安定財源の確保と税金の投入先の見直しを
2012年の三党合意によって始められた「社会保障と税の一体改革」は、①社会保障の充実・安定化、②安定財源の確保、③財政再建、の同時達成を目指したものである。安倍政権が成立して2年となる現在、それらはどこまで進められているのだろうか。今後、我われが直面する課題とは、いったい何なのであろうか。
税制や社会保障に詳しい関西大学経済学部教授の林氏と、 財政学が専門でPHP総研・コンサルティング・フェローを務める上村氏が対談を行った。
林宏昭氏(関西大学経済学部教授)
1.消費税率は淡々と上げればよかった
林 まずは社会保障の何を見直すのかを整理すべきです。子育て、難病や障がいなど本当に支援が必要なところのケアを充実させていくのか、それとも全般的なものなのか。一括りにして「社会保障の充実」というと、年金改革は逆の方向に向かっていることになります。
上村 確かに、年金は今後マクロ経済スライドでカットされていきますからね。では、「安定化」とはどういう意味なのでしょうか。
林 日本の社会保障の枠組みは、1950年代半ばから始まった高度経済成長と人口増を背景につくられたものです。同じ人口ピラミッドが続けばいいのですが、これだけ下が細るとその仕組みは維持できません。こうなる前に手を打つべきでしたね。安定化は、最低限のものが維持できて安心できる、とみなが思えば安定化なのでしょう。それをどう実現するかが課題ですね。
上村 「安定財源の確保」とはどういうものですか。消費税増税は安定財源の確保になり得ますか?
林 いま、およそ40兆円の税金が社会保障に使われています。消費税を1%上げると税収はおよそ2兆5,000億円増えるので、40兆円は消費税16%分になります。ということは、消費税を10%にしても足りないということです。
上村 消費税は昨年の4月に8%に引き上げられましたが、安定財源の確保はまだ途中ということですね。一方の財政再建はどこまで達成できているのでしょう。
林 赤字が増えるスピードが若干緩んだかもしれませんが、税率アップでの財政再建は難しいでしょう。世界各国の成功例をみると、歳出減と景気回復による税収増で財政再建が可能になっています。日本でも1970年代後半に債務が100兆円になって、国も地方も行革で大騒ぎになったのですが、結局、バブルという「神風」による税収増で行革は飛んでしまったわけです。国際的にみて日本の政府はそんなに大きくはありませんが、それを税金で賄えない。それが問題なのです。
上村 安定財源の確保が途上のなかで、安倍総理が消費税率10%へのアップを1年半延期したことはどう評価しますか。
林 延期せず、淡々と上げればよかった。
上村 社会保障に与える影響が大きいと見ているのですか。
林 それもありますが、消費税率アップで世の中が悪くなったと言って、それが通ってしまうようになるのが問題です。昨夏はあまり暑くなく、水害もあり、それで前年より消費が伸びるわけがありません。そのあたりをどれだけ割り引くかが重要でしょう。そうした議論をせずに景気条項の話になり、税率アップは見送られ、選挙になってしまった。
上村 1年半後の2017年4月は景気条項を発動すべき時期ではないということですね。
林 当然です。もちろん、リーマンショックや東日本大震災みたいなことが直前に起きたら別ですけれど……。