経済安全保障と日本の活路
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『Voice』2021年2月号 総力特集―
コロナ・パンデミックによるサプライチェーンの寸断は、特定国に戦略物資や重要工程を依存するリスクを露わにしました。国家間の対立や不信が増幅する中で、経済と安全保障が結びつきを強め、企業経営も権力政治の影響を免れることは難しくなっています。日本でも、国家安全保障局に経済班が設置され、自民党新国際秩序創造戦略本部が提言を行なうなど、経済安全保障への関心は急速に高まっています。
政策シンクタンクPHP総研は、経済安全保障を多面的に理解し、日本の取るべき方向性について考えるべく、月刊誌『Voice』2021年2月号の総力特集「経済安全保障と日本の活路」に企画協力いたしました。PHP Geo-Technology戦略研究会のメンバーである村山裕三同志社大学教授の論考は、経済安全保障を考える際の論点を整理し、同研究会が提示した「戦略的不可欠性」の重要性を強調しています。ポストコロナ、経済安全保障時代の企業経営をテーマにした小林喜光三菱ケミカルHD会長へのインタビュー、ポストコロナのジオエコノミクス(地経学)を縦横無尽に語り合う御立尚資氏とイアン・ブレマー氏の対談とあわせてお読みいただくことで、経済安全保障の広がりを立体的に理解することが可能になるでしょう。経済安全保障の背景をなす米中対立が、米ソ冷戦とは異なる選択的・流動的・多元的な「まだら状」の性格を有するとの川島真東京大学教授の指摘も今後を展望する上で欠かせない視点です。
経済安全保障時代を生き抜くために日本はなにをなすべきか。小谷賢氏(日本大学教授/PHP総研コンサルティング・フェロー)は、エコノミック・ステイトクラフトに対峙するインテリジェンスのあり方を具体的に提言し、南川明氏(OMDIAシニアコンサルティングディレクター)はIoTに必須の4つの技術領域を抑える日本企業の潜在力を活写します。久間和生氏(農研機構理事長)の論考は、安全保障・経済成長・環境保全のいずれにおいても重要な農業・食品分野のイノベーションを展望します。
関連して、本号には、川邊健太郎氏(ZHD社長/ヤフー社長)と山本龍彦氏(慶應義塾大学教授)の対談も掲載されています。本対談は、『Voice』2020年6月号の山本教授の論考と同誌2020年8月号の川邊社長インタビューを受けて実現し、AIやビッグデータがもたらす諸課題を論じてきた気鋭の憲法学者と日本有数のプラットフォーム企業の経営者が、経済安全保障のメジャープレイヤーであるプラットフォーマーの役割について真剣に語り合いました。
政策シンクタンクPHP総研は、2020年4月に発表したPHP Geo-Technology戦略研究会の提言報告書『ハイテク覇権競争と日本の針路』、『Voice』2020年6月号総力特集「パンデミックと米中ハイテク覇権」への企画協力、毎年末に公表している『PHPグローバル・リスク分析』などにおいて、経済と政治、経済と安全保障のダイナミックな相互作用について真正面から取り組んできました。政治と経済が交差する時代に深く切り込む視点を提供し続ける『Voice』誌とあわせて、今後ともPHP総研の活動にご注目いただければ幸いです。
※2021年2月26日(金)にVoice×PHP総研ウェビナー「経済安全保障と日本の活路」を開催しました。