コロナ危機が寄付と投資に与える影響
――インパクト投資についてお伺いします。こちらも伸びているということでしたが、どういうかたちで投資が行われているのでしょうか。
鵜尾:これはいわゆる出資ですね。ベンチャーキャピタルに対する通常の出資と同じようなかたちだったり、債券のかたちであったり、かたちはさまざまですが、パーセンテージは高くなくても経済的なリターンも期待する投資です。投資ですから、もちろん返ってこないリスクもあります。ただし、社会的な課題解決もリターンとして期待する、というものですね。
――となると、NPOには投資はできないので、投資先は株式会社になるのでしょうか。
鵜尾:株式会社形式でソーシャルビジネスに取り組んでいるところになりますね。
――そうした寄付、投資の両面について、新型コロナウイルス感染症の影響はありましたか?
鵜尾:寄付に関しては、実は最近寄付に関する取材の依頼が非常に増えています。4月末から3日に1回くらい取材を受けているような状態です。
これは給付金の支給が決定したことの影響が大きいようです。給付金が全国民に出ることになったので、自分は必要ないので寄付すると言っている方も多いんです。5月1日に発表になったある財団の調査によると、21%の方が、一部でも給付金を寄付したいという意思を示しているそうです。
そういうこともあり、いま寄付のプロジェクトがたくさん立ち上がっていて、たとえば三菱UFJファイナンシャルグループがあしなが育英会に5億円寄付したり、有名Youtuberが自ら1億円を寄付してみんなに寄付を呼び掛けたりだとか、いろんな動きが出ています。東日本大震災ほどではないですが、いま寄付が盛り上がっているということは間違いないです。
インパクト投資に関しては、いまの段階では動きはそれほどありません。いまはまだ緊急対応なので、政府の補助金的なお金や寄付の話が重要なフェーズです。
世界的には、現在の経済危機を受けて、とにかく仕事を復活させなければならない、失業者が大量に出てくる中で、セルフエンプロイメント、自分でスモールビジネスを起こす人たちを増やしていかなければ経済が回らないという危機感があるので、失業した人がスモールビジネスを始めるための投資などは、これから世界中で出てくると思います。
――日本でも出てくるでしょうか。
鵜尾:日本でのインパクト投資がどういうふうになっていくか、いまはまだ読み切れないところがありますが、リーマンショックと経済危機という意味では似ていますよね。今回のほうがダメージが深いですが。日本にもリーマンショックの影響はもちろんあったんですが、欧米と比べると、そこまで深刻なダメージにはなりませんでした。短期的には寄付額が下がったりもしたのですが、長期的には資本主義の限界といった議論が起こってきて、むしろ富裕層は寄付や社会的投資をするようになっていきました。弱者に対する共感や連帯感のようなものが生まれたというか、みんなでこの難局を乗り切ろう、という思いが広く共有されたんですね。
いまの日本もそのときと似ている空気があって、「みんなで応援しよう」とか「アーティストが苦しいならみんなで支えよう」といった動きが見られます。日本社会はこれまで過度な個人主義のようなものが強かったんですけど、自己責任とは言っていられない状況になりましたから。シングルマザーも、貧困も、自己責任を問うてもしかたがなくて、誰もが失職する可能性があるという状況で、社会的な課題や弱者に共感して寄り添いやすい空気が日本全体に生まれているように思います。これはインパクト投資にとっても寄付にとっても追い風と言える状況なんじゃないかなと思います。
――5年前の取材では、日本国民は体験の共有によって変わりやすい面を持っていて、国民の51%以上が同じような感情や体験を共有すると一気に物事が動くことがあるというお話を伺いました。その意味で、東日本大震災も大きな経験だったと思いますが、今回の新型コロナウイルス感染症は日本全国どころかグローバルに全世界が先進国も途上国も関係なく同じ体験を共有しているということがとても大きいように思います。
鵜尾:世界中のつながりも深まっていますし、物理的な分断や距離はできていますが、みんなで力を合わせてやっていこうという機運は高まっています。とくにソーシャルセクターでは、海外との壁がなくなって、かえって会議が増えています。
コロナはこのグローバル時代は言葉通り世界中を旅してしまうので、日本だけ抑え込んだところで、ブラジルで感染が拡大すれば日本にも跳ね返ってきてしまうし、アジアで起こっても当然そうですから、他人事ではないんですよね。だから、いい意味での連帯感が世界の共有言語になっていくというか、「情けは人のためならず」ということですよね。