小さな変化が大きな影響を与える事業
――いま、育て上げネットの活動費は、受益者負担や寄付金と税金の割合は、何対何くらいですか?
工藤:ざっくりですが、半分ちょっとが税金です。企業や個人会員の方からの寄付が約4分の1、お客様から直接いただくのが4分の1くらい。いま、行政事業についての案件は7,8割はお断りしています。
――なぜですか?
工藤:委託事業の多くは単年度事業で、清算払い。概算払いであっても4月開始の10月に最初の支払いということもあります。そのためキャッシュフローが非常に悪いんです。キャッシュがよほど潤沢でなければ、事業にかかる費用は借り入れるしかありません。行政事業であれば借り入れは比較的スムーズですが、返すときには当然利息をつけて返すわけです。ところが、行政から支払われる事業費に利息分は当然含まれませんから、この利息分が法人の負担になります。
単年事業後払いの案件は、いまの私たちでは受ければ受けるほど経営リスクが高まってしまいますので、多くの若者、子どもたちを支援できるという社会性と、経営的リスクを含む事業性のバランスが難しいです。本当に多くのお話をいただき、とてもありがたいのですが、経営的に全部を受けるようなことができないのが、経営者としての私の課題です。
おそらく、少なくないNPOが行政との協働において経営リスクと天秤にかけた経営判断をしていると思います。そのため、政治家の皆さま、行政の皆さまには現状をお伝えして、支払いサイクルの前倒しや、一般管理費計上についてお願いをしています。
実は2007年から2008年頃はそういうことがわかっていなくて、経営危機に陥ったんです。事業は広がる、売上は増える、多くの人を支援できるようになって、表彰されたりして、「俺たちすげー」みたいな感じで舞い上がっていたんですが、ふと足元を見ると、キャッシュアウトしかけている。パンク寸前の状態になっていたので、一回立ち止まろう、ちゃんと経営しようと。
――「補助金は麻薬みたいなものだ」とおっしゃっている方もいました。
工藤:そうですね。手術の麻酔のように適度にコントロールすればポジティブなものなんですが、適量を見失うと中毒になってしまったりして。私たちは経営危機からなんとか抜け出せたからよかった。全体の7割、8割が行政事業というところでも、キャッシュが回っていれば問題ないんですが、キャッシュがない状態でそればかりやっていると、ある日キャッシュアウトして終わりです。
――経営の難しさですね。活動の中で困難やしんどさを感じる部分はありますか?
工藤:就労支援から入るということは、ある種、子どもたちに現実をつきつけなくてはならない部分があります。夢、希望を語ることが、私たちは実はあんまり得意じゃない。
たとえば、中学校3年生の子に、「高校以降も進学したいのであれば、君には奨学金しか道がない」と言わなければいけないことがあります。奨学金を獲得するためには戦略が必要で、中学生に進学とお金とご家庭の現実をつきつけ、奨学金獲得のためにどうするかについて話すのはつらいです。ほとんどの中学生はそんなことを考える必要もないわけですが、奨学金については、高校2年生や3年生になって考えるようだと遅いので。進学の希望をかなえるためには必要だけど、やっぱりあんまりやりたくないですよ。給付型奨学金など、学ぶ意欲のある子どもたちが家庭の経済状況に左右されずに学べる社会を早く創りたいです。
将来から逆算した効率のいいがんばり方というか、現実的で効果的なアプローチというものがあるんですが、周りの友達がみんな海に行ったり、カラオケでわーっと遊んでいるときに、「もう少し現実を見よう」という話をしなければならない。その辺りが、現場の人間にとってはしんどいですね。