2025年版 PHPグローバル・リスク分析

PHP総研グローバル・リスク分析プロジェクトは、来たる2025年に日本が注視すべきグローバルなリスクを展望する『2025年版 PHPグローバル・リスク分析』をまとめ、このたび発表いたしました。

本レポートは、第1回目の2012年版以来、政府関係者や企業経営者から高い評価をいただいており、今回の2025年版で14回目のレポート発刊になります。

内政・外交の両面で型破りな政策や大胆な規制緩和を展開することが確実視される第二期トランプ政権の発足を目前に控え、既に世界各国の政府や企業が「トランプシフト」を繰り広げています。ウクライナ戦争やガザ紛争が長期化する中での米国の単独行動主義は既存の国際秩序を動揺させ、中国やロシアなどは硬軟取り混ぜた挑戦を展開することになるでしょう。

しかし、不確実性の高い状況が必ずしもマイナスに働くとは限りません。変化し、複雑化する国際環境を全体構造とともに捉え、日本にとってより望ましい世界への流れを創り出す姿勢が求められます。『2025年版 PHPグローバル・リスク分析』が、分野横断的かつ継続的な視点からリスク構造への理解を深め、予測困難な変化に適応する上での一助となりましたら幸いです。

こちらのページには、10のリスクとコラムのタイトルとオーバービューの内容を掲載しております。詳細な内容については レポートをお読みください。

【2025年版 PHPグローバル・リスク分析 代表執筆者】

畔蒜泰助
(笹川平和財団上席研究員)
飯田将史
(防衛研究所理論研究部長)
池内 恵
(東京大学先端科学技術研究センター教授)
太田智之
(みずほリサーチ&テクノロジーズ チーフエコノミスト)
大場紀章
(エネルギーアナリスト / ポスト石油戦略研究所代表)
柿原国治
(富士通FDNS安全保障研究所プリンシパル・リサーチ・ディレクター<元空将>)
金子将史
(政策シンクタンクPHP総研代表・研究主幹)
国末憲人
(東京大学先端科学技術研究センター特任教授)
菅原 出
(政策シンクタンクPHP総研特任フェロー)
田島弘一
(株式会社日本格付研究所顧問)
名和利男
(サイバーディフェンス研究所専務理事・上級分析官)
保井俊之
(広島県公立大学法人叡啓大学ソーシャルシステムデザイン学部学部長・教授)

Global Risks 2025

  • 1. 世界同時カオスを引き起こす「アメリカファースト2.0」
  • 2. 各国のトランプシフトで混迷するグローバル経済
  • 3. 米国の「脱・脱炭素」で起きるエネルギーパラダイムチェンジ
  • 4. 常態化する国家間「戦争」と攻撃手法高度化で高まるサイバー脅威
  • 5. 経済停滞とトランプ再登場が駆り立てる中国の高圧的な対外行動
  • 6. 「世界の多数化」戦略を加速させるロシア
  • 7. 「弱い独仏」で地盤沈下する欧州の国際影響力
  • 8. イスラエル優勢な中東勢力バランスがもたらす反作用
  • 9. 韓国の内政混乱が拍車をかける米韓同盟破綻
  • 10. 拡大する力の空白地帯と見捨てられる失敗国家
  • 【コラム】トランプ政権による攪乱と中国の浸透で急激に変貌するかつての「米国の裏庭」中南米

グローバル・オーバービュー

point of no returnを越える戦後秩序

● トランプ2.0の破壊力
  • 制約弱まり、トランプ次期大統領のイニシアティブが前面に。高官人事は忠誠心やメディア露出重視でブレーキ役は不在。政権本格稼働までの空白期にもリスク。
  • ウクライナ、ガザをはじめ第一期より格段に厳しい戦略環境にもかかわらず、トランプ氏に国際秩序を担う責任感は希薄。政府内の力関係による振れ幅も大きい。
  • ウクライナ戦争の即時解決、関税をテコにした交渉など、アクロバティックな対外姿勢が先鋭化。トランプ氏の取引主義的アプローチが手玉に取られるおそれ。中国等とのビッグディール追及も。
  • 国連、WTO、パリ協定などの多国間枠組み軽視にとどまらず、NATO批判、在韓米軍縮小など伝統的な同盟をもやり玉に挙げる懸念。各国はダメージコントロールに腐心。
● 「複合ギャップ」が増幅、連動させるユーラシア三正面危機
  • 戦争を防ぐ仕組みや規範が弱体化し、第三次世界大戦が全くの想定外と言えない状況。理想と現実、認識と実態、意思と能力、変化と意思決定速度のギャップが危機の源泉に。
  • 米国のパワーは強大だが、不明瞭な対外関与意志と国内の混乱が侮りと挑戦を招来する懸念。集団防衛や対外関与の信憑性が低下すれば、ユーラシア現状変更勢力の大胆な行動を誘発。
  • トランプ氏は関税や制裁の効果を過大評価し、軍事的関与に及び腰。経済で締め上げても、中国の台湾回収意志は不変。軍拡ペースも追いつかず、誤認とはずみで戦端が開かれるおそれ。
  • ウクライナ戦争、ガザ紛争は世界性を帯びるもなお地域限定戦争で、イスラエル-イランの衝突も一定の抑制効くがエスカレーション・リスクは潜在。ウクライナ戦争の早期終結は困難で、ロシア有利の終戦なら侵略否定の国際規範が著しく劣化。国家間サイバー紛争も本格化。
  • ウクライナ戦争を契機に、中国、ロシア、北朝鮮、イランの反米枢軸の利害の重なりが増す。ロシアと北朝鮮は公然と軍事協力を実施。欧州、中東、東アジアにおける危機同時発生は米国の資源を制約。選択と集中も困難。
● 国際社会に働く遠心力
  • 拡大BRICS加盟国増大など米国の不確実性へのヘッジングが常態化。米国の国際的関心が散漫になる中、東南アジアや中南米に中国が浸透。アフリカではロシアも地歩。
  • イスラム圏ではイスラエルや米欧への反発広がるが、湾岸諸国はイスラエル-イラン対立を静観。トランプの親イスラエル路線でアブラハム合意復活の可能性も。
  • 先進国では政治不信高まり、選挙は軒並み現職不利。ウクライナ危機に直面する欧州は、ドイツの連立崩壊、フランスの国民連合台頭で牽引役不在。韓国政治も非常戒厳騒ぎで機能不全。日本政治も流動化し、リベラル国際主義の担い手は力不足。
  • ウクライナ侵攻に続き、イスラエルやトルコなどの武力行使が横行。シリアは安定化にはほど遠く、サヘル地域や中南米では失敗国家が増大。欧米での不法移民、麻薬、テロを悪化させる要因に。

「無条件のグローバル化」後の世界経済と産業地図

● 自由貿易後退と財政悪化が蓄積する経済危機のマグマ
  • トランプ関税と中国他との報復関税の応酬で世界貿易停滞とインフレ圧力。トランプ政権による「不確実性の兵器化(アダム・ポーゼン氏)」が投資意欲にブレーキ。日本など中国以外の貿易黒字国も標的になる可能性。市場の反応次第では軌道修正も。
  • 多くの国が産業政策を積極化し、経済安全保障や保護主義に傾斜。経済取引の分断は世界経済を下押し。信頼できる友好国間の新たな経済関係編成の契機にもなりうる。
  • 世界的に政府財政の赤字が拡大する趨勢。ソブリンリスク高まる。
● 脱中国依存の追求と中国の巻き返し
  • 鉄鋼、EV、太陽光など中国による過剰生産が欧米で問題視。トランプ政権の対中高関税、貿易投資管理強化で、通商対立激化。対米懐柔のため中国による妥協演出も。
  • 米国は、安全保障上の考慮や同盟国の防衛力強化を米国市場へのアクセスの条件にするなど(次期米財務長官候補スコット・ベッセント氏)、安全保障と経済の一体化を推進。
  • 中国は戦略分野を中心に自給自足を進める一方、グローバル・サウスとの貿易拡大、拡大BRICS経済圏の形成に活路。一帯一路はフロンティア投資にシフト。中国主導のデジタル決済網拡大も米国の影響を受けない経済圏構築を後押し。
  • 食料等での中国の自給自足は戦時体制準備か。台湾侵攻時のダメージを限定。
● エネルギー・環境分野でのメインシナリオ消失
  • ウクライナや世界インフレ、中国EVの市場席巻を契機に、性急な脱化石燃料化の動きに揺り戻し。トランプ政権は化石燃料に回帰。関税や輸入規制で日本車に逆風も。
  • 大量に電力を消費するAIやデータセンターをはじめ、電力が次世代産業振興のボトルネックに。DXがGXを凌駕し、電力面での優位性をめぐる競争激化。

リベラルな諸前提の融解

● 動揺する近代普遍主義
  • トランプ政権は人権問題に無関心で、強権的リーダーに親和的。混乱する国内政治と相まって米国のリベラルなソフトパワーは低下。外交上の柔軟性が増す面も。
  • 世界各地で宗教復興進み、ヒンドゥナショナリズムや大イスラエル主義など政治とも結びつく動き。米国では、福音派、カトリック、ラテン系など宗教保守がリベラル左派に対峙。新たな思想の原動力に。近代化=世俗化という前提では本質を見誤る懸念。
  • 欧州では異なる文化的背景を持ち込むイスラム移民急増がポピュリズム台頭を誘発。
  • リベラリズムの普遍性が多方面から挑戦を受け、支配的イデオロギーをめぐる過渡期に。
● グローバルアジェンダを巡る新次元の衝突
  • グリーン移行を推進する欧州等先進国と「損害と補償」や開発を重視する途上国の溝深く、トランプ復帰と相まって政策協調に暗雲。ブラジル開催のCOP30は波乱含み。
  • 米国では、マスク氏らリベラルエスタブリッシュメントに批判的なテクノリバタリアンが影響力拡大。MAGAとの呉越同舟で、急進的な規制撤廃を実行。AI、自動運転、暗号資産、宇宙開発の抑制なき推進で想像を超える正負のインパクト。技術規制の断片化も加速。

これまでの「グローバル・リスク分析」

注目コンテンツ