地政学的要衝研究会
海賊対策から見る中東地勢戦略

ゲスト報告者:中畑康樹(第16代海上自衛隊補給本部長、元海将)

本稿は『Voice』2022年9月号に掲載されたものです。

地政学的要衝研究会」は、日本の対外政策や日本企業のグローバル戦略の前提となる情勢判断の質を向上し、平和と繁栄を考えるうえで不可欠の知的社会基盤を形成することをめざして、鹿島平和研究所と政策シンクタンクPHP総研が共同で組織した研究会です。第一級のゲスト報告者による発表をもとに、軍事や地理をはじめとする多角的な観点から主要な地政学的要衝に関する事例研究を行ない、その成果を広く社会に公表していきます。

多くの日本人にとって、「中東」と聞いて最初に思い浮かべるのは「石油」ではないだろうか。日本は現在、石油輸入の9割強を中東に依存している。これは歴史的に見ても高い数字である。日本政府は、石油供給の中東依存度を下げることを目標に供給源の分散・多角化を進め、1970年代からインドネシアや中国といったアジアからの調達を増やし、1987年には中東依存度を67.9%まで低下させた。

しかしその後、アジアの産油国が経済発展により自国の消費が増えて輸出余力が失われた結果、中東依存度は再び上昇。そこで日本はロシアの資源開発に力を入れたが、2014年のロシアによるクリミア侵攻後の対露制裁の一環でロシアからの輸入量を削減させることになり、2020年度に中東依存度が過去最高の92.1%まで高まってしまった(大場紀章「対露エネルギー制裁と『ポスト・プーチン』の世界新秩序」『Global Vision』2022年7月)。今後、ウクライナ侵攻を受けて日本がさらにロシアからの輸入量を下げれば、中東への依存度はますます高まることが危惧されている。

連載第8回は、日本の経済基盤を支えるエネルギー供給源である中東を国際政治、地政学的観点から概観し、我が国のエネルギー供給の脆弱性に対する理解を深めるとともに、現地で任務に就く海上自衛隊の活動の一端を通じて、中東周辺地域のリスクや大国の利害がぶつかり合い混迷が増す中東の現状について考察したい。

戦略的要衝・中東をめぐる世界の動向

2020年の時点で日本は、日量約250万バレルの原油を海外から輸入している。その約9割、日量約225万バレルを中東から購入している。これを大型石油タンカーVLCC(Very Large Crude Oil Carrier)で換算すると、1日あたり1隻と8分の1隻分になる。中東から日本までの主要航路の距離は、約1万2000kmで20日間程度かかることを考慮すると、片道22.5隻、往復にすると45隻のVLCCがつねに日本と中東の間の洋上にいる計算になる。これらの石油タンカーが1万2000kmもの長い航路を毎日安全に航行することが、我が国の経済活動の前提になっているわけである。

日本の貿易量はトン数ベースで約99.6%を海上輸送に依存している。そのうち中東のイエメン沖アデン湾の通航実績を見ると、我が国に関係する船舶の通航隻数が約1600隻。アデン湾通航は年間およそ世界で2万隻と言われており、世界のおよそ3分の1がアデン湾を通り、そのうち1600隻、すなわち8%が日本関係の船舶である。また、世界のコンテナ貨物の16%、日本からの輸出自動車の18%がアデン湾を通るとされており、中東がエネルギーにとどまらない物流の要衝であることがわかる。

中東地域の特性として、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教という世界の3大宗教の聖地が集まっていることは周知の事実である。しかもこの地域の宗主国だったイギリスやフランスが、現地の実情を考慮せずに国境線を引いたため、国境とは無関係に部族社会が広がる。このため宗教対立、宗派対立や部族間抗争などが絶えず、テロの温床にもなっている。地域大国であるトルコ、イラン、サウジアラビアなどの主導権争いやイスラエルと周辺国の敵対関係も複雑に重なり、政治的な安定性を維持するのが極めて困難な地域である。

さらに域外の主要国も、さまざまな形で中東に関与してきた。ロシアは、歴史的にはイランやトルコと対立する時期があったが、近年はシリア内戦を通じて両国との関係は良好だ。一方の米国は、歴史的にサウジアラビアを中心とする湾岸アラブ諸国やエジプトと友好的な関係にあったが、2011年のアラブの春以降、エジプトとの関係は険悪化し、湾岸アラブ諸国とも人権問題などを通じて対立する場面が目立つ(バイデン政権は現在関係修復に努めているが)。これに対して中国は、一帯一路構想をベースに、内政不干渉の原則で投資を拡大させ影響力を強めている。

米国は、イスラエルという中東における最大の同盟国の防衛にコミットしている。また自国でシェールガス、シェールオイル生産が進み中東への石油依存度が低下したことから、同地域への関心が薄れ、全般的にプレゼンスの低下が指摘されている。一方、地域各国の安全保障上の要求や、裕福な湾岸アラブ諸国が米国製兵器の「お得意様」であることから、米国は現在も多くの兵力をこの地域に駐留させている。21世紀に入ってからはアフガニスタン、イラクやシリアにおけるいわゆる対テロ戦争やソマリアの海賊対策など、グローバルな脅威に対する軍事作戦を展開。中東地域を管轄する米中央軍に加え、米インド太平洋軍の責任範囲にあるディエゴガルシアや、米アフリカ軍傘下のジブチもこの地域に隣接しており、これらを含めれば、米国は他国と比べて圧倒的な兵力を中東に展開させている。

他方でロシアは、中東においては紛争の仲介役という位置づけが定着してきたように思われているが、軍事拠点はシリアにあるフメイミム空軍基地とタルトゥース海軍補給処の2カ所にすぎない。また、スーダンの紅海沿いの港ポートスーダンにも基地を建設する計画があると伝えられている。それにもかかわらず、ロシアはシリア内戦への介入以降、中東地域での存在感を増している。シリア内戦で、劣勢に立たされていたアサド政権をバックアップし、シリア国内のほとんどの領土を同政権が奪還できるまでサポートし続けたことで、「何かあったらロシアが何とかしてくれる」という認識が中東の政治指導者たちの間に浸透したと言われている。

中国は、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)といった湾岸アラブの産油国にとって、いまや最大の石油輸出国である。2022年1月10日から14日まで、サウジをはじめとする湾岸アラブ諸国の外相と湾岸協力会議(GCC)事務局長が揃って北京を訪問して話題になったが、中国は中東の産油国にとって極めて重要なプレーヤーになっている。

このアラブ諸国の訪中について、当時、中国の『人民網』は次のように解説した。中東湾岸諸国は、「自国の発展計画と『一帯一路』イニシアティブとの連携を積極的に図り、中国の投資を呼び込み、自国の経済モデル転換に役立てようとしている。中国と湾岸諸国は、エネルギーの川上・川下産業、製造業、ハイテク、新エネルギーなど新興分野で踏み込んだ協力を実施するとともに、第三国市場協力の検討にも入っている」。

このように中国は、一帯一路構想の下、内政不干渉の原則で投資を拡大し、人権・民主主義重視のバイデン政権とはまったく異なるアプローチで中東地域での影響力を増大させている。一方で軍事拠点としては、いまのところアフリカのジブチのみである。

海上自衛隊実任務のすべてが集中する地域

次に日本、とりわけ海上自衛隊の中東での活動を振り返りたい。海上自衛隊の海外の実任務のうち3カ月以上の長期間に及ぶもので、南極観測支援、遠洋練習航海、大規模演習を除くと、次のような作戦が挙げられる。まず、1991年4月から10月に実施された「湾岸の夜明け作戦」は、湾岸戦争後に遺棄された機雷が航行障害になるということで除去した機雷掃海活動である。

2つ目は、アフガニスタン戦争に関連するテロ特措法に基づき2001年11月から07年11月まで実施された活動と、その後の補給支援活動(1008年2月~10年1月)。これらは米国中心の有志国連合の立場で、作戦に参加する有志国連合軍向けの補給活動であった。

3つ目は、いまも続いている海賊対処行動であり、それ以前の海上警備行動も含めると2009年1月から継続している。海賊対処行動とは、2008年6月の国連安保理決議1816号に基づいて海賊行為あるいは武装強盗に対処するもの。「海賊行為」とは国連海洋法条約では領海外で行なわれる行為であり、国家ではない私的な襲撃行為を指す。一方、領海内で行なわれるものは「武装強盗」、英語では「armed robbery」と呼んで区別している。この海賊対処行動は海上自衛隊が展開してきたなかで、世界の平和と安全への脅威に直接対峙する、すなわち世界の敵と戦う唯一の作戦である。

4つ目の情報収集活動は、米国・イラン間の緊張の高まりから、ペルシャ湾周辺海域の商船に対して爆弾テロなど不審な事案が多発したことから、日本関係船舶の安全確保のために2020年1月以来実施されている。

海上自衛隊が実任務として実施したこれら4つの作戦は、すべて中東地域に集中しており、2001年11月以降、わずかな空白期間を除き、海自はつねにこの地域に兵力を展開してきた。この事実は、いかにさまざまな脅威が中東地域に集中しており、我が国のエネルギー安全保障を脅かしているかを明確に物語るものである。こうした海上自衛隊の活動がメディア等で取り上げられることはほとんどないが、我が国のエネルギー供給の脆弱性や中東の軍事地政学に照らしてそれがどのような意味をもつものかを、あらためて考えていきたい。

海上自衛隊海賊対処任務の実態

ここからは、報告者(中畑康樹氏)が海上自衛隊第4護衛隊司令として、実際に海賊対処任務に従事した経験をもとに、具体的な海賊対処作戦や海自の活動の一端を紹介する。

まず指摘したいのは、「海賊」を見つけることの難しさである。海賊は、現地の言葉で「SKIFF」と呼ばれる小型船舶を利用している。海賊船と思われる特徴として、はしごがあって漁具がないこと。小さな船舶にもかかわらずエンジンが2つあること。こうした条件が整うと、海賊船かもしれないと判断している。

SKIFFの船体の長さは10m程度でレーダーに映らないことから、独力で不審なSKIFFを発見するのは至難の業である。そこで、実際に襲われている船からの報告やその近くを通っている船からの目撃情報などが国際部隊のオペレーションセンターなどに寄せられ、そこから各国の船に警戒情報が発信される、もしくは国際VHF無線を通じて救援を求める通報が寄せられる、といった方法で海賊船を見つける例がほとんどである。つまり、国際的なネットワークがなければ、海賊対処任務の遂行は極めて困難である。

海賊と言っても、現地ではさまざまな背景をもつ人たちが資金を出し合ってチームをつくり、資金提供者、襲撃者、交渉人などの役割を担うメンバーで構成される株式会社のような組織だと言われている。収益(身代金)の分配では交渉人が最も多くとるが、リスクが大きいのは襲撃者であるため、仲間割れも多いという。

ただし、彼らもリスクを冒してまで船には乗り込んでこないため、軍艦に護衛されている船はまず襲われない。このため各国の海軍が海賊対処活動を始めて以来、ソマリア沖アデン湾周辺における海賊事案は激減していった。最近では、世界全体で発生している海賊事案は年間200件前後で推移しているが、ソマリア沖アデン湾周辺では過去数年間で1件も起きていない。ただソマリアの政情は依然として不安定であり、各国が海賊対処行動をやめた場合、再び海賊行為が発生する可能性が高いとされているため、活動は継続されている。

海上自衛隊の海賊対処行動部隊は、2016年12月以前は護衛艦2隻体制であったが、現在は護衛艦1隻と、8人の海上保安官を含む水上部隊の約200人体制である。そのほか航空隊として、哨戒機「P-3C」2機で約60人と支援隊約120人、合わせて約180人が常時ジブチの拠点にいる(図1)。

各国の海軍は、民間船舶を直接護衛する「エスコート」、特定の海域内での警戒監視活動を実施する「ゾーンディフェンス」のいずれかの方式で作戦を実施している。日本や中国、インドはエスコートにより船舶の護衛を行なっていた。哨戒機で護衛航路等の上空から情報提供などを行なう任務は、これまでは日本も含む多国籍海上部隊「第151合同任務部隊(CTF151。現在はCTG151)」と「欧州連合部隊(EUNAVFOR)」が実施してきたが、現在はほぼ海上自衛隊が主力となっている。

作戦全体を調整しているのは、バーレーンに司令部のある連合海上部隊(CMF)である。その司令部は、バーレーンに拠点を置く米海軍第5艦隊の司令部と同じ建物のなかにあり、実際にCMFの兵站支援はすべて米第5艦隊がサポートしている。

実際の護衛は隊列を組んで航行することになるが、陣形は商船の数によって決定される。事前にエスコートに参加する陣形図を商船に渡し「あなたはS-1番」「あなたはN-2番」という具合にそれぞれのポジションに船名を割り当てて航行してもらう。間隔は1海里=1852m程度で、速力は12ノット(kt)を標準とするが、遅い船が1隻でもあればそれに合わせることもある。なかには、途中でエンジンが故障するなどして列を離れざるをえなくなる船も出てくる。また遅れて集合時間に到着しない船もあるが、そうした場合でも護衛艦2隻体制のときには1隻は残ってエスコートしていた。

実際に海賊船かもしれない不審な船舶が近づいた際には、図2のような対応をとる。これは右前の方向から不審船が襲ってきた場合の対応になるが、全体として左に離れる方向に曲がり、先頭の船(護衛艦)が不審船に対処する。後ろの護衛艦は対処に向かうか、あるいは搭載しているヘリを飛ばして、不審船に対処する。護衛艦には音響兵器とも言われる大音量の出るスピーカーが搭載されており、あらかじめプログラムしておいた言語で不審船に警告を発することもできる。

実力で脅威を排除する必要がある場合には、12.7mmの機関銃やヘリに搭載している7.62mmの機関銃で対処することになっている。ただし、海上自衛隊は2022年4月30日時点で累計907回の護衛任務を実施し、4063隻の船舶を護衛したが、一度も武器を使用したことはない。もちろん一度も海賊行為を許すことなく、100%任務を成功させてきたことは、内外から高い評価を得ている。

中東の海洋安全保障を支える基盤

アデン湾での実任務を通じて見えてきた中東の海の顕著な特徴は、欧米の圧倒的とも言えるプレゼンスの大きさである。前述したとおり、米軍は中東各地に空海軍の基地を有し、さまざまな軍事的アセットを運用できる態勢を整えている。海賊対処任務に従事する多国籍海上部隊CTF151の活動にしても、バーレーンの米海軍第5艦隊のロジスティックス支援なしには成り立たない。

中東地域で米国と対立関係にあるイランは、200kmの射程のある対艦ミサイルを保有しており、ホルムズ海峡やバブ・エル・マンデブ海峡などを容易に封鎖することが可能だ。2018年7月には紅海でサウジのタンカーが被弾、また2019年6月、ホルムズ海峡で日本関係船舶のコクカ・カレイジャスが攻撃を受けた。どちらの攻撃も武器は特定されておらず、対艦ミサイルが使用されたかどうかもわかっていない。こうした攻撃が結果として単発な事象にとどまっているのは、究極的には米国の圧倒的な兵力による抑止効果だと考えられる。

湾岸諸国に駐留している米軍の存在以外にも、ディエゴガルシア島やジブチといった近隣の軍事拠点から、ペルシャ湾まで爆撃機で直接飛んでいくことが可能である。米海軍主導のCMFはこの地域の海洋安全保障に関わる作戦全体を統括し、英海軍傘下の「英国海事貿易オペレーション(UKMTO)」は、民間商船も含めた広範なネットワークを構築して治安情報の収集・分析だけでなく、海洋状況把握(MSA)の一大センターとして機能している。さらにフランスのブレストに本部を置く「アフリカの角・海事安全保障センター(MSCHOA」」は欧州連合(EU)の海軍部隊をコントロールする司令部の一部機能をもち、これら3つの組織が全体として緊密に連携しながら海上交通の安全確保に多大な貢献をしている。このような欧米勢のイニシアティブと緊密な連携体制が、中東地域の海洋安全保障を支える基盤を形成しているのである。

各国が軍事拠点を置くジブチ

また、ジブチの戦略的な重要性についても触れたい。スエズ運河までおよそ2400km、アデン湾東口まで1200km、バブ・エル・マンデブ海峡は、ちょうどイエメンとジブチの国境にある。ジブチはもともとインド洋から地中海に至る要衝に位置し、前述したとおり、同国が接するアデン湾の年間船舶交通量は世界の3分の1に当たる2万隻で、うち日本関係船舶は1600隻だ。建国以前から元宗主国であるフランスの基地があり陸海空軍が駐留していたが、湾岸戦争などで米国が輸送拠点としてジブチの基地を使うようになった。

その後ソマリアの政情不安により海賊事案が多発すると、複数の国が軍事拠点を置き、米国も「連合統合部隊・アフリカの角(CJTF-HOA)」を駐留させた。そのほかイタリア、日本、中国がジブチに基地を構えたが、日本と中国はこれが唯一の海外軍事拠点である。

中国海軍は、海賊対処任務に従事している間、アデン湾に設置された国際推奨航路帯(IRTC)の中央付近に補給艦を配置し、この補給艦から補給を受けながら護衛任務に当たっていた。この任務は中国にとって初の海外実任務だったにもかかわらず、ほとんど入港しなかったのは驚愕であった。

海賊船の識別は極めて難しく、24時間気を抜く暇がない。暑さに加えて極度の緊張感の維持と重圧との闘いを余儀なくされる任務を、休みなく継続するのは並大抵の覚悟では行なえない。精神的なタフさという点で言えば、中国海軍は極めて強く、長期戦になった場合、彼らの力を侮ることはできないと認識すべきである。

今後、さらに中国の強さにつながる可能性のある存在がジブチの保障基地である。この基地の特徴は、高さ3mの壁と鉄条網で囲われており、ジブチの他国の標準的な基地と比べるとはるかに堅牢なつくりになっている。基地のちょうど真ん中辺りに400mの滑走路があり、同じく400mの桟橋がつくられている。米国の正規空母が330m程度で、中国の遼寧クラスが310mなので、港湾の底面の土砂を取り去る浚渫工事を行なえば、十分に空母を泊められる桟橋である。

さらに地下施設も建設中であると言われており、一帯一路構想の重要拠点として、もしくはアフリカ全体への進出の橋頭堡として、中東地域での長期的なプレゼンスを確保する意図が読み取れる。

多国間協力によるシーレーン防衛に寄与せよ

ここまで、海上自衛隊の海賊対処任務を通じて見えてきた、中東における海洋安全保障上の秩序や各国のプレゼンスの現状について詳述した。今後、ウクライナ戦争を契機に変化する米露関係と大国間のパワーバランスの変化が、中東やこの地域の海上交通にどのような影響を与えるのかは、我が国のエネルギー供給にとって極めて重大な問題である。

同地域の安全保障の枠組みに参加し、日本の”旗を掲げ続ける”ことでシーレーン防衛に寄与することは、当面不可欠である。また、海賊対処行動で相互に協力できたように、中国との間で協力できる分野を拡大させ、たとえば、捜索救助HA/DR(Humanitarian Assistance and Disaster Relief=人道支援・災害救援)、災害対処などの分野で協力できる道を模索する努力を続ける必要はあるだろう。

しかし、より根本的には、日本から約1万2000kmも離れ、さまざまなリスクの混在する不安定な中東に、石油輸入の9割を依存していることの脆弱性についての認識を深め、エネルギー供給の分散・多角化をあらためて検討すべきである。

中東で米国や欧州諸国が実施しているような情報協力、安全保障協力の枠組みは、今後はインド太平洋、南シナ海や東シナ海でも不可欠となると考えられる。各国の軍隊や治安機関だけでなく、商船を含めたさまざまなデータを統合する動きが進むことになるだろう。

日本はそうした取り組みを積極的に推進するためにも、まず自国内において自衛隊だけでなく商船や民間の情報、海上保安庁のデータベースなどを統合できるような情報共有の枠組みの構築に着手すべきである。

さらに、台湾有事などを踏まえて、シーレーン船団護衛などを考えた際、海上自衛隊がソマリア沖の海賊対策で商船を護衛したような作戦を展開することは、現在の能力では極めて困難である。日本政府として、相当な覚悟をもって新たな予算を投入し、人員の養成から船舶の建造を含めた施策に取り組まなければならない。少なくともそうした議論を始めることが急務である。

※無断転載禁止

中畑康樹(元海上自衛隊補給本部長、元海将)
ゲスト報告者
中畑康樹(元海上自衛隊補給本部長、元海将)

地政学的要衝研究会メンバー

大澤 淳
(中曽根康弘世界平和研究所主任研究員、鹿島平和研究所理事)

折木 良一
(第3代統合幕僚長)

金子 将史
(PHP総研代表・研究主幹)

菅原 出
(グローバルリスク・アドバイザリー代表、PHP総研特任フェロー)

髙見澤 將林
(東京大学公共政策大学院客員教授、元国家安全保障局次長)

平泉 信之
(鹿島平和研究所会長)

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2022年9月号 特集「戦争と暴力の構造」

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