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かものはしプロジェクト 共同代表 青木健太 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――かものはしプロジェクトとして、カンボジア事業の終了後も継続されるインド事業についても伺いたいと思います。インド事業はいつから取り組まれているんですか?
 
青木:2009年頃に調査を始めて、実際に活動を始めたのが2012年ですね。
 
――かものはしプロジェクトの活動開始にあたっては、調査を重ねていちばんリスクの高そうなカンボジアを選んだということでしたが、インドもやはり同じようなプロセスで?
 
青木:そうですね。その頃にはかものはしプロジェクトも団体としてある程度規模も大きくなっていたので、かなりしっかりと調査しました。カンボジアでの活動の経験から、この問題はそう簡単に解決できるものではないけれど、一度始めたらそう簡単に手を引くわけにはいかないことも分かっていたので、慎重に見極めなければいけないと思って。本木を中心に、いろんな国を見て、文献も調べて、現地調査も行って、やっぱり次はインドだということになりました。
 とは言え、カンボジアとは事情が全然違っていて、たとえばカンボジアは若い国なので、制度でもなんでも、一緒につくっていくという感覚がある。官僚も「かものはし何やりたいの? 警察トレーニング? 何でも言ってよ!」という感じだったんですが、インドは歴史が長い分、プライドもあるし、すでに出来上がっている仕組みがあって、それが壁になったりもする。カンボジアとはまた違った、大きな困難があるなという感じがしました。
 
――「子どもが売られない世界をつくる」というミッションは同じでも、現地の事情が違えば、活動の内容ややり方も違うものになってくるということですね。
 
青木:全然違いますね。インドでは、大きく分けると法律の改正と被害者のリハビリの2つの事業を柱に活動しています。
 ひとつ目の法律改正ですが、インドでは児童買春や人身売買の加害者が野放しにされていました。その理由としては、インドは連邦制のため、州と州の連携がうまくとれていなくて、州をまたいだ犯罪を取り締まることが難しかったということがあります。広大な国土に十数億の人口がいて、地域によって言語も違いますし。そこで、州政府間・違う州で活動するNGO間の情報交換などをサポートし、連携を促すことで、加害者が適切に罰せられる仕組みをつくり、抑止力を高めることに取り組みました。
 いかに正義を実現するかということになりますが、捜査を行って人身売買の加害者を捕まえるだけでなく、加害者が適切な処罰を受けるとともに被害者の正義や人権を回復するため、裁判の支援も行います。2015年からはインド中央政府に働きかけて、州を横断して人身売買を取り締まれるような法律をつくることを目指していて、今年の5月には草案が発表されました。この法案が成立すれば、インドの人身売買の根絶に向けて、大きく前進するはずです。
 もうひとつのリハビリ事業では、カウンセリングなどのセラピーのメソッドを使って被害者の心のケアを行っています。ここでも地域の問題があり、売春宿から救出されて出身地に戻った被害者が、一貫性のある継続的なリハビリや必要なケアを受けられていないという課題があったので、パートナー団体と組んでシェルターなど関係機関の間の調整に入ることで、適切なリハビリを提供できる仕組みをつくることを目指しています。
 さらに、せっかく売春宿から救出され、出身地に戻ることができても、性産業にかかわったことを理由に、地域社会の中でひどい差別を受けることもあります。そうした課題に対しては、救出された被害者、私たちは「サバイバー」と呼んでいますが、サバイバー自身が声をあげ、人身売買という問題に対する理解を訴えたり、経済的自立を支援する活動にも取り組んでいます。
 
――カンボジアではとくに「予防」にスタンスを寄せていった結果、コミュニティファクトリー事業が生まれたということでしたが、インドではインドの事情に合わせて、また違う角度、側面から活動に取り組んでいかれたんですね。
(第四回「『問題解決ができるかどうか』に徹底的にこだわり続けたい」<11月22日公開予定>へ続く)
 
青木 健太(あおき けんた)*2002年、東京大学在学中に、「子どもが売られない世界をつくる」ことを目指し、村田早耶香氏、本木恵介氏とともに「かものはしプロジェクト」を立ち上げる。IT事業部にて資金調達を担当した後、2008年よりカンボジアに駐在し、コミュニティファクトリー事業を担当。
 
【写真:長谷川博一】

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