ビジネスとして若者支援に取り組みたい
――法人化からもう12年ですね。
工藤:いつの間にかずいぶん遠くまで来ていました。気づけばこの業界では長老のほうですね(笑)。
――最初からビジネスとして若者支援をやっていかれると決めていたということでしたが、NPOという法人格にされたのは、なぜですか? 活動に携わるスタッフの待遇改善などを考えると、株式会社のほうがよかったのではないかとも思ったのですが。
工藤:株式会社のほうがやりやすいのかなと思いつつ、政策への関与、多様なステークスホルダーの協働などなど、いろんなことを考えてNPOにしました。私の両親のところもNPOなんですよ。日本にNPOに関する法律ができるずっと以前から活動していましたから、制度ができてからは、かなり初期に法人格を取得していると思います。
私はその中で育ってきていますから、「NPOは食えない」というイメージがまったくなかったんですね。
NPOで働くということについてなかなかご両親の理解が得られなくて大変だったという話もよく聞くんですが、私はむしろ、これからはNPOも事業化して、代表者も職員もちゃんと報酬や給与を受け取る時代が来るし、そういうNPOを創っていかなければならないんだ、と常々言われてました。NPOを知らないときから「そういうもんなんだな」というインプットがあったのは、NPO法人を立ち上げるにあたって少なくない影響があったと思います。
――少しずつ変わってきていますが、NPO=ボランティアの延長、無報酬というイメージはいまだ根強いようですね。
工藤:若いNPO経営者から価格設定に関する相談を受けることもあります。お金を払ってサービスを受けることができない人のために、寄付を集めたりするんですが、そもそも価格がついていないと、そのサービスの価値や価格もわかりにくいし、「いくらあったら何ができるのか」ということを人に説明できない。だから、両親からは「価格をつけろ」ということも、最初から言われていました。価格をつけた上で、それを払えない人にどうサービスを提供するかを考えて実践するのがNPOだと。いまのようなビジネスモデルやサプライチェーンを考えるというようなスタイリッシュな話ではなく、もっと本質的にお金をもらっていいんだという話だったんですけどね。
――アメリカ留学中にヨーロッパのお友達から若者支援を進められたということでしたが、その頃、ヨーロッパではすでにそうした若者を支援する体制が整えられていたんですか?
工藤:欧米には、ユースワークという概念が100年以上前からあるんです。おそらく、移民や難民といった問題がずっと以前からあって、ある一定の段階で難しい状況に置かれる人が出やすい環境だったのでしょう。そうした課題に早い段階で介入して社会に再統合するということを、ずっとやってきているそうです。
日本だと、「若いんだからまだ大丈夫」という話になってしまいがちなんですが、若いときこそ支援を厚くしていかないと、将来社会的なコストになる。そういう話がリアルなものに感じられたので、早いほうが投資効果も高いし、社会全体の構造から考えても、日本でも若者支援が必要だなと思うようになりました。
ただ、当時はソーシャルインベストメントという概念がよくわからなくて、最初は面食らいました。ビジネス学部だったので、ROI(Return On Investment=投資収益率)の勉強はしていましたが、頭にソーシャルがつくと、全然違うものになるんですよね。
インベストメントは、たとえば100円を市場に入れたら1,000円になって返ってくる可能性があるみたいな話なのに、ソーシャルが頭につくと、100円が0円になってしまうこともある。その代わり、自分が時間やスキルやお金を投資したことで、問題が解決されて、社会がよくなるというリターンがある。そのリターンの中に金銭が含まれるかどうかはケースバイケースです。
そのような話を現地のひとたちに聞いて、自分の人生をどうするか考えたときに、そういう生き方もおもしろいなと思ったんです。