2024年版 PHPグローバル・リスク分析

PHP総研グローバル・リスク分析プロジェクトは、来たる2024年に日本が注視すべきグローバルなリスクを展望する『2024年版PHPグローバル・リスク分析』をまとめ、このたび発表いたしました。

本レポートは、第1回目の2012年版以来、政府関係者や企業経営者から高い評価をいただいており、今回の2024年版で13回目のレポート発刊になります。

欧州と中東という重要地域でウクライナ戦争とガザ戦争が継続し、国家間競争の激化と拡大する人間活動がもたらす様々な副作用に世界が直面するなか、2024年は米国をはじめとする数多くの国が選挙を迎えます。これまで以上に不確実性の高い一年となりそうです。

流動化する世界において、全体構造を捉え、変化を鋭敏に察知することの価値は一層高まっています。『2024年版 PHPグローバル・リスク分析』が、国際政治・経済・社会に関心を持ち、本物の知見を求める若者や、歴史的な転換期の本質を捉えようとする方々にとって有用な視座を提供する一助となりましたら幸いです。

こちらのページでは10のリスク項目とオーバービューの内容を掲載しております。より詳細な分析はレポートをお読みください。

〔NEW〕

英語概略版”PHP Global Risk Analysis 2024“を公開しました

【2024年版 PHPグローバル・リスク分析 代表執筆者】

畔蒜泰助
(笹川平和財団主任研究員)
飯田将史
(防衛研究所地域研究部中国研究室長)
池内 恵
(東京大学先端科学技術研究センター教授)
大場紀章
(エネルギーアナリスト / ポスト石油戦略研究所代表)
柿原国治
(航空自衛隊航空開発実験集団司令官 空将)
金子将史
(政策シンクタンクPHP総研代表・研究主幹)
菅原 出
(政策シンクタンクPHP総研特任フェロー)
田島弘一
(株式会社日本格付研究所調査室長)
中島精也
(福井県立大学客員教授)
名和利男
(サイバーディフェンス研究所専務理事・上級分析官)
馬渕治好
(ブーケ・ド・フルーレット代表)
保井俊之
(広島県公立大学法人叡啓大学ソーシャルシステムデザイン学部学部長・教授)

Global Risks 2024

  • 1. 選挙と戦争の嵐の中を漂流する「卓越後の米国」の国際指導力
  • 2. 権力闘争の激化が招く習近平政権の統治能力低下と対外強硬姿勢
  • 3. 分断化と内向き姿勢が招く高コストで低成長の世界経済
  • 4. ガザ戦争を契機として複雑化する中東に翻弄される世界
  • 5. 世界秩序変革の一環としてウクライナ戦争を継続するロシア
  • 6. 北朝鮮による核実験に端を発する核危機ドミノ
  • 7. 移民急増で極右が再台頭し不安定化する欧州政治
  • 8. エネルギーを巡る理想と「新しい現実」の乖離で高まる不確実性
  • 9. 外交や軍事に大きな影響を及ぼす新段階のサイバー脅威
  • 10. 自律型アンドロイド兵士の戦場出現

グローバル・オーバービュー

本格的挑戦を受けるパックスアメリカーナ

● 主要地域を脅かす暴力の応酬
  • 欧州でのウクライナ戦争に続き中東でもガザ戦争が勃発。二つの戦争は現状では大国同士が直接武力衝突しない地域限定戦争だが、エスカレーション・リスクをはらむ。東アジアへの波及も。
  • 米国は、武器提供や制裁等を通じて欧州と中東の戦争に介入。武力行使への消極姿勢が敵対勢力に足元を見られ、イスラエルへの支持姿勢は内外の批判にさらされる。二正面への関与が中国との対峙に必要な資源を制約。主要地域の秩序形成を主導する米国の意志と能力が試される。
  • ウクライナ、ガザで新しい兵器や戦法が試みられ、戦争の革新を加速。同時に核の比重も高まる。
  • 中東ではイスラエルを軸に据えた新地域秩序構築が急停止し、メインシナリオは不在。
  • ウクライナ戦争の帰趨は依然不透明。ロシア勝利なら「力による現状変更」の前例に。
● 国際秩序を動かす微妙な力学
  • 先進国と露中の対抗関係は一層構造化し、中間勢力に対する支持獲得競争が激化。露中は先進国vsそれ以外の構図浸透を狙う。ガザ戦争以降、国際秩序に関する米国のナラティブの説得力は低下。
  • 米国バイデン政権は、国内投資と輸出管理・投資を通じた経済力・技術力強化、同盟国・友好国との連携で中国に対峙しつつ、対中チャネルを維持して競争の管理をめざす。
  • 中国は、各種国際危機を好機に米国覇権の掘り崩しをはかり、米国に掣肘されない戦略環境形成を進める。経済減速を受け、一時的な融和姿勢も。国力低下が加速するロシアは対中依存を深め、現状秩序拒否プレイヤーとしてイランや北朝鮮と共同歩調。
  • 米国主導連合(G7 / QUAD /日米韓/ AUKUS 等)と中露主導連合(拡大BRICS / SCO 等)が競合。インド、インドネシア、ブラジル、トルコ、サウジなどのSwing Powersは、自らの国益に即して是々非々で取引行動。欧米はSwing Powersとの価値観面での齟齬に苦慮。
  • 米国の不確実性に対して各国がヘッジング行動を展開。トランプ二期目なら急加速。

戦略的競争時代の国際経済システム

● 国家主導経済の隆盛:誇張か現実か
  • グローバル化への反発、安全保障や競争力への懸念、パンデミック等によるサプライチェーン寸断への不安、グリーンシフトやデジタル化対応、物価高を背景に、多くの国が保護主義色を強め、補助金や規制など政府介入を多用するHomeland Economics(英エコノミスト誌)に傾斜。
  • 米国は政府支出を投入して製造業の自国回帰をはかり、パートナー連携で中露に依存しないサプライチェーン再編を試みる。欧州もグリーンなどで産業政策強化。
  • 中国はゼロコロナ政策失敗や自由な経済活動抑制で経済は減速するも、EVや再エネなど次世代産業テコ入れで優位性を確保。安全事由での外国民間人逮捕も続く。
  • 経済的威圧や経済制裁が頻発。環境、人権事由での貿易制限も。政治重視、信頼重視の「条件付き相互依存」が新パラダイム。経営判断、投資判断では高い政治リスクプレミアムが前提に。
  • 国際課税BEPS2.0実施へ。法人税収や多国籍企業のグローバル戦略の変質に要注視。
  • 過剰な政府介入には非効率やレントを生み出す懸念あり。市場と政府の役割分担の模索続く。
● 相互デリスキングの進行
  • 西側諸国は過度な中国依存を緩和するデリスキングを追求。経済競争力を強めた中国外しは難事。
  • 米国の経済制裁や単独主義的な金融政策はドル離れを招来。拡大BRICSでは中国の経済力とエネルギー、食料等供給国が結集。中国一帯一路は量から質への転換で巻き返す。
● 二重の貧富の格差
  • コロナ危機で途上国債務が急増、貧困も拡大。食料、エネルギー価格の高騰も途上国に打撃。脆弱国家が武装組織、国際犯罪の温床に。米欧では移民、難民問題が再浮上。
  • 先進国では中間層が衰退し、富裕層と貧困層に分岐。グローバル化、自動化・デジタル化、移民に脅かされる層が排外主義に向かい、国際協調を阻害。

人新世の難路

● 人間活動の大加速(great acceleration)と地球の限界(planetary boundary)の衝突
  • 人間の諸活動による地球への負荷は増大する一方。異常気象の頻発は企業活動や市民生活に甚大な被害。保険など金融への影響も。
  • 途上国では異常気象による居住困難、食料危機、エネルギー危機が社会を不安定化。
● 視界不良のエネルギー市場
  • 地政学的競争、デジタル化やEV化が相まってエネルギーのみならず、重要鉱物、食料、水などをめぐる争奪戦が活性化。資源ナショナリズムや戦略物資の兵器化が蔓延。
  • ウクライナ戦争やエネルギー価格高騰の影響や、エネルギー転換の難しさから、性急な脱化石燃料への見直し進む。地球環境危機への無作為が蔓延するおそれも。
  • 米国でESGへの反発が強まり企業は板挟みに。ポストSDGsもモメンタムを欠く。
● テクノロジーによる人間活動拡張の副作用
  • AI活用の広がりにより、生産性が向上する一方で、AI失業も現実化。AIによる市民監視や偽情報も無視できないレベルに達し、軍事利用も。AI技術管理は困難で、国際規制強化は掛け声先行。
  • ゲノムや自動化技術などの急速な実装化も新たなリスク要因に。

歴史的転換期のただ中における大型選挙年

● 重要選挙目白押しの2024年
  • 最大の山場は11月の米国大統領、上下両院選挙。トランプ再登板なら国際政治に激震。
  • 1月には東アジアの焦点である台湾で総統選挙、立法院選挙。ねじれが生じる可能性も。
  • ロシア大統領選挙(3月)はプーチン再選が既定路線。ウクライナ大統領選挙実施は不透明。
  • インドで4-5月頃総選挙。バングラデシュ(1月)やパキスタン(2月)で総選挙、スリランカでも大統領選挙(9月まで)と南アジアで選挙相次ぐ。
  • 2024年にはインドネシア大統領選挙・総選挙(2月)、イラン議会選挙(3月)、韓国議会選挙(4月)、南ア総選挙(5月頃)、メキシコ総選挙(6月)、欧州議会選挙(6月)も。シンガポールはリー首相が交代の見通し。英国は2024年内総選挙の公算大。日本では9月に自民党総裁任期満了。年内総選挙の可能性も。
  • 選挙イヤーに選挙干渉や偽情報が蔓延し、民主政の根幹である選挙の正統性がゆらぐおそれ。

これまでの「グローバル・リスク分析」

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