「見えないリスク」を見つけるマーケティング的アプローチ
――伊藤さんが現在のようなかたちで自殺対策に取り組もうと思われたきっかけはなんですか?
伊藤:私が活動を始めたのは2013年の6月なんですが、日本の若者の自殺が深刻な状態にある、という話を聞いたんです。当時、年間ベースの自殺者の総数は減少傾向にあったんですが、年齢別に見ると、若者の自殺は減っていなかった。
日本人の死因は「悪性新生物(ガン)」「心疾患」「脳血管疾患」の順ですが、年代別に見てみると、10代から30代までの死因の一位は自殺なんです。それを知って、何か自分にできることはないかと思うようになりました。
「若者」に焦点を当てて自殺問題を考えたときに、スマートフォンにリーチしたらいいのではないかと考えたんです。若者のほとんどはスマートフォンを持っていますから、自殺念慮を持った若者は、手元のスマートフォンで方法を調べたりするのではないかなと思って、実際にどのくらい検索されているか調べてみたんです。
そうしたら、一つの検索エンジンで、「死にたい」と十数万回検索されていることを知りました。「死にたい」の後に「助けて」という検索ワードを打ち込む人もいる。そのことに、ものすごくショックを受けました。
というのは、若者はSNSを使っている人も多いですよね。TwitterとかFacebookとかLINEとか。そうしたSNSのタイムラインにつぶやけば、それを見た誰かが、「大丈夫?」とかリアクションをしてくれるかもしれない。
だけど、検索エンジンはあくまでものを調べるためのもので、そこに打ち込んだ言葉は誰にも届かない。当然、誰も「大丈夫?」なんて言ってはくれない。彼らもきっとそれを分かっていて、そこに打ち込んでいる。宛先のない叫びなんです。死にたい、死にたいくらい辛い、という気持ちを誰にも打ち明けることができずに、思わず目の前にあるスマートフォンに打ち込んでみたんだな、と。それを見てしまった時、その痛み、みたいなものが伝わってきて、これはすぐに何とかしなければいけないと、その場で検索連動広告という手法を思いついて、2週間後にはホームページをつくって、リスティング広告を打って、メールを受信しました。
――課題に気がつかれてから、行動に移すまで、すごいスピードですね。
伊藤:私はもともとメンタルヘルス関係の仕事をしていました。大学卒業後は企業に対してメンタルヘルス対策を行う人事コンサルティング会社で働いていましたし、その後、精神科のクリニックで精神保健福祉士の資格を持つソーシャルワーカーとして、うつ病になった方の復職支援などにも携わっていたんですが、自殺に関しての問題意識は前々から持っていたんです。
そうしたところに、「死にたい 助けて」という検索ワードが打ち込まれていることを知ってしまったので、やるしかないと思って、活動を始めました。