社会の変化と見直される役割
――そもそも期限を定めた数値目標がそぐわないのでしょうか。
慎:目標をつくるのはいいことだと思います。そうすると問題点が見えてきますから。
前回の「社会的養護の課題と全体像」では、15年以内に1:1:1という緩やかな変化を促すものだったので、時間もあるしゆっくりやっていけばいいかくらいに思っていたのですが、今回は「就学前の乳幼児は原則として里親委託」、つまり施設への入所を一気に停止するという、かなり過激な方向に振っています。そうすると、それが本当に可能なのか、可能にするには何をするべきなのか、ということを真剣に考えますよね。
私自身、里親の現状など部分的に知っていることはもちろんあったものの、里親委託を進めると何が起きるのか、ヨーロッパなどの事例もきちんと調べきれていなかったのですが、実際にやるとなるとやっぱり考えざるをえなくなって、結果、里親への支援体制が全然足りていないことを痛感するに至りました。
ただ、いまは社会の関心がこの分野に向いていますし、里親や施設の支援に取り組むことはもちろん大切なんですが、子どもを取り巻く問題をぐるりと見回してみると、知られていない問題がもっとほかにもあるはずなんです。たとえば難民とか、故郷の国で食べるにも困って日本に密入国して不法滞在している人たちがいます。彼らは隠れて暮らしていますから、当然その子どもは全く何の支援も受けられないんです。子どもたちに罪はないわけですから、ちゃんとした教育や養育を受ける機会はあるべきだと思っていて、そうした支援も必要だと思っています。
ほかにも、たとえば毎年1,000人くらい、子どもがいなくなっているんですよね。
――いなくなっている?
慎:引っ越したり転校したりしたときにきちんと届け出を出していたら、子どもたちの記録はきちんと残るはずなんですが、転校した後などに、記録からいなくなっている子どもがいるんです。そうして社会の目からこぼれ落ちてしまっている子どもたちがいる。出生届が提出されていない子どもについてはそもそもデータがない。
社会的養護も昔はそうだったんですが、一部の人しか知らなかった問題が、多くの人にその存在を知られることによって明るみに出て、改善の方向に向かっていく。知られていない問題が常にたくさんあるということは間違いないと思っているので、それらを探し出して、問題として認識されるようにしていきたいなと思っています。
もちろん、施設の子どもたちや里親家庭の子どもたちにも大変なことはいっぱいあるので、支援は継続していきます。ただ、見えていない課題に先鞭をつけるのがNPOの仕事ですから。
――見えていない課題を探し出す。たとえばどんなやり方があるのでしょう。
慎:フィールドスタディでしょうね。いま、Living in Peaceで難民支援プロジェクトを始めていて、そこからいろいろ見えてくるのではないかと思っています。
そういう人たちがどういうところで匿われているかというと、各難民および外国からやってきた人たちの地元コミュニティの場合が多いようです。そうしたコミュニティと信頼関係を築いて、ある程度気心が知れてきたら、その子どもたちの支援もできるようになるかもしれないと考えています。
(第二回「制度と現場の全体像を知る強みを活かした貢献」へ続く)
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慎 泰俊(しん てじゅん)*1981年生まれ。朝鮮大学校(政治経済学部法律学科)、早稲田大学大学院(ファイナンス研究科)卒業後、2006年からモルガン・スタンレー・キャピタルなどを経て、2014年に五常・アンド・カンパニーを創業。現在に至る。
*Living in Peaceの活動内容や経緯は、慎さんのご著書で詳細に語られています。
『働きながら、社会を変える。』
『ルポ 児童相談所』