2020年は「選択する寄付」元年になる
2、あなたの寄付が3倍の力を生む
――アメリカだと大学生ということですが、日本では?
鵜尾:中高生をターゲットにしています。ボランティア部がある中高とか、いままで私たちも1万人近い中高生に「寄付の教室」などの社会貢献教育プログラムをやってきたので、そのつながりでやれそうなところと組んでやっていこうと思っていく部分と、全国どこからでも個人単位で参加できるオンラインでの主催企画なども考えています。
私はこれに「あなたの寄付が3倍の力を生む」というサブキャッチをつけています。寄付すると、子どもたちが議論してその寄付先を決めます。真剣に議論することで、子どもたちにもすごく学びがありますよね。そうして選ばれる現場の団体にとっては、寄付者の思いだけでなく、考えてくれた子どもたちの思いも現場に届くので、倍の力が出るわけです。寄付者にしてみれば、団体からも報告がきますが、子どもたちからも「こういうふうに議論して、こういうふうに決めました」という手紙がきて、倍の達成感がある。そういう意味で、3倍の力を生む、というキャンペーンです。
お金を集めるという目標以上に、選択する寄付、寄付文化が進むためには、選択するということに慣れている寄付者がいる必要があります。選択することを怖がらない寄付者というか。税金ではないので、国に任せたのであとはよろしく、というものではない。とはいっても選択するのは大変なので、子どもたちに選択を託すという方法があるんだなということを日本社会で認知させ、定着させる、大きなチャンスだと思っています。この機会に社会貢献教育の大切さへの理解も広げていきたいと思います。
――まさにいまの社会に必要な体験だと思いますが、コロナに関係なく動いていた計画だったのでしょうか?
鵜尾:Learning by Givingを日本でも広げていこうという話自体は、前々から動いていましたが、この世相の中で、非常に重要なタイミングだなと思っています。ボランティア部の子どもたちの話を聞いていても、部活もできないし、学校も行けていないしという中で、一生忘れられない体験を2020年にできたなという感じにしたいという思いも出てきて、それならキャンペーンを仕掛けようという話になったんです。
5月半ば頃に取材を受けていて、やはりいまは選択する寄付がテーマで、でも選択先を分野で選ぶとかクラウドファンディングで探すといっても、それも難しいと感じる人がいますよね、という話になって、「子どもに託す寄付ってどうですか」と聞いてみたら、「それ絶対いいですよ」ということになって。取材などを受ける中で、社会の温度感など、私の側にも気が付くことがあって助かっています。
――子どもたちというのはこの先の未来をつくっていく当事者で、彼らが思い描く生きたい未来は、大人たちが考えるものとは違うかもしれない。だけどいま彼らには経済力がない、ということを考えると、子どもたちが選択するというのは、とてもいいことですね。
鵜尾:いいですよね。ちょうどいまの世相に合っているというか、改めてこのプログラムの価値を感じています。今高齢者の方からも遺贈寄付の相談を年間数百件受けますが、やっぱりどこに寄付したらいいのか悩まれている方が多い。「どんな体験をされてきましたか」「どんなことに心を動かされますか」といろいろ聞いていくのですが、どうも最後腑に落ちない、という方も少なくありません。
たとえば、「遺贈寄付で1,000万円寄付します。だけど特定の団体を思いつきません」という方がいたとき、基金にするという選択肢もありますが、毎年どこかの学校の子どもたちが議論してその年の寄付先を決めるという選択肢もあります、と提案すれば、子どもたちが選ぶほうがいいという人もいると思うんです。
これまでも寄付の教室のプログラムをやってきましたが、子どもたちは本当に真剣に取り組みます。NPOの現場を訪問したりもして、お互い調べた活動を発表しあって、ディスカッションに熱が入ります。彼らの真剣に取り組む姿を見ていると、社会貢献のことを考えることで、人が育つことを実感できます。
疑似体験でもこれだけ真剣になるのに、そこに実際のお金がついてくるとなると、真剣さは比べ物にならないはずです。
――毎年選択が行われることで、その時々の世相や社会状況を反映した課題も選んでいけるでしょうし、生きた教育と言えますね。