地政学的要衝研究会
中国のオールドメインでの超限戦

ゲスト報告者:渡部悦和(渡部安全保障研究所所長、第36代東部方面総監、元陸将)

本稿は『Voice』2023年6月号に掲載されたものです。

地政学的要衝研究会」は、日本の対外政策や日本企業のグローバル戦略の前提となる情勢判断の質を向上し、平和と繁栄を考えるうえで不可欠の知的社会基盤を形成することをめざして、鹿島平和研究所と政策シンクタンクPHP総研が共同で組織した研究会です。第一級のゲスト報告者による発表をもとに、軍事や地理をはじめとする多角的な観点から主要な地政学的要衝に関する事例研究を行ない、その成果を広く社会に公表していきます。

2023年3月10日、中国の全国人民代表大会は、習近平国家主席の3選を決定。すでに22年秋の共産党大会で党総書記として3期目をスタートさせている習氏は、党、国家、軍の最高指導ポストを引き続き握り、米国との覇権争いを念頭に強国路線を続けていくと見られている。習氏は、国家主席選出後「社会主義現代化強国の建設のために努力し奮闘する」と力強く宣誓した。

米国のバイデン政権は、「中国が経済力、外交力、軍事力及び技術力の点から、安定的で開かれた国際システムに深刻な脅威を与え、我々が望むようなルールや価値観や国際関係を弱体化させる可能性のある世界で唯一の国」と述べて、中国を他とは次元の異なる脅威と位置づけている。

3期目の習近平体制の下、中国が米国とあらゆる分野で激しく競争し、米中対立が激しさを増していくことは不可避だと考えられる。これまで本連載では、世界各地の地政学的要衝を巡り、米中が競い合っている状況を詳述してきたが、今回は中国自身の戦略にあらためて焦点を当てる。

ただし中国の戦略を見る際に、地理や地形に着目する伝統的な地政学的観点では不十分であり、あらゆるドメイン(戦闘空間)を巡る戦いの様相にフォーカスする必要がある。そこで本稿では、地政学に代わりオールドメインの視点での中国分析を提唱する。

オールドメインとは、陸海空に加えて経済やエネルギー、政治、外交、法律、技術、また宇宙やサイバー、電磁波のドメインのことだ(図1)。さらに中国は情報のドメインも重視し、従来型のメディアだけではなくソーシャルメディアを使った「戦い」を進め、認知のドメインを利用した認知戦にまで「戦場」を拡大させている。そこで、グローバルな国際政治や安全保障の世界で起きている現象をオールドメインの観点から分析し、中国の世界戦略や今後の米中関係の行方を考察していきたい。

オールドメインで展開される中国の世界戦略

習近平国家主席は、就任以来「中国の夢」について語っている。「海洋強国の夢」「宇宙強国の夢」「航空強国の夢」「科学技術強国の夢」「AI(人工知能)強国の夢」「サイバー強国の夢」。これら習氏の発言から「中国の夢」とは、「中華民族の偉大なる復興」を成し遂げることであり、過去100年の屈辱を晴らして清朝最盛期の大中華帝国を回復することだと考えられる。つまり米国と肩を並べる大国になり、最終的には米国を追い抜いて世界の覇権を握ることが「中国の夢」である。

その「夢」を実現するための中国の壮大な計画について詳しく見ていくが、まずは古典地政学的な観点から中国の戦略を整理してみよう。古典地政学の大家とはハルフォード・マッキンダー、ニコラス・スパイクマン、アルフレッド・マハンの3人である。

マッキンダーはイギリスのシーパワー(海上権力)論を基本にしており、ランドパワー(陸上権力)を脅威と見なし、その脅威は中軸地帯、いわゆるハートランドから来るという理論を提唱した。マッキンダーは、「東欧を制するものがハートランドを制し、ハートランドを制するものが世界島を制し、世界島を制するものが世界を制する」という有名な言葉を残した。

現代に当てはめてみると、ハートランドはロシアであり、ロシアが東欧を制圧しようとしてウクライナを攻撃しているように見えなくもないが、いささか単純すぎる視点であろう。

次のスパイクマンは、ハートランドが脅威であるが、シーパワーとランドパワーがぶつかり合うリムランドが係争地になるという理論を打ち立て「リムランドを制するものが世界を制する」と主張した。たしかに現在の世界においても中国やイランなど、米国にとっての脅威がいずれもリムランドに位置しており、問題国家がリムランドで出現するという理論には一定の説得力があるようにも思える。

古典的な地政学の観点から見ると、現在の国際情勢をすべて説明できるわけではないものの、さまざまな現象を単純化して説明する際に非常に便利な道具ではある。

中国の戦略に最も影響を与えているのは、マハンの地政学であろう。中国近代海軍の父とされる劉華清は、マハンのシーパワー論に傾倒し、マハンの理論に沿って中国海軍を建設し、これだけ大きな海軍に育て上げたと言われている。

中国の脅威認識と海軍建設の根源にマハンの地政学があり、「海を制するものが世界を制する」というマハンのシーパワー論に基づき、シーレーン防衛やチョークポイント(戦略的に重要な海上水路)の回避といった中国の安全保障観が形成され、「一帯一路」という海のシルクロード建設の発想につながったものと考えられる。

次に、列島線と地政学との関係を見ていきたい。よく知られているように、中国は第一列島線、第二列島線、そしてハワイにかけて第三列島線を引いている。この「列島線」という考え方は、中国のランドパワー的な発想から生まれているように思われる。シーパワーであれば、海は制約のない空間だという認識をもっているはずである。制約のない地域にわざわざ列島線という概念をもち込むのは、極めてランドパワー的な考え方だと言えるのではないか。

もっとも、これはさまざまな戦略を立てるうえでは非常にわかりやすい発想だ。同じことは「九段線」についても言える。中国は広い南シナ海に九段線という線を引き、「このなかは全部自分たちの領海だ」と主張してしまう。この乱暴なランドパワー的発想の結果、九段線のなかに人工島を多くつくり、人工島を中心に南シナ海を実質的に中国の海にしようとしている(図2)。こうした列島線や九段線を、目に見えないサイバー空間や宇宙にまで広げていくのが中国人民解放軍の発想である。

一帯一路構想は、もともと中国がシーパワーとランドパワーの両方を追求していることの表れだと考えられたが、その後、陸と海に氷上の航路も加わり、さらに「デジタル・シルクロード」という構想が打ち出されてサイバー・デジタル空間にまで概念が広がった。

そして宇宙のドメインで中国は、衛星測位システム「北斗」の衛星通信、5Gの通信ブロードバンド接続を拡大してサイバー空間を通じた電子商取引、デジタル化経済を強力に推進している。今後はさらにそこにAIやドローン、ロボットなど無人化技術を導入することでスマートシティを建設。またこれらをセットにして売り込むのが中国の戦略である。

中国は、古典的な地政学をベースにしながらも、従来の地理的概念にとどまらず、宇宙やサイバー空間など目に見えないドメインを含めたまさにオールドメインで物事を捉えた壮大な世界戦略を描いている。

「中華民族の偉大なる復興」とは

次に「中国の国家戦略」「安全保障戦略の目標」「軍事戦略」「作戦ドクトリン」、そして中国人民解放軍の正式なドクトリンではないものの重要な戦略コンセプトである「超限戦」について考えてみたい。

2049年の中華人民共和国建国100周年をめざして世界一流の軍隊をつくり、「社会主義現代化強国」を実現し、中華民族の偉大なる復興を成し遂げて世界覇権を握ることが、中国の国家戦略目標である。

しかし最近は2035年という中間目標を設定したため、2049年の完成をめざしていた世界一流の軍隊の建設計画の目標が前倒しで2035年になった。また2027年は人民解放軍の建軍100周年に当たることから、この年を「奮闘目標の実現」の年と設定した。抽象的な表現で具体的な目標は不明なものの、2027年が中国共産党にとって節目の年となることは間違いない。

このため2027年を結節として台湾を統一するのではないか、という憶測が生まれている。いずれにしても中国は、このように目標年度を明確にしながら達成すべき目標に向けて突き進むという恐るべき習性がある。

中国が国家目標として掲げる「中華民族の偉大なる復興」が意味することは、毛沢東が念頭に置いていた「大中華帝国」、すなわち清朝最盛期の版図を回復するという壮大なる夢だと考えられる。

「戦略的辺境」という独特の概念

ここで確認しておかなければならないのは、中国の「戦略的辺境」という独特の国境概念である。中国にとって国境とは固定的な国境線によって規定されるものではなく、中国の力の増大によって移動しうるものと捉えられている。つまり、国力に応じて領土、領海、領空や宇宙を含めた立体空間も拡大するという発想である。

中国はこのように極めて立体的な発想をもち、中国の実力が増大すればするほど戦略的辺境も増大していくと認識している。これがまさに中国の一帯一路等の膨張政策の背景にある根本的な考え方だと言えるだろう。

こうした前提で、中国の安全保障戦略の目標は大きく4つに整理できる。1つ目は「中国共産党の支配を永続させること」、2つ目は「国家の尊厳及び領土的統一を防衛すること」、3つ目は「中国の大国としての地位を確実にし、究極的には地域覇権を再び握ること」であり、最後が「中国の海外権益を擁護すること」である。

これらの目標を達成するための軍事戦略として、中国は「アクティブ・ディフェンス(積極防御)」「情報化条件下における局地戦争」、そして「人民戦争論」を挙げている。とくに中国の人民解放軍は情報化を重視している。中国人民解放軍は、冷戦後の米国の戦争、とりわけ湾岸戦争やイラク戦争等を観察するなかで、現代戦の本質は情報化であると捉え、情報化条件下における局地戦争の能力強化に躍起になった。

そして現在は情報化から知能化、とくにAIを活用した知能化を強調している。また「人民戦争論」とはいわゆる人海戦術に当たる。中国はあらゆる戦いにおいて人民戦争論を展開する。たとえばサイバー戦においても、サイバー能力の高い民間人たちを有事の際には「サイバー民兵」として使うという構想をもっている。

中国の作戦ドクトリンは「一体化統合作戦」、あるいは「接近阻止/領域拒否(A2/AD)」と呼ばれるものである。また台湾侵攻作戦においては「短期限定・短期激烈作戦」、そして「非対称戦・混合戦」が想定されている。混合戦というのはいわゆる「ハイブリッド戦」を中国語で言い換えたものだ。

たとえばいまや有名となったA2/AD。これは3層にわたり米海軍・米空軍の接近を阻止して領域を拒否するという戦略である(図3)。中国はこの戦略に基づいて軍事力を整備しており、とくに弾道ミサイル、大陸間弾道ミサイル等を中核に据えながらこの能力を確実に高めている。

このA2/ADという概念は、サイバー空間においても適用されている。中国は目に見えないサイバー空間をあたかも領土・領海・領空であるかのごとく扱っている。その1つが中国全土に敷かれているインターネット検閲・ブロックシステム「金盾(グレート・ファイアウォール)」である。これはサイバー空間における攻撃システム「グレート・キャノン」と双璧を成しており、サイバー空間への侵入者には金盾で防御し、それでもさらに侵入してきた場合はグレート・キャノンで撃退する仕組みであり、サイバー空間のA2/ADだと言える。

こういう発想がさらに宇宙空間でも展開されており、たとえば中国は月の探査を積極的に実施している。中国は月においても、月の南極地域を押さえ、他の国々が中国の支配地域に接近することを拒否する戦略を考案しているとされる。中国人民解放軍は、宇宙空間においても自分たちが使いたい空間を占拠し、そこへの他国からの接近を拒もうとする。

これは中国の長い歴史のなかでつねに外敵から身を守るために城壁を築いてきた経験、その最たる例が万里の長城になるわけだが、こうした考え方が長い歴史のなかで中国人に根づき、外からの脅威に対しては城壁を築いてそのなかの領域を守るという発想につながっているものと考えられる。中国はこのように、オールドメインでA2/AD戦略を進めてくるのである。

「超限戦」とは掟破りのオールドメイン戦

次は公式な戦略ではないものの、中国が展開しているとされる「超限戦」について触れたい。1999年、中国人民解放軍の空軍大佐2人、喬良と王湘穂が『超限戦 21世紀の「新しい戦争」』(邦訳、角川新書、2020年)を書いてベストセラーになった。

戦争論として同書のほとんどの内容に同意できるが、1点だけ同意できない点は「すべての境界と限界を超える」という著者の主張である。これは目的達成のためには何をやっても許されるという考え方であり、人権も法律も守らず一切手段を選ばなくてよいという主張は、民主主義国家として受け入れることはできない。

要するに、戦争において目的を達成するためには、倫理や国際法や基本的人権などは完全に無視して、それらを超えた戦い方をやりなさいというのが『超限戦』の主張である。まさにいまウクライナでプーチン・ロシアがやっていることを考慮すると、習近平氏の中国が台湾を統一する際にもこうした超限戦を展開してくる可能性があると考えるべきだろう。

超限戦の本質はオールドメインでの戦いである。さらに本質を突き詰めていくと、「努めて平時に決着をつける」という点に行き当たる。「戦わずして勝つ」とは、孫子の兵法でも有名だが、中国は、努めて戦争には至らない、有事には至らない段階で目的を達成することを狙うはずである。そのために情報戦を実施し、政治戦、影響工作、心理戦、外交戦、核の威嚇等を行ない、破壊工作、転覆、サボタージュ、誘拐、要人暗殺、暴力的デモ、浸透工作といった平時における戦いを展開することになろう(表1)。

この段階では有事にはなっていない。そして次の段階の封鎖作戦においても、たとえば電子戦やサイバー戦を仕掛けてくることになり、ここでもまだグレーゾーンの戦いであり有事とは言えないだろう。さらに進んで海上封鎖、航空封鎖あたりになるとグレーの色がかなり濃くなり、有事に半分足を踏み入れたような状態になることが予想される。

そして次の段階で離島攻撃、火力打撃作戦、そして本格的な着上陸侵攻とエスカレートしていくが、ここまできて初めて有事の作戦に該当する。

中国としては、サイバー攻撃ぐらいの段階で目的を達成したいと思っているのだろう。しかしそれが叶わない場合、実力を行使して、火力をもってこれらの作戦をエスカレートさせていくと思われる。

中国がいつ台湾を攻撃するかの予測は困難だが、2027年が1つの結節になる年であると予想される。3期目の任期中に台湾を統一したいというのが習近平氏の夢だと考えられるからである。

毛沢東でさえ実行できなかったことを習近平氏は「偉大なる指導者」として2027年までに達成する、これは十分に考えられるシナリオであろう。

さらに台湾の邱国正国防部長が、「2025年までに人民解放軍が最小限の代償で本格的に台湾に侵攻する能力をもつ」と警告している点も重要である。

台湾侵攻時の上陸地点については、適地が限定されていることが軍事専門家の共有認識になっているが、想定されているような上陸作戦が行なわれる可能性に疑問を呈する米国の研究者もいる。

中国はすでにいくつかのコンテナ港を実質的にコントロールしているとされており、人民解放軍の攻撃命令と同時にこれらの主要な港を押さえてしまえば、あとは中国の民間船を動員して大量に物資や人員を輸送できるというのだ。すでにさまざまな買収等によってコンテナ港の支配を進める工作が中国によって着々と進められている可能性は排除できない。

海上封鎖や航空封鎖も行なわれ、インターネット等デジタル空間から台湾を完全に遮断してしまうような作戦も行なわれるだろう。今年2月上旬にも台湾本島と馬祖列島などを結ぶ通信用海底ケーブル2本が相次いで切断される事件が発生したが、こうした海底ケーブルは、台湾危機において非常に重要なドメインになると考えられる。

いずれにしても、中国はこのようなさまざまな手段を使いながら台湾侵攻作戦を進めてくる可能性があるということを認識しておくことが肝要である。

日本の防衛と民主主義国家の超「超限戦」

中華民族の偉大なる復興を国家目標に掲げ、オールドメインで超限戦を仕掛けてくる中国に対して、民主主義陣営のなかに位置する日本はどう対抗すべきなのか。

まず軍事的には、中国が進めるA2/ADや列島線といった地政学的発想を逆手にとった戦略をとることが考えられる。実際に米軍は、中国海軍をチョークポイントのなかに閉じ込める、とくに潜水艦を太平洋地域には出させないための戦略を考案している。トランプ政権時代に出されたインド太平洋戦略はまさに、第一列島線防衛を通じて中国のチョークポイントを押さえてしまうという発想に基づいている。

この戦略に沿って日本の自衛隊は、第一列島線に存在する中国の大きなチョークポイントである南西諸島の防衛を強化している。中国のA2/ADは、第一列島線の外側に入ってきた米海軍等の接近を阻止し、この地域での活動を拒否する戦略だが、第一列島線を構成する日本をはじめとする国々が、第一列島線において中国人民解放軍に対してA2/ADを行なうことで中国に対抗することが重要である。

日本にとっても米国にとっても、列島線を中心とした中国の考え方を逆手に取った防衛戦略を進めることは有効だと考えられ、日本はまさにこうした構想の下で南西諸島における防衛力整備を進めている。

また中国がオールドメインの超限戦を仕掛けてくることに対し、日本を含めた民主主義陣営は超「超限戦」で対抗すべきである。超「超限戦」とは、民主主義国家としての価値観を守りながら中国の超限戦に対抗するという戦略である。その好例は現在のロシア・ウクライナ戦争で見られる。

ロシアはウクライナ戦争で超限戦を仕掛けており、国際法や兵士の人権などまったく無視した手段を選ばない戦いを行なっている。嘘にまみれた偽情報戦なども展開しているが、必ずしもロシアが狙ったような効果は出ていない。

他方ウクライナは、一部ロシア国内での民間人暗殺作戦などを実施してはいるものの、概ね民主主義国家の価値観、兵士の人権や民間人の人道的配慮などをしながらロシアに対する戦争を進めている。

情報戦についても、「ゼレンスキー大統領が逃亡した」という初期の偽情報が、ゼレンスキー大統領本人のSNS投稿で簡単に否定されたように、デマに基づく偽情報よりも最終的には真実に基づいた情報が強いことを証明している。

中国の脅威を下げ、さらなる強大化を防ぐために、経済的にも外交的にも中国を弱体化させるためにさまざまな手段を講じるべきだが、人権も法律も無視して手段を選ばないようなやり方をしてしまえば、中国と倫理的な土壌で同等と見なされてしまう。そこで日本はあくまで法律を遵守し、民主主義の価値の範囲内での超限戦を展開することで、モラル・ハイグランドに立った戦い、すなわち超「超限戦」を展開すべきである。

中国は世界一の大国になることをめざしており、ランドパワーやシーパワーのみならず、あらゆるドメインでの最強パワーの確立を目論んでいる。中国とはそのような日本人が到底及ばないようなスケールで物事を考え実現しようとする大国である。彼らの戦略的発想のスケールの大きさには、日本人もある意味で見習うべき点すらある。

習近平国家主席が「中国の夢」を達成するために最も重要な組織として認識しているのが人民解放軍であり、彼らの思想と行動をさまざまな観点から分析することの重要性と、危機への備えの必要性を強調したい。

経済的規模で比較すれば中国よりもはるかに小さいロシアがウクライナを侵攻したことが、これだけ世界経済に影響を与えたことを考えても、中国による台湾侵攻や中国発の危機が世界経済に及ぼす影響は計り知れない。

「台湾有事」の議論のなかでは軍事的なリスクシナリオに基づいた議論が多く見られるが、戦いの舞台がオールドメインで展開することを考慮しなくてはならない。経済的なリスクシナリオについても、サプライチェーンやエネルギー輸入など影響は多岐にわたる。日本政府は国家安全保障局などを中心に総合的なリスクシナリオを検討し、対応策を練ることが急務である。

※無断転載禁止

渡部悦和(渡部安全保障研究所所長/元陸上自衛隊東部方面総監)
ゲスト報告者
渡部悦和(渡部安全保障研究所所長/元陸上自衛隊東部方面総監)

地政学的要衝研究会メンバー

大澤 淳
(中曽根康弘世界平和研究所主任研究員、鹿島平和研究所理事)

折木 良一
(第3代統合幕僚長)

金子 将史
(PHP総研代表・研究主幹)

菅原 出
(グローバルリスク・アドバイザリー代表、PHP総研特任フェロー)

髙見澤 將林
(東京大学公共政策大学院客員教授、元国家安全保障局次長)

平泉 信之
(鹿島平和研究所会長)

掲載号Voiceのご紹介

2023年6月号 特集1:歴史的転換点の日本外交

  • 谷内正太郎 & 宮本雄二 / 分断と混沌を乗り越える外交力とは
  • 中西 寛 / 21世紀の文明的課題と日本の責務
  • 先崎彰容 / 近代の危機と「普通の国」の使命
  • 奈良岡聰智 / 日本近代史に見る「価値観外交」と課題
  • 岩間陽子 / アジアの平和と核秩序を考える
  • 池内 恵 / 「多極世界」の誘惑に揺れる中東
  • 石井正文 / 20年後も国際的影響力をもつために
  • 國分文也 / 重視すべきは価値観よりもルール
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