小学校4年生から39歳まで支え続ける

認定NPO法人 育て上げネット 工藤啓 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――いまご紹介いただいた3つの事業は、現在無業状態であったり、ひきこもっていたりする当事者やその家族の方々を対象にしたものですが、教育支援事業だけは予防的というか、少し違いそうですね。
 
工藤:教育支援事業を立ち上げたのは2006年なんですが、ジョブトレを中心に若者支援をやっていると、やはり低所得家庭で育っていたり、相関して低学歴である若者が少なくないということがわかります。私たちの仕事は、なんらかの理由があって仕事に就けていなくて、困っている状態の人をサポートすることなんですが、これは困ったから支援するという対処型支援にあたります。でも、そもそも困らないほうがいいわけですよね。
 育て上げネットのサポートを必要とされる方々のお話を聞いていると、分岐点のひとつは高校でした。現在の日本では中学を卒業するとほぼ100%の子どもたちが高校へ進学するんですが、そこから中退したり、卒業後の進路が決まらない子どもたちがいます。それがその後の人生に大きく影響するんですね。そこで、基本的には中退率が高いなど、学校の先生だけでは十分な対応が難しい高校で先生方とともに子どもたちの支援を行っています。毎年、100校ほどの学校と連携しています。
 
――具体的にはどのような支援をされているのですか?
 
工藤:いちばんやりやすいのは、授業を一コマもらう講座型ですね。育て上げネットで開発した、お金やキャリアをテーマにした講座をやらせていただいております。そういった連携しやすいところから関係をつくっていく中で、私たちの活動についても理解していただき、「困っている生徒がいるんですが」とか「一緒に生徒指導をやりませんか」とお声掛けいただく高校が出てきます。そのようにして少しずつ学校の中に入らせていただいています。強く連携が進んでいる学校では、職員室に育て上げネットの机があって、先生方と一緒に進路指導をしたり、空き教室で進路相談を行ったりしています。
 
――入口となる講座として、お金と仕事をテーマにした新生銀行との連携プログラム「MoneyConnection®」や、困ったときの相談先を理解するプログラム「Life Connection」を提供されているんですね。
 
工藤:そうですね。こうした講座については、北海道から沖縄まで、全国で展開しています。ご依頼いただいた高校にはなるべくうかがえるよう努力しています。
 そうした取り組みの中で、高校で困った状態になりやすい子どもたちの背景がわかってきたので、高校入学前の早い段階から支えようということで始めたのが、小学校4年生から中学3年生までの子どもたちを対象とした学習支援事業「まなびタス」です。生活保護受給家庭や生活困窮家庭の子どもたちを中心に、行政との連携事業を含めて120名ほどの学習と生活をサポートしています。もちろん、経済的な課題はなくても、不登校とか、学校でいじめられている子とか、ルーツが外国にあったり、勉強が苦手だったりする子どもたちもいます。
 就労支援から逆算して支援を始めた事業なので、教育の部分だけやって「後はどうなるかわかりません」ではなく、小4から中学卒業まではもちろん、高校に行ってからも何か困難が発生するようであれば支えて、高校を中退したり進路未決定であれば就労まで支えて、就労してからも支え続ける。早い年齢から家族を含めて支えていき、就労支援まで一貫して支えられるのが育て上げネットの特徴のひとつです。
 
――子どもはなぜ対象が小4からなのですか?
 
工藤:週5日以上オープンして、夏休みもオープンできる余力がないと、学童保育など保護者のニーズを満たすことができません。特に家庭や社会に居場所がないと、僕らがオープンしていないとき独りになってしまうことになります。
 私たちの学習支援はまだ経営上週3日くらいが限界で、夏休み中は合宿やお祭りなど通常に開所とイベント開催といった活動しかできていません。そのため、いまはまだ小学校4年生からということにしています。
 
――学童と組むというのは、活動趣旨とずれてしまったりするんですか?
 
工藤:そんなことは全然ありません。まだ学習支援事業は始めたばかりで、事業化への道を歩んでいる段階です。外部との連携がスムーズに回るまでの体力が不足している状態です。今後の課題として社会リソースとの協働の在り方も考えていきたいと思います。

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