「見えないリスク」を見つけるマーケティング的アプローチ

NPO法人 OVA 代表理事 伊藤次郎 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――年齢層は、やはり若い人が多いんですか?
 
伊藤:10代から60代まで幅広い年齢から相談が寄せられますが、20代から30代が、7~8割くらいですね。法的には40歳未満、39歳までが若年層と定義されているんですが、やはりその辺りの年代の方がほとんどです。
 10代は電話をしたがらないんですよね。実はいまの10代はメールも使っていない人も多いので、ウェブ接客ツール、つまりLINEのようなユーザーインターフェース(操作画面・操作方法)のチャットツールも導入しています。
 
――そんなに違いますか。
 
伊藤:メールは一通ずつやり取りをしますよね。一方でチャットやLINEは、同じ画面上で、一言ずつでもテキストをやり取りできる。電話に近い。その時間的同期性が、メールにはないんですよ。10代の人たちには、チャットのようなやり取りのほうが、インターフェースも含めて馴染みがあるので、そのほうが気軽に相談しやすい。
 私たち支援者からすると、本当は最初の相談はメールでもチャットツールでもなくて、電話で受けたいんです。基本的には相談支援は対面で行うことが望ましいんです。なぜなら、情報量がいちばん多いから。電話だと、まず顔の表情やしぐさといった情報が抜け落ちて、その人がどういうふうに感じているのか、声色からしかわからなくなります。それがメールになると、声色もわからなくなって、情報量はさらに下がる。
 ですから、対人職に従事する人のなかには、メールでの支援は「やってはいけない」と考える人さえいます。私も最初この活動を始めた頃は、せめて電話でと思って、「お電話でお話しませんか」と提案したりもしてみたのですが、ほぼ断られて、それで相談そのものが敬遠されるよりはと、思い切って入口はメールということに切り替えたんです。もちろんそういうノウハウはありません。当時の心境でいうと、できるできないとかじゃなくて、もうやるしかないという感じでした。
 メールでやり取りを続けて関係性ができてくると、「電話でもいいよ」と言ってくれる人も出て来て、電話で話しながら課題を整理して、リアルの支援機関につないでいったり、対面での面接を行ったりというケースもあります。
 要するに、組み合わせですね。メール、チャット、電話、対面。いまのところ、相談員が3名しかいないというリソースの問題もあって、すべてを対面でやっていくということはできないし、相談者もそれを望んではいないので、入口はハードルを下げてメールで、あとは相談者によってツールを組み合わせて、というかたちでやっています。
 
――電話はしたがらないものなんですね。
 
伊藤:これは推測ですが、若者の文化としてテキストが慣れているということがひとつ。そもそも、テキストのやりとりで事足りる事が多く、どこかに電話をするという機会が、いまはあまりないんだと思います。
 また、先ほど時間的同期性の話をしましたが、自殺の相談を電話でするには、気持ちの言語化をリアルタイムでしなければならないわけです。でも、言葉で人に説明できるほど、自分の気持ちとか、置かれている状況や課題がまとまっていないのではないでしょうか。何から話していいのかわからない。なので、私達が出会っている人たちはかなり電話に抵抗があるみたいですね。
 

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