ソーシャルメディアが消費行動を変える
――そうした企業のCSR的な取り組みのひとつが、NPOをはじめとする非営利組織の応援ということですね。
下垣:ソーシャルメディアが企業活動に与える影響を考える一方で、社会貢献をしたいと思っている企業と現場で直接的に社会のための活動をしている人たちをつなぐ座組みをつくりたいと思い、それがNPOだと思ったので、まずはいくつかのNPOで約2年間プロボノをさせていただきました。
その間にいろいろ経験する中で、いまお話したようなことが、「そうだろうな」という予想くらいだったのが、「これ絶対来るわ」という確信に変わっていきましたね。NPOの皆さんと関わらせていただく中で、これからの日本にとってすごく重要なセクターだということも理解しました。極端に言うと、NPOがちゃんとしていかないとこれから日本はまずいことになるくらいに思いました。
一方で、日本のNPOの環境や認知度、寄付の状況などを見てみると、今後重要な分野であるにもかかわらず、現状が貧弱であることにも気がつき、なんとかしたいという気持ちになると同時に、チャンスだなと思いました。「これから絶対に必要な分野で、伸びしろがあるのに、今あまり伸びていない。ということは、これから急激に伸びる可能性があるということ。それって、すごくおもしろい領域だな」と思い、事業を始めたのが4年前でした。
――ソーシャルセクターの可能性を信じられたのも、そのとき抱いたモチベーションがいまに続いているのも、最初に出会われたNPOがよかったのかなというふうにも思うのですが、プロボノで活動されていたNPOというのは、どちらだったんですか?
下垣:最初はとある教育系のNPOでした。
6年前はNPOのことを何も知らなかったのですが、会社の後輩がNPOで活動していたと言っていたのを思い出して、相談したところ、「自分がいたNPOを紹介します」と言って紹介してくれました。
2010年の11月に、その後輩と、そのNPOの代表と3人で食事をしたのですが、僕が事業の話をしていたら、その方が、「来月、社会起業家と呼ばれる人たちが集まる忘年会があるから、そんなに興味があるんだったら来てみたら?」と言ってくれたのです。それでその忘年会に参加したことが、実は僕にとってひとつの大きな動機になっています。
忘年会に行ってはみたものの、名刺交換しても、誰とも会話になりませんでした。みんなNPOの方で、僕はずっとインターネット広告の世界にいてNPOのことはまったく知らない。お互い何を言っているのかわからなくて、何の話をしても、全然会話が成立しない。最初は「なんだこれ」と思っていたのですが、ひとりでぽつんとお酒を飲みながら彼らを眺めていたときに、なんだかすごいエネルギーを感じたのです。理屈では説明できないですが、これはすごいな、絶対来るなっていうのを、直感的にすごく感じました。
2010年当時、インターネット業界は世界的にも巨大産業になっていましたが、30年前、40年前はどうだったかと言うと、もともと専門性の高い研究機関の情報交換のために開発されたもので、一般の人が使うようなものではないと思われていて、インターネットにクレジットカードの情報を入力してモノを買うなんて、想像もできなかったと思います。だけど、数十年前のインターネット業界でも、インターネットは普及すると確信していた人たちがいて、10人中9人はわかってくれなくても、仲間たちと熱い志を共有していたのではないかと思います。そんな勢いを、そのときのソーシャルセクターになぜか感じたんですよ。酔っぱらっていたからかもしれないですけど(笑)。
――何か降りて来ていたのかもしれませんね(笑)。
社会起業家の方々が持つエネルギーというのは本当によく分かりますし、実際に会って話をすることで、肌で感じる熱量というものがあるのは確かだと思います。理屈では説明できないかもしれませんが、大きな出会いだったのですね。
下垣:そうですよね。
NPOは、悪く言えばお金がなさそうで、仲間内でわいわいやっているだけのように、傍からは見えるかもしれない。だけど、ちょっと見方を変えると、すごく可能性とやりがいのある、有意義な分野に早くから気づけた人たちだと思うのです。NPOの人々に実際に出会うまでは僕にも前者に見えていたのですが、会ってからは後者に見えるようになりました。