投資だから築ける長期的な関係

ARUN 代表 功能聡子

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功能聡子さんのインタビュー第1回はこちら:「社会性と経済性を同時に目指す新しい投資のかたち
 
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――投資は寄付よりも、コミットメントが強いものということですね。「一緒に」やっていく姿勢をより強く感じます。
 
功能:寄付にもいろいろありますし、寄付を否定するつもりは全くありません。ただ、寄付は「お金を出したよ、活動がんばってね」「ありがとう」と、「出して終わり」になりがちな側面を持っています。投資の場合は、投資の成果をより強く意識します。なんらかのかたちで回収することが前提となっていますから、お金を出したら、その活動を追いかけ続けることになります。必然的により長期的な関係になります。それは、出す側にとっても受け取る側にとっても、とても面倒くさいことでもあります。
 
――投資先の取り組みに対して、投資家から、事業や経営に関するアドバイスであったり、「自分がつくりたいのはこういう社会だから、こういうことをやってほしい」というような要求が出されたりもするんでしょうか。
 
功能:そうですね。まず、投資をする前に、起業家とじっくり話をします。なにを達成したいのか。そのためにどんな事業をやっていくのか。起業家の持っているビジョン、ミッションを明確にすることはもちろん、達成への心意気、ガッツのようなものも、事業を成功させるためにはとても大切です。ですから、時間をかけてコミュニケーションをとり、信頼関係をつくります。
 
 そのときに私たちは、ARUNが投資するにあたって、どんな社会的リターンを出していきたいのか、投資家の意見をヒアリングしていますから、それらも反映させながら、議論していきます。投資が始まってからも、事業がうまくいったりいかなかったり、本当にいろいろなことが起こりますから、その都度、経営支援、財務のアドバイスや技術教育などの支援を、できる限りやっていきます。ARUNには、そうした支援ができるようなプロボノ人材がプールされていて、彼らのうち、力を発揮できる方が現地に行ってアドバイスをすることもあります。
 
――現地の起業家や社会変革のリーダーを探したり、投資先を選定したりといったプロセスは、どのように行われているのですか?
 
功能:カンボジアにも事務所があって、現地スタッフがネットワークをつくったり、起業家の方と会ったり、ビジネスプランコンペを開いたりしながら、現地の起業家を発掘しています。
 その中で、デューディリジェンス(Due Diligence)というのですが、財務諸表などを含む様々な書類を提出してもらったり、不動産などの資産を調査したり、事業計画を見せてもらったりしながら、質問を投げかけて対話を重ねていきます。そうしたプロセスを通じて、私たちも事業内容への理解を深めると同時に、起業家の方にも気づきがあり、一緒に事業ができそうだと判断できたら、投資を決めています。
 
 それでもやはり、投資を決めた事業がビジネスとして広がらないとか、うまくいかないこと、大変なことはたくさんあります。ここが寄付とは違うところだと思いますが、投資の場合は、その事業の状況について、パートナーに説明する責務があります。事業の状況を定期的にレポートするのですが、うまくいっているときはとくに何も言われません。でも、事業の状況が悪化すると、本当にいろいろな反応があります。「社会的投資」に理解のある投資家の方ばかりなのですが、事業がうまくいかなくなると、「なぜそんなところを投資先に選んだのだ」「資金を引き揚げるべきだ」とおっしゃる方もいらっしゃいます。一方で、「これは社会的投資なのだから、借金取りのようなことをするべきではない」という方もいらっしゃるなど、考え方によって、反応は実にさまざまです。

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――もともと「社会的投資」というコンセプトに賛同して参加されているのですから、厳しい意見の投資家の方も、経済的に損をすることを嫌がっているわけではないのですよね? 資金の引き揚げを主張されるのは、うまくいかなそうな事業に投資を続けるよりは、見込のあるほかの社会的事業に回したほうがいいというような考えもあるのでしょうか?
 
功能:それぞれいろいろな意味合いがあると思います。
 甘やかすことは事業のためにも起業家のためにもならないから、厳格な態度で臨むべきだという親心もあると思いますし、自分たちは社会的投資という文化を日本につくるフロンティアであるという自負もあります。いままでにない仕組みづくりに取り組んでいるので、これが正解と言える答えはありません。その中で、本当に社会のためになるのはどんなモデルなのか、投資家がどんな局面でどんな選択をすることが起業家のためにもいいのか、社会的投資の仕組みとしてあるべき姿はどういうものなのか、投資家一人ひとりが、真剣に考えてくださっています。
 金融のバックグラウンドのある方の中でも、銀行と証券とベンチャーキャピタルでは、考え方は当然違います。ご自身のバックグラウンドを踏まえて社会的投資のあるべき姿を考えたときに、厳しい意見が出てくることもあるのだと思っています。
 
――投資家には、どんな方が多いですか? 
 
功能:男性のほうが若干多いですが、年齢も20代から70代までと幅広く、まさに老若男女を問わず参加していただいています。職業もさまざまです。金融関係のお仕事をされていて社会貢献型の金融システムに関心を持たれた方と、国際協力のお仕事をされていて援助と違ったかたちでの関わり方に関心を持たれた方が、初期に参加されたメンバーには多かったのですが、ほかにも事業会社に勤めるビジネスパーソン、研究者、経営者の方もいますし、主婦の方やリタイアされた方もいます。
 
――ということは、投資家の間でも投資経験にかなり差があるということですね。まったく違う視点からいろんな意見が出てくると思いますが、そのときはどのように折り合いをつけられるんですか?
 
功能:無理やり折り合いをつけるようなことはしないようにしていました。
 多様性というか、投資をさまざまな視点から見るということ自体が新しいことだと思うんです。参加されている投資家の中には、その点も楽しんでいる方もいらっしゃいますが、実はこれは社会的投資をつくっていく上でとても大事なことだと考えています。
 
 社会的投資は、これまでの金融の常識に縛られると実行できないんです。経済的リターンを確保するということを考えると、カントリーリスクや為替リスクは大丈夫なのか、そもそも非公開株式に投資してどうするんだ、という話になってしまいますから。だから、ARUNが社会的投資を始めようとしたとき、難しいと言われたのではないかと思います。
 
 投資の常識は、これまでの長い歴史の中で培われてきたものであり、それなりの理由もある大事なものですから、その知識や経験を持ち寄ることは、非常に重要なことです。社会的投資は新しい取り組みではありますが、やみくもにやっているわけではないのです。これまでの経験とまったく新しい視点とを闘わせつつ、社会的投資というものはどうあるべきか、皆で考えながらつくっていく。
 様々な意見がぶつかり合う中で、現地の起業家から学ぶことも多いです。投資した事業がうまくいかなくて、起業家と投資家の板挟みで苦しい思いをしたこともありますが、その起業家は決して逃げなかった。ずっと私たちと向き合い続けていました。そのことに、日本の投資家の方々、とくに金融の常識を持っている方ほど、感銘を受けていました。
 
――海外だから、逃げようと思えば簡単に逃げられますよね。その起業家はなぜ逃げなかったのでしょうか。
 
功能:それはきっと、起業家と投資家との間に信頼関係があったからだと思います。
 ふつうの投資は、どれだけ経済的リターンが上がるかで投資を決めると思いますが、社会的投資の場合、投資を決める根底にあるのは、その事業がもつビジョンへの共感です。どんな社会をつくりたいか。だから、ふつうの投資よりも信頼関係がゆるがないのかもしれません。
 共通の目的に向かっているという一体感がありますから、投資というかたちで託された信頼に応えたいという思いがあるんだと思います。だからこそ、いちばんはじめに信頼関係をしっかりつくっておくことが大事なんですよね。

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――いま、ARUNの投資先でうまくいっている事業には、どんなものがありますか?
 
功能:いま、カンボジアでがんばっている事業は、ソーラーパネルを普及させて、無電化地域をなくしていこうというものです。同時に、石油やディーゼルに頼った発電から太陽光発電に変える事で環境問題も解決していこうとしています。
 家庭もそうですし、学校や病院といった公共施設にも普及していて、家庭に対しては数百ドル程度の払える金額で販売し、一括支払いが難しい場合には分割払いも受け付けています。カンボジアでは電気にアクセスできる家庭は3割程度にすぎず、農村ではさらに低いことから、注目されている事業です。
 
 カンボジアでよいものをつくって、それが国内外で認められていくことは、カンボジアの人々の尊厳や自尊心を高め、誇りになっていきます。「自分たちはだめだよね」とかつて言っていたカンボジアの人々が、「カンボジアのお米はおいしいから、世界中の人に食べてもらいたい」と自信を持って言えるようになる。そういう変化はとても素晴らしいものだと感じています。
 それは、援助だけでは達成できないものだと思います。相手国の政府を対象に産業育成政策を支援しても、なかなか実際のビジネスは生まれません。現場に行ってパイロット事業を一緒にやることもありますが、外から来た親切な物好きがやっている、という感じで、なかなか現地に根付かない。そこに、誰が経営するのか、どうやって収益事業化していくのかという観点やビジネススキルを入れないと、長続きしないし広がっていかないんですよね。
 
――社会的投資の活動をしていて、喜びややりがいを感じるのは、どんな瞬間ですか?
 
功能:うれしい瞬間はたくさんありますよ。投資先の企業で働いている人が、最初に会ったときと、働き始めてからしばらくしてからでは、全然表情が変わるんです。前はあまり話をしなかった人が自信をもって人と語り合えるようになっていたりとか。仕事を通して、自分のスキルや仕事や、自分自身の存在に自信を持てるようになったから。そういう変化を感じられる瞬間は、とてもうれしいです。
 また、起業家からの信頼を感じられる瞬間もうれしいですね。ARUNを信頼して、一緒にやっていこうというメッセージをいただくととてもうれしいし、大事にしたいと思います。いただいた信頼に応えるためにも、もっともっと日本からの投資を増やしていきたいと思っています。
 
 グローバルな社会的投資の市場は年々成長しており、市場規模は一説には600億ドルと言われていますが、日本からの投資はほとんどないんです。ある機関の調査では、1,000万ドル以上の社会的投資ファンドが世界中で146あると報告されていますが、その中に日本の機関はひとつも入っていません。社会的投資市場では、日本の存在が全然見えないんです。
 それはとても残念なことだと思っています。日本の存在が現地で見えるくらいに日本からの社会的投資を拡大していきたい、それはお互いの理解をより深めることにもなると思うんです。そうすることで、日本も世界の動きに加わり協力することができます。だから、社会的投資の流れをもっともっと大きくしていきたいですね。
 
(第三回「誰もが生き生きと才能を発揮できる社会を」へ続く)
 
功能 聡子(こうの さとこ)* 国際基督教大学(ICU)卒業後、民間企業、アジア学院勤務の後、1995年よりNGO(シェア=国際保健協力市民の会)、JICA、世界銀行の業務を通して、カンボジアの復興・開発支援に携わる。カンボジア人の社会起業家との出会いからソーシャル・ファイナンスに目を開かれ、その必要性と可能性を確信し 2009年ARUNを設立。2014年にNPO法人ARUN Seedを設立、代表理事を務める。

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