コロナ危機が寄付と投資に与える影響

日本ファンドレイジング協会 代表理事 鵜尾雅隆 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

――お金の流れでいうと、新型コロナウイルス対策として休眠預金を活用した助成も行われるということですね。
 
鵜尾:休眠預金等活用法に基づく助成金や出資金の上限はもともと年間40億円だったのですが、最大50億円までコロナ対策で使えるようになりました。
 
――休眠預金の活用に関する法律ができたことの影響はどうでしたか?
 
鵜尾:昨年活用が始まってまだ初年度が始まったばかりですので、影響の評価はこれからなのだと思います。今回の新型コロナ関連対策の増額分では、状況に鑑みてさまざまな手続きを簡素化することになったようです。
 
――補助金については、「手続きにのっとって正しく使われたかどうか」にばかり評価軸が置かれていて、その結果どんなインパクトが生まれたのかにあまり目が向いていないという反省があったと思うのですが、実はこれは日本の働き方にも通じる話だと思っています。朝決まった時間に会社に来て、決まった時間までそこにいることが大事で、その結果なにをしたかももちろん評価されるけれど、それ以上に来てそこにいることが重視されていたようなところがありましたが、コロナの影響で在宅勤務の導入が進んだことによって、そうした慣習が大きく崩れたように感じます。プロセスが見えにくくなったことによって、プロセスよりもなにをしたのか、その成果に着目せざるを得なくなった。そういう流れが、補助金や休眠預金などについても適用されるといいですよね。
 
鵜尾:NPOセクターに限らず、日本社会全体に言えることだと思いますが、いい意味での成果指向というか、結果が出ていればそのプロセス自体をがちがちに管理するという発想から離れるということが大事だと思います。
 
 テレワークや自由な働き方もそうした発想がベースで必要になりますよね。補助金などでは、もちろん適切な資金の使用は必要ですが、日本の補助金制度は大変厳密で厳しい管理を求めていると思います。その点を柔軟化させて、限られた資源をより変化につなげるとともに、現場で本質的な活動の質の向上に役立つような、評価のモデルの進化が必要だと考えています。新型コロナの状況下で、限られた社会資源をどう有効活用して、困っている人たちを最適に支援していけるかがより問われていると言えるでしょう。
 
――NPOに限らず一般企業でも、コロナ禍を受けて活動内容や事業内容を見直したり、在宅勤務などの働き方の工夫をしているところも増えていますが、そうした動きは進んでいますか?
 
鵜尾:オンライン化は急速に進みましたね。もともとNPOセクターは子育て世代の女性が多いので、一気に在宅が進みましたし、NPOセクターの人がオフィスにいるという様子を見なくなりました。
 
 ファンドレイジング協会でもセミナーや研修をしていますが、オンライン化したことで、むしろ集客力は上がって、参加する人が増えました。東京で開催していたときは、東京まで来なければいけなかったんですけど、オンラインなら北海道からでも沖縄からでも参加できるので、いままで会えなかった人たちとたくさん会えるなと感じています。
 
 ただ、NPOセクター共通の課題としては、事業型であれ寄付型であれ必要な共感性をどうつくっていくかというものがあります。企業から業務委託を受けるにしても、企業の人と会って話をする中でパッションに共感してもらって一緒にやりましょう、ということになるので、いまは過去の貯金でやっているところはあるんですが、オンラインでは新規の関係性の開拓がなかなかしにくいところがあります。NPOは企業や支援者にとって絶対に必要なサービスではなく、気持ちが乗ったら応援しますというケースが多いので、オンラインでは気持ちを乗せにくいというところが課題です。
 
――すでに親しい相手ならともかく、オンラインだと少し距離を感じてしまうかもしれませんね。
 
鵜尾:そういう中でNPOのファンドレイジングを見ていると、真正面を見てしっかり語り掛けるというようなスタイルの映像をYoutubeにあげて発信するようなところに、やはり寄付が集まりやすいようです。
 
――コミュニケーションの取り方や関係性の作り方の前提が変わっていきそうですね。
 
鵜尾:これまではリアルで行ってきたファンドレイザー研修も、非常事態宣言が出そうだったので、開催3日前になってオンライン化することを決めました。満足度が下がるんじゃないかとどきどきしながらやってみたんですが、オンライン化してから開催直前にばたばたと追加申し込みがあって、満足度も高かったんです。
 
 4月にも、「ファンドレイザーはいまなにを考えるべきか」というオンラインセミナーをやったんですが、そこには130名くらいが参加しました。これまでリアルで開催してきたときは、どんなに集まっても50名くらいだったんですが、エルサルバドルから参加されている方もいました。全国どころか世界中から参加する人がいて、「オンラインでなかったら参加できませんでした!」と喜んでもらえました。
 
――物理的な距離の壁は逆に一気に超えられた感じがありますね。
 
 
→後編(「2020年は『選択する寄付元年』になる」)に続く
 
鵜尾 雅隆(うお まさたか)*認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会代表理事。
GSG 社会インパクト投資タスクフォース日本諮問委員会副委員長、(株)ファンドレックス代表取締役、全国レガシーギフト協会副理事長、寄付月間推進委員会事務局長、非営利組織評価センター理事、JICAイノベーションアドバイザー、大学院大学至善館特任教授なども務める。JICA、外務省、NPOなどを経て2008年NPO向け戦略コンサルティング企業(株)ファンドレックス創業、2009年、課題解決先進国を目指して、社会のお金の流れを変えるため、日本ファンドレイジング協会を創設し、2012年から現職。認定ファンドレイザー資格の創設、アジア最大のファンドレイジングの祭典「ファンドレイジング日本」の開催や寄付白書・社会投資市場形成に向けたロードマップの発行、子供向けの社会貢献教育の全国展開など、寄付・社会的投資促進への取り組みなどを進める。
2004年米国ケース大学Mandel Center for Nonprofit Organizationsにて非営利組織修士取得。同年、インディアナ大学The Fundraising School修了。
著書に「寄付をしようと思ったら読む本(共著)」「ファンドレイジングが社会を変える」「NPO実践マネジメント入門(共著)」「Global Fundraising(共著)」「寄付白書(共著)」「社会投資市場形成に向けたロードマップ(共著)」「社会的インパクトとは何か(監訳)」などがある。

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