ビジネスとして若者支援に取り組みたい

認定NPO法人 育て上げネット 工藤啓 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――日本に戻って来られて、最初はどのような活動から始められたんですか?
 
: 2つのことに取り組みました。ひとつはシンポジウムの開催です。
 当時はまだ若年無業者とかニートといった言葉が使われていなくて、不登校、ひきこもり、フリーターというのが、困難を抱える若年層を表すひとつのアイコンでした。そこで、ひきこもり・フリーター支援を打ち出して、議員の先生や有識者の方々を集めてシンポジウムをやったんです。本当に困っている人が来るのかな、社会はこの課題に関心があるのかなと思いながら、1年くらいかけて全国で開催しました。
 もうひとつは、全国にある宿泊型の支援機関の訪問調査です。私たちが就業に特化した若者支援の活動を始める前から、不登校の子や障害のある子、児童虐待を含めて家にいられない子、少年院から出て居場所を探している子といった少年向けの宿泊型の支援というものは、けっこうあったんですね。なので、そうした施設を仲間たちと手分けして訪問して、「どういう事業をしているのか」「どのようなひとが入所されているのか」「事業としてちゃんと回っているのか」「お金はどうなっているのか」といったことをヒアリングして、本にまとめました。
 そんな活動を細々としているとき、厚生労働省から連絡を受けました。一般の人間に国から電話が来るというのは想定し得ないことで、何か悪いことしたかなって思ったんですが(笑)、伺ってみると、主にフリーターを対象とした若者対策を考えているということでヒアリングを受けました。そこで、もうなくなってしまった事業ですが、全国に14か所つくる「ヤングジョブスポット」事業を横浜で立ち上げることになりました。そこで仲間を集め、フリーター支援事業に取り組みました。
 結局、横浜は遠いし、国の事業のよさとやりづらさの両方があり、当時の仲間たちが事業を引き継いでくれるということなので、東京都立川市で育て上げネットを法人化しました。
 
――現在はどのような活動をされているのですか?
 
工藤:現在は大きく分けて4つの事業に取り組んでいます。無業の状態にある若者が社会的所属を見つけ、働くことと働き続けることを支援する就労支援事業。何らかの事情で学校や職場、社会との接点を持てない子どもをもつ保護者向けの支援事業、高校を中心とした教育支援事業、そして、経済的に困難な家庭を中心とした小学校、中学校に通う子どもたちの学習と生活を支援する事業です。
 

――就労支援事業ではどのようなことをされているのですか?
 
工藤:「働きたいけれど、なにから始めていいのかわからない」という若者に、それぞれの悩みや希望に合わせて、「働く」と「働き続ける」を実現していくための支援サービスを提供しています。個々の若者の状態によりますが、長く社会生活から離れていた場合には、安心して日々通える場の提供になります。実際に研修作業や実習として地域活動や農家、企業さまのもとで多様な経験を積むものや、コミュニケーション系のワークショップ、プログラミングなどのITスキルを身に付ける講座なども準備しています。もちろん、一般的な就職活動のための支援も行います。最近では、インターンシップの受け入れ企業さまも増えてきているため、実際に職場で働いてみる機会も多く作れるようになりました。そのほか、地方に合宿に行ったり、スポーツをしたり、お祭りで屋台を出して回してみるといったこともしています。
 
――それは受益者負担のプログラムになるのですか?
 
工藤:基本的には受益者負担です。しかし、利用料や往復の交通費など実費が支払えない状況の若者も多くいます。非営利組織には第一顧客と第二顧客という考え方があります。第一顧客は受けたいサービスを購入することができる方。第二顧客は、「サービスを受ける必要があるのにお金を払えない方」の代わりに、お金や時間を提供し、協力してくれる方です。
 ジョブトレには、払える方は自分で受講料を払っていただいています。しかし、対象は無業の若者ですから、お金がなくて自分で払うことは難しい方も多い。そうした方のジョブトレ参加費には、個人や企業さまのご寄付により一定の諸条件の下で無償利用ができる枠組みや、交通費分もこちらで負担させていただくこともしています。J.P.モルガンとの「Youth Drive」や西友との「西友パック」などのようにパッケージでご支援をいただくことも少しずつ増えてきました。
(第二回「小学校4年生から39歳まで支え続ける」へ続く)
 
工藤 啓(くどう けい)*認定NPO法人育て上げネット 理事長
1977年、東京生まれ。米ベルビュー・コミュニティー・カレッジ卒業。2001年に任意団体「育て上げネット」を設立し、若者の就労支援に携わる。2004年にNPO法人化し、理事長に就任。現在に至る。著書に『NPOで働く- 社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる――“はたらく”につまずく若者たち』(エンターブレイン)、『無業社会 働くことができない若者たちの未来』(共著・朝日新書)など。
金沢工業大学客員教授、東洋大学非常勤講師。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員、「一億総活躍国民会議」委員等歴任。
ブログ http://ameblo.jp/sodateage-kudo

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