商品を通じて、エネルギーと応援を届けたい

かものはしプロジェクト 共同代表 青木健太 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――SUSUの商品を店頭で購入できるのは、現在ではシェムリアップの店舗のみですか?日本でも購入できるのでしょうか。
 
青木:すぐ日本に出店する予定はいまのところありませんが、徐々に増やしていきたいとおもっています。今年度中にオンラインショップでの販売から始めて、日本でも露出を増やして、セレクトショップに置いてもらったりしながら、そういった機会も探って行こうと思っています。カンボジアでも購入者の7割くらいは日本人ですから。
 
――観光に来た日本人が多いんですね。残りの3割は、日本人以外の観光客ですか? 現地の方も購入されるんでしょうか。
 
青木:ほとんど観光客の方ですね。日本人以外では台湾とか、欧米の方がよく来てくださいます。ゆくゆくはカンボジアの人にも買ってもらいたいので、プノンペンとか、また別の都市部へも出店したりして、販売チャネルを広げたいとは思っているのですが。
 
――日本や欧米からの観光客をメインターゲットとしているのであれば、現地の物価からすると高めの商品なのかなと思いましたが、現地の方でも買えるくらいの価格設定なんですか?
 
青木:基本的に現地だと、中流階級以上の富裕層でないと買えないと思います。
 SUSUは何よりも品質と手作りにこだわっているのでどうしても現地では高くなってしまいます。品質の追求の中でさまざまな良い素材をアジア中から探すということもやっています。たとえばいぐさはすべてカンボジアのものですが、それ以外の素材はほとんどタイから集めてきていて、きちんとした牛革だとかパーツだとか、そういう中でものづくりをするとどんどん値段は高くなる。だからむしろ、国外の工場で大量生産したB級品を輸入したもののほうが、カンボジアでは安く手に入るんですよね。
 だから、カンボジアの人たちが「やっぱりカンボジアでつくったものがいいよね」「ものを運べるバッグならなんでもいいんじゃなくて、こういう気持ちやこういうストーリーを一緒に運べるものがいいよね」という思いを共有して、ものの買い方を変えてくれないと、現地ではSUSUの商品はなかなか売れないかなと思います。
 ものの買い方を変えていく、ということもSUSUのチャレンジの一つです。僕たちが目指す社会では、作られていくトレンドや単なるコスパだけを軸にものを買うのではなく、作っている人の人生に興味をもったり、縁を感じたり、そこからエネルギーをもらったりすることを楽しんで物を買う、そんな買い方も増えていくと良いなと思っています。
 というのもそもそも僕たちNGOの職員が仕事を続けられるのは、そこで頑張って働いてくれている作り手の女性たちからエネルギーをもらっているからというところがあります。家庭的にも経済的にも困難な状況の中にいるのに前向きに、そして笑顔で頑張ってくれている。彼女達のそんな前向きなエネルギーに励まされて僕達自身も今日も頑張って働けている。もし、そのエネルギーをブランドや商品を通じて買い手・使い手の方に伝えることができたら、単なるバッグを超えて使い手に寄り添い応援するブランドに成長していくことが出来ます。
 とすると、私たちとしては、女性たちの成長を支援することを販売の売上にきちんとつなげていくことができ、もっと多くの女性たちの成長をより大きく支援していくことが出来るようになります。そうすれば資本主義の中で、ほとんどの工場はコスパだけを考えてやっていかなくてはいけないなかでも、私たちは困難を抱える女性たちの成長をブランドの核にしながら仕事を続けていく事ができます。それって資本主義がちょっとやわらかくなってないですか?
 観光客でも現地の人でも、日本にいる方々にも、そういう価値にお金を出して評価してくれる人が増えない限りは、ものの買い方って変わっていかないですよね。つまり、ものの買い方、消費の仕方っていうのは、どういう社会システムがいいかっていう投票でもあるので、僕たちはそういったところにもちゃんと思いをつなげて、モデルを提示して、資本主義をちょっとやわらかくできたらいいなと思っています。
 
――作り手と購入者のコミュニケーションを増やすためには、具体的にどのようなことをされているんですか?
 
青木:例えば一つは工房に訪問していただける方をどれくらい増やせるかということです。いま、HISさんが企画されているボランティアツアーとか、修学旅行生の工房見学の受け入れをすごく増やしていて、年間1,700人くらいの方が工房を訪れて、そのうちの多くの方が作り手の目の前で商品を買ってくださいます。
 鞄でも靴でも財布でも服でも、自分が使っているもののうち、工場に行ったことがある、作り手の顔を知っている商品って、あまりないですよね。それがもったいないような気がしていて、たとえばおばあちゃんに編んでもらったセーターとかって、服としての価値以上に、編んでくれたおばあちゃんの気持ちとかプロセスに思いを馳せて大事にしたくなるじゃないですか。そういう顔の見える関係性のものを少しずつ増やしてくことにも、SUSUとしてはチャレンジしていきたいと思っています。

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