児童養護施設の子どもたちのスムーズな門出を応援したい
――「自立ナビゲーター」は何名くらいいらっしゃるんですか?
林:2014年は登録ボランティアさんが350人くらい。自立ナビを利用した子どもたちは53人でした。
――計算上は子どもひとりに対してボランティアが7人弱いることになりますが、自立ナビゲーターは毎月マッチングし直すんですか?
林:ひとりが1年間ずっと担当します。ただ、月1とは言っても、都合が合わなくて会えなかったり、会いたくないなっていうときだってありますよね。そういうときは、しかたがないから、無理に会えとは言いません。「アトモプロジェクト」はほかにもいろいろありますから。
たとえば、「アトメル」というメールを週に1回配信しているんですが、お役立ち情報やイベントのお知らせもあれば、寄付をいただいたときに「欲しい人はいますか?」と希望者を募ることもあります。
――寄付にはどんなものがあるんですか?
林:お米とかもあるし、レストランの招待券をいただくこともあります。これまででいちばん人気があったのは、スウェーデン訪問の企画でしたね。スウェーデン在住の支援者の方が、旅費も負担してくださって、自宅にホームステイさせてくださるというもので、応募が殺到して。2名までということだったので、この時は作文で選抜しました。お米なんかだと、単純に先着順なんですけど。
ほかに、「振袖イベント」も人気があります。成人式を迎える子どもたちを対象にしたものなんですが、振袖を一式そろえて着付けをして写真を撮って、って結構高額なので、自活している子どもたちにはなかなか難しいんですよね。それを、ボランティアさんが着物を集めて、着せて、撮影して、アルバムにして渡してくださるんです。登録ボランティアさんの中には、カメラがプロレベルの方もいらっしゃるので、きちんとしたものをつくっていただけて、やっぱり女の子から人気がありますね。今年も13名の女子と2名の男子が参加しました。
――きっと一生の思い出になりますね。スウェーデンにお住まいの方は、なにをきっかけにボランティア登録されたんですか?
林:その方は実は登録ボランティアさんではなかったんですが、たまたまブリッジフォースマイルのホームページをご覧になって、こういう環境の子どもたちがいるんだということを知って、「なにか私にできることはないかしら」「外国を訪ねるという経験も子どもたちの役に立つんじゃないかしら」と思って、お問い合わせくださったんだそうです。とは言え、見も知らぬ人に、しかも海外で子どもたちを預けることはできないので、日本にいらした機会にお会いして、考えうるいろんなリスクなどを話し合って、その上でやってみることにしました。
児童養護施設の子どもたちは、厳重に守られています。時には過保護に思えることもあるくらい。大切な子どもたちですから、職員からすれば「守らなければいけない」という意識が強いのは当然なんですが、あまりに閉鎖的だと、必要な経験の機会まで子どもたちから奪ってしまうことになりかねない。一般家庭でも、子どもたちに「好きなようにやりなさい」というのは勇気が要ることですから、自分の子どもではない子どもを預かって、安全に育てる責任を負っている施設が慎重にならざるを得ないということは理解しています。
一方で、子どもたちはもっといろんな経験をして、失敗もしながら学んでいく必要があるんじゃないかとも思うんです。たとえば、施設ではインターネットを使える環境もかなり厳しく制限されているんですが、インターネットのリスクは、一般家庭にもあるものだし、上手につき合っていかなければならないものですよね。安全か安全じゃないかという感覚を身につけることもそうだし、失敗して問題を起こしてしまった場合にどう対応していくかということも学ばなければならない。だけど、施設の職員の方々も多忙ですから、トラブルが起きてから対処するよりは、先に全部ブロックしておくほうが安心だという気持ちもわかります。それは施設を批判してもしかたのないことなので、どうしたら施設でインターネットとのつき合い方を学べるようになるかを考えるしかない。それで、たとえば「私たちが代わりにフィルタリングした上で、安心して使えるようにしますよ」という役割をしていかなければならないと考えています。