制度と現場の全体像を知る強みを活かした貢献

認定NPO法人 Living in Peace 理事長 慎泰俊 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――社会的養護の課題へのアプローチが、児童養護施設の建て替え支援というところから、少し上流にシフトしているように感じられますが、いかがでしょうか。
 
 
:やはり、そもそも子どもは家庭で育ったほうがハッピーなので、本当に問題とすべきは子どもの貧困だと思っています。それは日本の経済が十分に強くないといったところとも関連しているんですが、だからこそ、その分野での課題解決がすごく大切です。
 
 たとえば、宮崎県の日南市で行われた子どもの貧困の実態調査にLiving in Paeceは関わりました。その反響がかなり大きくて、全国でも取り上げられたりしたのですが、これはやってよかったと思っています。調査で見えた実態に対応して、子どもの貧困に取り組む部署など、行政の組織づくりが変わりました。
 
 
――「日南市子どもの貧困対策支援アンケート結果分析に基づく考察について」ですね。今後もほかの地域でも実施されるんですか?
 
 
:声はかけていただいていますが、けっこう組織リソースを費やす仕事なので、どうしようかと思っているところです。
 
 リサーチというものは、仮説をきちんと立てられる人がいないと、ただデータを取っただけでおしまいになってしまいます。仮説を立てて、データを集めて、そこから考えられることを見出して、何らかの洞察と課題解決案を策定できる人がいないといけないのですが、それが得意な人は、ビジネスセクターを含め世の中にそんなに多くはないんですよね。
 
 
――そうした人材はそもそも世の中全体に少ないという課題がありますが、社会的養護に関する関心が世間的に高まってきた現在でも、児童相談所や児童養護施設で職員として勤めるハードルは依然として高いですよね。熱意ある優秀な人材を現場に呼び込むことは、課題の解決のために重要なことだと思いますが、児童福祉士のような職業を学生にとって魅力的なものとしていくためには、どのような対策が考えられるでしょうか。
 
 
:本質的には給料を上げることだと思います。日本の公務員の給料は低すぎると思います。
 
 給料というものは、本来「それをやる人にいくらの値段がつくべきか」という理屈で決まるはずですが、公務員に関してはそうではない。民間企業の仕事にもそういう部分はありますが、民間セクターは同じ業務であっても会社を変えれば給料が変わりますし、やっている仕事について世の中で需要が高まれば給料も上がります。それに対して、公的なセクターにおいて、たとえば一時保護所は保護所間格差が大きいけれど、どの施設でどんな働きをしようと、給料が基本的に変わらない。それはけっこう大きな問題だと思います。どうやって変えられるのかは分からないですが。
 
 働きと給料がきちんと釣り合うようにする仕組みをつくる。あとは必要な場合はきちんと解雇するという仕組みもつくること。
 
 もちろん、人はお金のためだけで働くわけではありませんし、社会的意義がある仕事に就く人は今後も多いでしょう。しかし社会的意義で給料をディスカウントできる割合は平均すると1、2割程度だと思います。

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