大学経済学部教授)

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4.社会保障は選別的に行うべき
 
上村 少し根幹的な話をしたいのですが、社会保障は普遍的にサービスを供給すべきなのか、選別的にすべきなのか、学者によって意見が分かれます。貧困対策にしても、貧困者を特定して給付すべきと言う人もいれば、広くベーシックな保障だけでいいという人もいます。どちらのお立場ですか。
 
 選別すべきと思います。必要に応じて申請してもらうということです。例えば難病指定。そういう難病を患った人に対して税金の一部を使うと言っても、反対する人はいないでしょう。いくらお金持ちでも難病は大変なので、所得制限は不要です。これを税金でカバーする。ただ、年金や一般の医療など、全員お世話になる可能性があるものは「保険」の領域だと思います。
 
上村 一体改革には、社会保険料を上げることが難しいので、税で補てんしようという狙いがあると思っていましたが、そのように分けて考える必要がありますね。いま地方で、入院費用も含め、子どもの医療費の無料化が広がっています。社会保険関係はどこも財政が厳しく、税金を投入している状況であるにもかかわらず、さらに子育てについても税金を使って無料化しようというものが出てきています。地方自治体間の競争に発展しているように思います。
 
 医療政策なのか子育て政策なのか、わからないですね。福祉にはやはり所得制限を設けるべきでしょうね。所得が低い若い夫婦にとって、幼稚園の就園支援などは、とても助かるでしょう。
 
上村 自治体間で格差が大きい医療費の無償化政策については、どうでしょうか。
 
林 高齢者の医療費無償化は、いわゆる革新自治体から始まりました。産業が集積する大都市では国が定めたことを実施する支出以上の税収があったからできたのです。つまり、それぞれの自治体の地方税収に依存しているので格差ができる。
 
上村 住む場所によって、医療に負担の格差がある状態は、望ましいことでしょうか。
 
 たまたま課税ベースとなるものがたくさんある自治体が有利だという状態ですよね。医療費無料だからといって、あまり税金を払わない人が大勢押し寄せると、それができなくなる。だから、理論的には収斂していって格差は縮まっていくのだと思いますが、現実的にはわかりませんね。
 
上村 地方の医療費はもっと下げられるとも思うのですが。
 
 下げる方法はあります。レセプトで薬のダブりをチェックしたり、適正な医療へ向かってもらう。ただ、これはプライバシーの侵害になるので、許されるかどうかわかりません。もう一つは、具合が悪くないのに医者にかかるという、いわゆる病院のサロン化をなくすことです。先ほど述べましたが、高齢者が集まる場所は必要なんですよ。それを病院ではなくて、看護師さんが一人だけ待機しているようなスペースをつくればいい。自治体はこのために、空き家の活用やコミュニティの形成に力を注がないといけません。

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