制度と現場の全体像を知る強みを活かした貢献

認定NPO法人 Living in Peace 理事長 慎泰俊 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――これまでのLiving in Peaceの活動は、比較的現場に近いものが多かった印象ですが、児童相談所の第三者監査の仕組みづくりなど、今後は現場で得た知見を活かした政策・制度面へのアプローチもされていくのでしょうか。
 
 
:Living in Peaceは認定NPOなので、アドボカシーの活動をやりにくい部分があります。公益性のあるアドボカシーはもちろんできますが、公益性の基準がとても厳しいので、どこかの政党に肩入れするようなことをしてしまうと、認定が取り消される可能性があります。そうすると寄付してくださる方々にご迷惑をおかけすることになってしまうんですね。
 
 今はアドボカシーを主に個人の活動としてやっています。政治や行政の働きなしには子どもの問題は解決しえないという考えもありますし、社会的養護に関して言うと、私は全体像をちゃんと見られている数少ない外部者だと思っています。誰よりもよく見えているとは言いませんが、全体の制度がどうなっていて、現場が実際どう動いているのか、ある程度の実感を伴って理解している人はそんなに多くない。そういったことを考えると、全体の制度設計を私個人としてお手伝いすることは、自分の限られた時間の使い方として正しいと思っています。
 
 児童相談所も一時保護所もいろんなところへ行きましたし、政治家や官僚の方ともいろんな話をしてきましたし、政策や政治がどうやって動いているか、法律がどうやって決まるのかも見てきました。
 
 制度というものは、全体が見えている人がつくったほうがいい。一部しか見えていない人が、自分が見えているものの中での最適を目指すと、全体の中で適切なものにはなりません。ですから、現場との関わりに加え、制度づくりにもある程度関わっていきたいと思っています。
 
 
――慎さんは、Living in Peaceとして日南市での実態調査などもされていますし、児童養護施設にも定期的に泊まりに行かれていますよね。そうして、現場に近づけば近づくほど、中の人になればなるほど、「世間一般の感覚」が分かりにくくなってしまうと思います。
 
 世間一般での認識と現場の実態にどんなギャップがあるかが見えなくなると、かえって情報発信などの活動が難しくなりそうですが、「世間一般の感覚」はどのようにして確認されていますか?
 
 
:似たような人ばかりとつるまないことです。友人は持ったほうがいいと思いますが、同じような人とばかりつるんでいると、世間と感覚がずれても自覚できなくなってくるので。業界の人たちとばかりご飯に行っていたら、そのコミュニティで共有されている感覚が当たり前のものになってしまって、どんどん外の感覚が分からなくなってしまいます。
 
 ほかにも、ツイッターでタイムライン検索をするのも一手です。ツイッターで呟く人にも若干バイアスがかかっていますし、極端な意見を言う人たちはだいたい声が大きいので、右だとか左だとか極端に分かれがちですが、少なくとも「いろんな人たちがいるんだな」ということは分かる。フェイスブックで友達になっている人やツイッターでフォローしている人だけの意見を見るのではなく、タイムラインでフラットに検索するのがいいと思います。
 
 それでも、私は社会的養護やマイクロファイナンスについては、自分が関わっているが故に、かなりバイアスがかかっているんだろうなと、気をつけてはいます。
 
 
――その意識を持っているかどうかだけでも、全然違いそうですね。Living in Peaceのメンバーは皆さん本業を別に持っているということが、さまざまな分野の視点や感覚を取り入れることに役立っている面もありそうですね。
 
 
:そうですね。越境しているというか、いろんな人たちがいるので、それはとてもいい気がします。私は本業が金融ですが、商社、事業会社、弁護士、会計士、映画を撮っている人、フリーターなど、本当にいろんな人がいました。
 
 
――専業のメンバーを置くことは、これからも考えられていないのですか?
 
 
:平日に問い合わせなどに対応できる人がいたほうがいいという観点から、活動から10年経ってようやく最近その議論を始めました。
 
 
――二足のわらじ、パラレルキャリアといったモデルも定着してきたので、思い切って変えてもいいと。
 
 
:そうですね。こだわる必要がだいぶ減ってきたと思っています。

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