2026年版 PHPグローバル・リスク分析
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PHP総研グローバル・リスク分析プロジェクトは、来たる2026年に日本が注視すべきグローバルなリスクを展望する『2026年版 PHPグローバル・リスク分析』をまとめ、このたび発表いたしました。
本レポートは、第1回目の2012年版以来、政府関係者や企業経営者から高い評価をいただいており、今回の2026年版で15回目のレポート発刊となります。
2025年は、第二期トランプ政権が次々に繰り出す現状打破的な政策によって、戦後国際秩序の前提が大きく揺らいだ年となりました。ウクライナ支援の見直しやイラン核施設攻撃、同盟国をも例外としない高関税政策、国際制度への攻撃的姿勢は、安全保障、通商、金融など広範な分野に波紋を広げています。一方で、制度や協調の慣性が完全に失われたわけではなく、各国の対応によりショックが吸収された面もあります。
2026年においては、耳目を引く出来事の帰結や秩序解体後の世界がより具体的に表れてくるのではないでしょうか。高関税や不法移民の排除などのアメリカ第一主義的な経済・金融政策が、米国経済にいかなるインパクトをもたらし、世界の貿易関係やドル基軸通貨体制をどう変質させるか、ある程度明らかになってくるでしょう。米国の西半球回帰やロシアや中国に対する融和的態度、同盟国への負担シフトや欧州への敵対姿勢の度合いから、米国の今後の世界関与の方向性を読み解くこともできるはずです。そして、中露などの多極化攻勢や冒険主義的行動、米国の同盟国やグローバルサウス諸国によるヘッジングや自律性向上に向けた動きがあいまって、新しい秩序の萌芽が姿をみせてくるものと思われます。
トランプ2.0が世界中で引き起こす目まぐるしい作用反作用、AIなどの技術革新や地球環境危機、爆発的な接続性などがもたらす構造変化を捉え、劇場的なイベントに目を奪われて重大なリスクを過小評価することを避けるには、多様な専門知、複数の観点を糾合することが不可欠です。『2026年版 PHPグローバル・リスク分析』では、分野横断的な検討を通じて全体的な文脈や構造、リスク相互の連関を明らかにし、日本の利害を左右する重要リスクを評価することを試みています。本レポートが、変化する世界を構造的に捉え、先を見据えて行動するための一助となりましたら幸いです。
こちらのページには、10のリスクとコラムのタイトルとオーバービューの内容を掲載しております。詳細な内容についてはレポートをお読みください。
【2026年版 PHPグローバル・リスク分析 代表執筆者】
- 畔蒜泰助
- (笹川平和財団上席研究員)
- 飯田将史
- (防衛研究所理論研究部長)
- 池内 恵
- (東京大学先端科学技術研究センター教授)
- 太田智之
- (みずほリサーチ&テクノロジーズ チーフエコノミスト)
- 大場紀章
- (エネルギーアナリスト / ポスト石油戦略研究所代表)
- 金子将史
- (政策シンクタンクPHP総研代表・研究主幹)
- 国末憲人
- (東京大学先端科学技術研究センター特任教授)
- 菅原 出
- (政策シンクタンクPHP総研特任フェロー)
- 鈴来洋志
- ((公財)陸修偕行社・現代戦研究会座長/元韓国防衛駐在官・陸将補)
- 田島弘一
- (株式会社日本格付研究所顧問)
- 名和利男
- (日本サイバーディフェンス 専務理事)
- 保井俊之
- (武蔵野大学ウェルビーイング学部教授 兼 叡啓大学ソーシャルシステムデザイン学部教授)
Global Risks 2026
- 1. トランプ「現状変更」で液状化する世界と米国
- 2. 国家主導経済の拡大と金融秩序の変容が同時に進む世界経済
- 3. 核心的利益の拡大へ動く中国の動機と好機の高まり
- 4. 米露主導の「ウクライナ停戦和平」圧力で激変する欧州戦略バランス
- 5. 朝鮮半島を震源として先鋭化する日米韓 VS. 中露朝の対立
- 6. デジタル集中と信頼劣化がもたらすサイバー連鎖危機
- 7. 米国「エネルギー覇権」の変調と資源地政学の再燃
- 8. トランプ政権「西半球回帰」と対麻薬組織強硬対応で揺れるラ米
- 9. 高まるイスラエル・イラン「最終決戦」リスクと「アラブの春」再来のおそれ
- 10. タリバン政権の国際デビューと激変するユーラシア戦略構図
- 【コラム】嵐に備える1年間か 欧州の2026年
グローバル・オーバービュー
メタモルフォーゼする戦略構図
● 加速するアメリカ・ファースト路線と勢力圏の幻影
- 米国は国際公共財の提供や自由民主世界の拡大の負担を忌避し、狭い自己利益を追求。「平和の大統領」を望むトランプ大統領は、中間選挙を前に耳目を引くべく、中露等とのビッグディールを模索。同盟国や中小国には負担や譲歩を強要。中露は米国と同盟国との分断を図る。
- 米中露は勢力圏志向を強め、大国指導者間の調整で世界の重要問題を仕切るアプローチを選好。中露は台湾やウクライナなどの戦略課題での合意や勢力圏確定を迫る。米中露とも国内に深刻な矛盾を抱えており、拡張モードというより確定モード。
- 台湾やウクライナなどでの合意は容易ではない。中露主導の勢力圏確定を阻止する上でも日本や欧州といったミドルパワーの役割の重要性が高まる。
- ガザ和平合意のようにトランプ政権による圧力や強制が短期的に奏功する場合も。
● ユーラシア地政学の変転
- 米国の優先順位は違法移民や違法薬物を含む米本土安全保障に急シフト。南北米大陸への戦略関心を強め(新モンロー主義)、ユーラシア大陸への巻き込まれには慎重姿勢。
- イスラエル優位の中で、ガザ、イランの紛争は小休止。総選挙を控えるネタニヤフ首相は強硬路線を継続しており、イランに止めの攻撃を仕掛けるリスクも。
- ウクライナ戦争は米露主導で2026年前半の決着の可能性もあるが、ロシアと欧州の対立関係は解消されず、欧州は対ロシア戦略バランスの再構築を迫られる。
- トランプ政権は欧州のリベラルな価値観や米国依存体質を敵視。ウクライナなどで戦略的利害の不一致目立ち、米欧間に深刻な亀裂。伝統的な「西側」は風前の灯。
- 東アジアへの米国の関与は継続するも、トランプ政権の台湾政策は不明瞭。中国は米国と同盟国の離間をはかり、機会をうかがう。ディールによる米国の北朝鮮核保有国地位容認も懸念材料。
- 非米連携は勢いづく。中露朝は戦略的提携を進め、拡大BRICS には、ユーラシア外縁(リムランド)、南米、アフリカの有力国も参加。露はタリバン政権との関係強化で南アジアから中央アジア、中東へと連なる経済圏拡大に動く。米印関係の綻びからインドもこの流れに加わり多極的なユーラシア秩序の兆し。
- 北極海航路が本格的に利用可能になれば、中露のシーパワーは急伸。米軍がコントロールする東アジアから中東までのシーレーンは相対化され、地政学的前提が変化。
● 座礁するグローバル・ガバナンス
- 人権や民主化、法の支配を軽視するトランプ政権の「没価値外交」は、自由民主諸国の連帯を弱め、ルールの機能は低下。脱イデオロギー重視が柔軟性を生む面も。
- 2026年はNPT再検討会議を予定。中国による核軍拡、ロシアの核恫喝で核規範は弱体化。2026年2月に新START失効なら核軍備管理レジーム不在状態が発生。
- トランプ政権の政策転換を受けてESG分野での取り組みはまだら模様に。
- 米国は2025年の南アG20をボイコット、2026年の米国開催に暗雲。
「分断する世界」が塗り替える経済社会モデル
● 「関税の武器化」による国際経済体制変革の夢と現実
- トランプ政権は、ルールに基づく自由貿易体制に背を向け、高関税をテコに二国間交渉で市場アクセス改善や対米投資増を追求。中国は自由貿易体制や気候変動対策の主導者として自己宣伝。
- 関税効果による製造業の米国回帰はナローパス。成功しても自動化頼みで良質な雇用創出に結びつくか不透明。AI革命の恩恵を受ける米国だが、K字型経済化の進行が政治的叛乱の温床に。
- ドル基軸通貨の維持とドル高是正の同時追求は難事。BRICS等による現地通貨建て決済の広がり、デジタル通貨など、ドル覇権に挑戦する動き広がる。自国中心的な経済通商政策を嫌気して実体経済の米国離れが進めばさらに加速。
● 虚々実々の米中経済対立
- 米国の高関税や輸出規制による圧力に、中国はレアアースの武器化や報復関税で対抗。2025年11月の追加関税停止で小休止するも、根本的な対立解消は難しい。来年春のトランプ訪中に向けて駆け引きが続く。
- 中国向け投資や技術移転の停滞、不動産不況、トランプ関税で中国経済は苦境続くが、中国の強固な産業・技術システムは、米国の圧力に持久力を発揮。グローバルサウスとの経済関係強化にも活路を求める。米国は友好国とサプライチェーン再編を進めるが、西側経済の脱中国依存は遠い。
● 忍び寄るブラックスワン
- コロナ禍で膨らんだ政府債務が高止まりしており、債権市場に暴落懸念。
- 中央銀行の政治化、金融緩和の継続、規律なき積極財政など、主要先進国で政策失敗によるインフレ亢進のリスク。日本は通貨安がコストプッシュインフレの要因に。
- 異常気象、パンデミックなど世界規模のカタストロフが生起した際の主要国の対応余力は乏しい。主要国の自国第一主義で、協調対応も望み薄。
- 軍事領域を含むAIの実装が加速し、米中の開発競争は熾烈さを増す。社会のAI依存は想定外の副作用をうみうる。潜行しながら広がるサイバー脅威にも要警戒。
情勢把握力を失い、弾みで動く世界
● flood the zoneによる感覚麻痺
- トランプ政権による掟破りの常態化、サプライズ連発が、判断を阻害。不確実性の増大や連鎖反応が不測の事態を呼ぶ展開も。トランプ劇場の陰で重要リスクが過小評価されている可能性あり。
● 権威主義的リーダーの暴走
- 強権的指導者は、情報途絶と万能感で状況認識が歪みがち。無謀な決定を下す懸念。
- 米国、中国、ロシア、インド、トルコなど権威主義的指導の高齢化進む。後継問題による混乱も。
● 先進国政治の流動化、既存有力政党・組織の窮状
- トランプ政権は法の支配や権力抑制を軽視。建国250年の年に米国の立憲民主政は岐路に立つ。
- 先進国では中間組織の衰退やSNSなどメディア環境の変質で、既存有力政党が軒並み弱体化。右派ポピュリズム間の国際連携も進む。プロカリアート左派に振れる可能性も。
- 2026年のハンガリー総選挙は欧州政治の試金石。ブラジルではルラ大統領が4選を目指す。
- 社会不満や政情不安を背景に暗殺や国内暴力発生のおそれ。状況急変や治安国家化など反動を招く。
これまでの「グローバル・リスク分析」
- 2025年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2024年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2023年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2022年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2021年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2020年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2019年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2018年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2017年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2016年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2015年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2014年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2013年版 PHPグローバル・リスク分析
- 2012年版 PHPグローバル・リスク分析












